2015年お正月イベント~ウォルヴァンシア一家+α編~
2015年一月中に、WEB拍手のお礼にUPしていたものです。
◇◆◇◆◇2015年・エリュセード神社へようこそ!④◆◇◆◇◆
レイフィード
「いやぁ、ごめんね~。せっかく来てくれたのに、君にも手伝って貰う事になっちゃって」
型の中でクルクルとピックで転がされていく丸い食べ物こと、たこ焼きを視線の先に置きながら、『貴方』と、ウォルヴァンシアの国王『レイフィード』は、せっせと手を動かしていた。
新年の挨拶と共にやって来た、ウォルヴァンシアの王族一家が営む『たこ焼き屋さん』。
お正月限定で開かれているそのお店は、現在、王兄であるユーディスと妻、夏葉が出前と称して、ラブラブ二人きりの新年デートに繰り出している為、非常に人手不足であった。
いや、正確に言えば……、ユーディスと夏葉が出かけてから、お客さんの数が増えていき、レイフィードと息子のレイルだけでは手が回らなくなってしまったのだ。
三つ子達にいたっては、まだ小さいし、とてもではないが、戦力にはならない。
その為、新年の挨拶をしにやって来た『貴方』は、これらの事情から彼らを手伝わざるを得なくなった……というわけである。
レイフィードとレイルが、たこ焼きの調理過程を全て行い、『貴方』はフードパックに詰めていくという役割分担となっている。
レイル
「あ、あと……何個焼けば、休憩出来るんだっ」
レイフィード
「レイル君!! 泣き言を言っちゃいけないよ~!!
あぁっ、そこっ、焦げちゃってるよ!! 急いでひっくり返して!!」
レイル
「ああああああっ!!」
三つ子
「「「れいくん、どんま~い!!」」」
『貴方』の足下で応援係を担当していた三つ子達が、後ろを振り返り、ぴょこぴょこと飛び跳ねながら、レイルへとエールを送る。
ちっちゃな身体と、可愛らしい天使のような三つ子達の姿。
それは道行く人々の心を見事射止めては、たこ焼き屋のさらなる繁盛へと繋げていく。
……同時に、レイフィードとレイルの作業も増えるというわけでもあるのだが。
――……。
それから一時間、出店はこれ以上ないほどに繁盛した。
あとに残ったのは、右手がプルプルと痙攣し、真っ白に燃え尽きたレイフィードとレイル。
『貴方』は近くの自動販売機から珈琲を購入し、それを二人へと差し出した。
レイフィード
「あ~、有難うね~。……はぁ、疲れた身体に沁みいるよ」
レイル
「すまないな。……ふぅ」
用意していた材料も全て使い果たした為、たこ焼き屋を閉店したレイフィード達は、砂糖入りの珈琲をひと口、また、ふた口……。疲労の吐息と共に視線がここではないどこかへと沈んでしまっている。
レイル
「暫くは……、たこ焼きとは無縁でいたいところだな」
レイフィード
「ははっ、大丈夫だよ、レイル君……。
ウォルヴァンシアには、たこ焼きはないからね~。
でも、僕的には……丸い物も見たくないかなぁ」
三つ子
「「「とうさま、れいちゃん、しっかりするのぉ~」」」
ゆさゆさ、と、三つ子達が二人を揺する様を眺めながら、『貴方』も丸椅子に腰かける。
レイフィード
「なんか……疲れすぎたせいか、甘い物が食べたくなるね~」
レイル
「たこ焼きの匂いがしない物なら、何でも良い気分ですよ……」
百個、二百個の問題ではなかったからか……。
たこ焼き職人と化した時間が長すぎたせいか、暫しの間完全に意識を遠くへと飛ばしたレイフィードとレイルは、気分直しに『貴方』と三つ子を連れて、『クレープ屋』さんに行く事となった。
――イリューヴェル&ガデルフォーン合同出店・クレープ屋前。
ディアーネス
「グラヴァードよ……、先程から客が寄り付かぬが、何故であろうな?」
グラヴァード
「……」
『貴方』とウォルヴァンシア一家が『クレープ屋』へと辿り着くと、店の主である二人……、イリューヴェル皇帝グラヴァードと、ガデルフォーンの女帝ディアーネスが鉄板の上でジュージューとクレープの生地を焼きながら面倒な気配を醸し出していた。
何というか……、始終無言で鉄板の方だけを向いているイリューヴェル皇帝の不機嫌なオーラが凄まじい。
その隣にいるガデルフォーン女帝も、冷やかな眼差しでイリューヴェル皇帝に何かと声をかけているが、無視のされ続けで以下同文。
レイフィード
「あ~らら、凄い威圧感だねぇ~」
レイル
「父上、漂って来る匂いは甘いのに、お二人の周りだけ恐ろしい絶対零度の恐ろしい気配が……」
レイフィード
「むしろ、何であの二人が一緒に合同でクレープ屋さんを始めちゃったのか、
僕はまず、そこから色々聞きたいんだけどね~」
下手にガデルフォーン女帝と言葉を交わせば、自分が絶対にキレてしまう事を、イリューヴェル皇帝は自覚しているのだ。だからこそ、無様な醜態を晒さないようにと、この新年だけは耐えてみせるぞと……涙ぐましい努力を無言に込めて生地を焼いているのだろう。
『貴方』は三つ子達を連れて恐る恐る、二人の許に近付いてみる。
ディアーネス
「ん? あぁ、お前も来たのか。新年早々、ご苦労な事だな。今年もよろしく頼む」
グラヴァード
「……」
ディアーネス
「グラヴァードよ、足を運んでくれた客人に無礼であろう。
きちんと顔を見て、挨拶をせよ」
グラヴァード
「……」
ディアーネス
「……」
――ドスッ!!!!!!
瞬間、答えたら負けだと我を張っていたイリューヴェル皇帝の頭に、ガデルフォーン女帝の長槍の鋭い先端が見事に突き刺さった!!
ブシューッと、派手な音を立てて噴き出した紅に、レイフィード以外の全員が阿鼻叫喚の悲鳴をあげる。
レイル
「なななな、何をやっているんですか!! 血がっ、血がああああ!!」
一応、相手は他国の女帝陛下だ。レイルは「この馬鹿あああああ!!」と叫びたいのを我慢して、律儀に敬語を使いながら、槍の先をぶすぶすとイリューヴェル皇帝に突き刺している女帝陛下を止めにかかった。
その時、買い出しから帰ってきたガデルフォーンの宰相、シュディエーラがのほほんと慈愛の微笑を浮かべながら、店へと戻って来た。
紅のあれでそれなものを垂れ流しているイリューヴェル皇帝の傍へと近寄り、べたんと貼り付けたのは、治療用の大きな絆創膏である。
消毒も治療も一気にやってくれる代物だ。
シュディエーラ
「いけませんよ、陛下……。
イリューヴェル皇帝陛下は、貴女と違って、色々と繊細な御方なのですから、あまりいじめすぎては」
ディアーネス
「我を無視するこやつが悪い。
客人が挨拶に来ておるのに、全く礼儀を弁えておらぬのだからな」
レイフィード
「多分それ、君の存在を認識しない為に、意識を無にしてるからじゃないかなぁ……」
ディアーネス
「ん? レイフィードよ、何故その様に疲弊しきった顔をおる?」
お客さんの全くいないクレープ屋に、『一時休店中』の看板を置き、一同は奥行きのあるクレープ屋の中に入った。
シュディエーラ
「はぁ……。先程のように、私共の女帝陛下とイリューヴェルの皇帝陛下の不仲のせいで、
朝から僅かな人数のお客人しか来てくださらないのですよ……。
あれほど、今日だけは仲良くしてください、と、何度もお願いしたのですけれどねぇ」
ディアーネス
「我は真面目に努めていたであろう?」
グラヴァード
「……こちらの作業を邪魔しては貶してきた癖に、よくそんな事が言えたものだなっ」
レイフィード
「おや、グラヴァード、ようやく喋る気になったのかい?」
三つ子
「「「おじちゃん、いたそうなのぉ~、だいじょうぶ~?」」」
丸椅子に座り項垂れているイリューヴェル皇帝の足下で、三つ子達が心配そうにその姿を見上げている。
んしょ、んしょと、膝の上によじ上る三つ子達の頭を撫で、「あぁ、心配してくれてありがとう。お前達は優しいな」と、力なく微笑むイリューヴェル皇帝。
けれどその眼差しは再び剣呑な様子へと様変わりし、ガデルフォーンの女帝を睨み付ける。
グラヴァード
「新年早々、貴様と顔を合わせる事自体腹が立って仕方がなかったが、
いちいち俺の邪魔をしてくる事が我慢ならん!!」
しかも、イリューヴェル皇帝がせっかく一生懸命作ったこの日の為の生クリームやチョコクリームやその他諸々の材料を勝手に悪い意味で改良し、物凄く不味い物に変えてしまったガデルフォーン女帝である。
レイフィード
「まぁまぁ。新年から怒っても良い事ないよ~。
大体、こうなる事なんて予想済みだっただろう?
それなのにコンビを組んだ時点で自業自得だよ」
グラヴァード
「仕方がないだろう!! クジ引きの結果には絶対に文句を言うなと決められているんだ!!
だから……、だからっ、……こっちは我慢して無言を通していたというのに!!」
レイフィード
「口開いちゃったら、相手しちゃうもんね~……君」
グラヴァード
「うぅっ……」
レイル
「イリューヴェル皇帝も色々とご苦労をされているようで……、お察しいたします」
レイフィードとレイルに両サイドからぽむぽむと肩を慰めるように叩かれ、グラヴァードは「早く帰りたい……」と、情けない涙を零しながら、腕に抱いている三つ子の一人を抱き締めた。
そこへ、シュディエーラが大きなお盆を手に戻って来る。
シュディエーラ
「皆さん、お雑煮を作りましたので、よろしければいかがですか?」
レイフィード
「あぁ、いいね~。丁度温かい物が食べたかったところだよ~」
ディアーネス
「慣れぬ商売をしたせいか、小腹も空いておる。食べるとしよう」
グラヴァード
「お前、何もしてないだろうが!! 邪魔ばかりして、全く役に立ってな、痛っ……」
ズキリと、傷口が痛むのか、前のめりに頭を抱えるグラヴァード。
普通の人間なら入院もののダメージだが、そこは流石竜の王というべきか。
シュディエーラの貼ってくれた治療用の絆創膏だけで、一応は順調に回復している。
シュディエーラ
「そう言えば、『貴方』はもう、神社で今年のお願いごとはなさったのですか?」
お雑煮の入ったお椀を受け取っていると、不意にシュディエーラが『貴方』へと話題を振って来た。
ふるふると首を振ると、「では、あとで皆揃ってお参りに行きましょうか」と、シュディエーラからのお誘いが提案された。
レイフィード
「そうだね 境内の方の子達も誘って行こうか」
レイル
「ユキやルディー達もいるでしょうしね。
今年一年、健やかに平穏に暮らせるよう、しっかりと神様にお願いしなくては」
ディアーネス
「平穏無事が、一番の願い……。
では、我はそれに加えて、『部下達がさらに仕事熱心となる』……ように祈るとしよう」
シュディエーラ
「サージェス辺りが聞けば、……翌日に、騎士団長自主退職の手紙が机の上に置いてありそうですね」
ディアーネス
「あやつは本来、自由を好む性質ではあるからな……。
だが、使える人材は手離すわけにはいかん。これからも逃がさぬように目を光らせねば」
グラヴァード
「お前の所の騎士団長も不憫だな……、こんな鬼畜極まりない女帝に飼われるとは」
レイフィード
「グラヴァード、喧嘩は売らない方が身の為だよ~、もぐもぐ。
でもまぁ、人に負担をかけずによりよく活用する方法としては、
やっぱり縛り過ぎない、が一番だろうね~」
レイル
「酷使しすぎては、元も子もありませんからね……」
三つ子
「「「みんな、たのしくおしごとがいちばんなのぉ~!」」」
レイル
「そうなれば一番だが、仕事となると、そればかりではいられないのが現実だ」
グラヴァード
「やり甲斐を見つけられれば、長続きはするだろうがな……」
レイフィード
「イリューヴェル皇国も、今人材不足ッぽいもんね~。
ウォルヴァンシアは何の問題もないけど」
グラヴァード
「はぁ……羨ましい事だな。
出来れば、カインがイリューヴェルに戻って、国政に関わってくれればいいのだが」
と、ぼそりと哀愁深くイリューヴェル皇帝が呟いたのを聞いた『貴方』は、国の問題児だったカインが国政に関われるのだろうかと疑問を向けてみた。
グラヴァード
「あれは、昔の素行こそ悪かったが、頭は悪くない……。
というか、幼い頃や反抗に走る前の成績を見る限り、……相当に出来る可能性を秘めている」
レイフィード
「ま、二人の兄皇子達と比べられ続けたせいで、勉強放棄の挙句反抗しちゃった子だけど、
ちゃんと勉強を続けていれば、良い皇子になった確率は高いね」
レイル
「そう言えば、俺も前に執務中にカイン皇子が訪ねて来てくれた際に、
色々と相談に乗って貰ったんだが……確かに、為になる助言が多かったような」
ディアーネス
「なるほどな……。才能の片鱗は出ておるわけか。
では、ガデルフォーンでしっかりと躾をすれば、それ相応に使える人材に」
グラヴァード
「どさくさに紛れて、人の息子を取り込もうとするんじゃない!!」
レイフィード
「それいいね~。丁度ユキちゃんにお熱で、あの子当分は自国に帰りそうもないし……」
グラヴァード
「お前もか、レイフィード!! この盗人共めが!!」
レイフィード
「失礼な!! 僕は君の息子を真っ当にしてあげようと、心を砕いているだけだよ!!」
グラヴァード
「どこがだ!!」
ディアーネス
「どの道、一度は見限られたお前では、あの息子の相手は早々容易くは出来まい。
ここはひとつ、我の国で教育を……」
グラヴァード
「ふざけるなあああああ!!」
シュディエーラ
「ふふ、相変わらず我が君と陛下方は仲良しで何よりですね。
さて、そろそろ境内の方に参りましょうか」
レイル
「そうだな。あの三人の言い合いに付き合っていたら、すぐに陽が暮れてしまう」
三つ子
「「「れっつご~なのぉ~!!」」」
自分勝手な事を言い合う大人三人をおいて、『貴方』はシュディエーラとレイル、そして三つ子達と共に神社の境内へと向かう事になったのだった。




