母への感謝・出会いの過去
というわけで、間に合いませんでしたorz
イリューヴェル第三皇子、カイン・イリューヴェルの幼い頃の話になります。
つまり、ショタカイン。(待って)外見的に、4、5歳ぐらいですね。
母の日にまつわる話から、カインが幼い日に出会った人々のお話が絡みます。
「お母さん、いつもありがとう。
これ、母の日のお花とプレゼント」
「あら、素敵なお花ねぇ……。
香りも甘くて……、ふふ、本当にありがとう」
ユキを探してウォルヴァンシア王宮の中を歩いていると、
ふと、楽しげな話し声が聞こえてきた。
その方向に向かって足を向けた俺の目に飛び込んできたのは、
淡い色の花を集めた花束を、大事そうに抱き締め微笑むユキの母親の姿。
ユキが両手にプレゼントらしき箱を抱えているのも見えた。
「エリュセードにも母の日があるって聞いたから、
町のお花屋さんで花束を作って貰ったの。喜んでもらえてよかった」
「結構似たようなイベントが多いのよね。
でも、ふふ、……本当に嬉しいわ」
娘からの気遣いと花束に、心底嬉しそうにしているユキの母親の顔を見た俺は、
……自分の母親の事を思い出していた。
最後に言葉を交わしたのはいつだったかさえ覚えていない母親……。
イリューヴェル皇国にある神殿奥深くに、皇宮と息子を恐れ籠ってしまっている女……。
その母親が遠い昔に見せた笑みと、ユキの母親が浮かべている笑みが、一瞬重なった。
「(母の日……か。俺もガキの時に同じような事をしてたっけな)」
まだ俺が、全てを恨み歪む前の事だ。
一応正妃に立っていた母親は、皇宮でも贅沢な待遇をされていたと言えるだろう。
しかし、一部の臣下や女官は、第一皇子と第二皇子を引き合いに出しては、陰で胸糞悪い噂話を囁いていた。
それだけならまだ平和な方だったと言えるかもしれねぇが、生憎と俺の母親は気の弱い女だ。
大人しく貞淑な貴族の娘そのもので、自分の意見を口にする事には酷い怯えがある。
つまり……、あからさまに聞こえる位置で嫌な話をされても、怒れないのだ。
それは、幼い俺が嫌がらせや陰口を叩かれても同じ事で、ただ、俺を抱き締めて部屋に籠るだけが精一杯。
「(親父にも頼らねぇし、本当……弱い女だったよな)」
それでも、幼い俺に「大丈夫だから、大丈夫だから……」と言いながら、
か細い腕で必死に抱き締めていた母親は、あの時の俺にとっては世界で唯一人の拠り所だった。
そんな母親に……、幼い俺が感謝の気持ちを込めて花を贈った……遠いあの日……。
――数十年前・カインの過去。
「皇妃様~!!」
イリューヴェル皇宮に、女官の慌てたような声が響き渡ってくる。
俺の母親、皇妃ミシェナの部屋に飛び込むと、
瞳からポロポロ涙を零し、心底血の気の下がった顔で事の次第を口にした。
「皇子がっ、カイン皇子が、どこをお探ししても見つかりません!!」
「カインが? どういう事なのですかっ」
その頃、陰口の他にご丁寧に暗殺まがいの事も仕掛けられたり、
事故を装って危険な目に遭う事もあった俺は、信頼できる女官だけを伴に外に行く事を許されていた。
いつ何があるかわからない、そんな不安と危惧が……母親の心を占めていたのだ。
「まさか……、どこかで危ない目にでも遭っているのでは……っ。
お願いっ、早く……、早くカインを探してっ」
「今、他の者の手を借りて皇宮中を探しておりますが、
もしかしたら、皇宮の外に出た可能性も考えますと……っ」
「そんな……」
ぐらりと、目眩を起こして母親は絨毯の上へと身を投げ出した。
元々が、気が弱く不安に支配されやすい皇妃だったからな……。
女官の報告だけでも、精神的に大ダメージだったらしい。
そんな状況になっているとも知らなかった幼い俺は、その頃、……積み荷の馬車に隠れて皇都から逃亡を図っていた。
別に、母親や皇宮から逃げ出したくて行動したわけじゃない。
まだ、そんな事も考えられねぇぐらい幼かったからな。
ただ……、その日がエリュセードにおいて、産んでくれた母親に感謝する日だと知ったから、
「(ただ……、花を贈りたかっただけ……だったんだよな)」
花であるならば、皇宮の花壇や花瓶からくすねてくれば良かったのかもしれない。
むしろ、皇子の立場にある者なんだ。女官や臣下に命じて、花を買って来させればよかったんだろう。
だが、あの頃の俺は純真無垢だったというか……。
底抜けのアホだった……。
母親が寝る前に読んでくれた絵本や童話、外の噂話……。
その中のひとつに、皇都の外にある山に生えている綺麗な花の話があった。
『その花はね、黄色い花弁の、とても良い匂いのする綺麗なお花なのよ、カイン』
嬉しそうに笑ってそう話してくれた母親……。
多分、それを幼い俺は覚えていて、その花を贈り物にしようと決めたんだろう。
小さく無力な身体で、よくもまぁ皇都を抜け出したもんだと、今となってはある意味感心している。
ただなぁ……、皇都を抜け出したまでは良かったんだが……。
皇都を出て、二時間ぐらい経った頃だった。
――途中で、賊に襲われた。
もうなんつーか、見計らったように馬車ごと強奪されたんだよな、あの時。
馬車の主は悲鳴を上げて逃げちまうし、俺は積み荷ごと呆気なく攫われた。
で、賊のアジトらしき山に連れてかれて、最終的には積み荷の確認の時に案の定見つかってとっ捕まった、と。
明かりを灯す術とは無縁の奴らだったんだろうな。
木の棒に布と着火用の液体を染み込ませた何本かのそれは、洞窟内を照らす唯一の灯りとなっていた。
「親分!! 積み荷に紛れてガキがいましたぜ!!」
「なんだ? よく見りゃ形の高そうなガキじゃねぇか」
賊は全部で十人ほど。今の俺なら相手にもならない数だ。
だが、生憎とその頃は何の力もなく、ただ意味もわからず帰りたいと泣きじゃくってた気がする。
「かーさま……、かぁさまぁっ」
そりゃあな? 滅茶苦茶太った怖い顔のおっさん共に囲まれてたわけだ。
幼い子供が恐怖を覚えないわけがない。
誰も助けてくれない、最悪の状態に直面してた幼い俺は、半狂乱になって泣き続けていた。
勿論、ガキの泣き声に寛容な賊は滅多にいない。
「うるせぇ!! 黙れってんだよおお!!」
クソでけぇ足に蹴り飛ばされて、岩壁に頭をぶつけてさらに泣いた。
母親の為に花を摘みに来ただけなのに、何で自分がこんな目に遭わないといけない?
訳もわからず行われる暴行に、――竜の血は怒りと共に幼子の身を支配した。
竜になるやり方自体は、生まれた時から自然に出来る事だったが、
一部だけを表に、右手を竜手に変える方法はまだ知らなかった。
そして、その力を敵にどう奮えばいいのかも……知るはずもなかった幼い俺。
――ドカッ!! グシャアアッ!!
おそらく、当時の俺は、竜の血の本能だけが表に出ていたんだろう。
気が付けば、周りには血だまりが幾つも出来上がり、賊の身体が地面に這い蹲っていた。
殺してはいない……。だが、放っておけば死ぬだろう。
けれど、かといってそれを助けてやる余裕なんて幼い俺が持っているわけもなくて、
傷付いた身体を引き摺って、洞窟の外へと出た。
昼間だったはずの空の色は、全てを呑み込むように真っ暗で、天気も悪く周りを照らす事はなかった。
「かーさま……、ひっく……、どこぉっ」
どこにいるのかもわからない。暗く見通しの悪い山の中……。
俺はその場にしゃがみ込んで、大泣きした。
このまま自分はどうなってしまうのだろう、母親は迎えに来てくれないのか、
自分で皇宮を抜け出しておいて、自分勝手な思いを抱えながら夜の闇に怯え続けた。
竜手は大きな力を奮った為か、小さく震え続けて止める事も出来ない。
怖い……、怖い!! そんな俺の目の前に、ふと、見知らぬ大人が現れた。
「爆発的な気配がしたかと思えば、坊主、もしかしてお前か?」
暗くて顔もよく見えない相手は、竜手に変化している俺の右手を見て苦笑を漏らした。
また怖い事をされるのではないかと身構えた幼い俺だったが、
その男は俺を腕に抱き上げると、大きな手のひらで頭を優しく撫でてきた。
父親にも撫でられた事のなかった俺にとっては、初めての事。
母親にはよくそうされていたが、男に撫でられるのは慣れていなかったからな。
その温もりに安堵した俺は、ただ一言「帰りたい」と口にしていた。
「竜手とあの力、そしてこの気配……。
坊主は、イリューヴェル皇帝の息子か?」
「うん……」
「そうか。噂に聞く『イリューヴェルの第三皇子』か」
その言葉に、幼かった俺は一気に怯えを感じた。
イリューヴェルの第三皇子という言葉は、よく陰口と共に叩かれる俺への嫌がらせの始まりのように感じられたからだ。
だから、俺はまた悪い奴に捕まったんだと思い込んで、男の腕の中で暴れた。
「ん、急にどうしたっ、こらっ、大人しくしていろ。
こんなに傷だらけで、怪我もしているのにっ」
「やだっ、やだぁっ。こわいっ、こわいよぉおっ」
「大丈夫だっ、俺はお前の敵じゃないっ。
ちゃんと手当てをして、母親のところにも連れて行ってやる」
安心させるように、力強い腕の中に包まれた俺は、次第に落ち着きを取り戻していった。
男の宥める声音が、背中を撫でる手のひらの感触が、敵ではないと伝えてくる。
「ほ、ほんとう……?」
「あぁ、だから、まずはお前の手当てが先だ。
ここから少し離れた皇都に近い山に、俺の友人が住んでいる。
そこで手当てを受けよう」
人好きのする笑みを俺に浮かべた男は、俺を背中に背負った。
そして、空間がぐらっと歪んだかと思うと、すぐにその中へと飛び込んでいく。
それが転移術のひとつだと知ったのは、もう少し俺が大きくなってからだ。
再び、見知らぬ山の中に降り立つと、目の前には灯りの見える山小屋がひとつ。
ぐるりとその小屋を囲むように木々が立っており、後ろを振り向けば麓に続く下り坂が見えた。
「おーい! ちょっとここ開けてくれー!!
子供が怪我をしているんだ!!」
夜だというのに、男は遠慮なしに大声で中へと呼びかける。
それを二、三度繰り返すと、中から人が歩いてくる足音が聞こえ、
木で出来た扉が前へと開かれた。
「早寝早起きは、健康の源だってのに……。
よくも起こしやがったな?」
扉の向こうから出て来たのは、不機嫌を顔に貼り付けた、乱れた黒髪の若い男だった。
白衣を着ている事からして、まぁ、医者の部類だろうなとは思っていたが、
それからの数十年、俺はこの男に色々と世話になる事になるとは、その時はまだ思いもしなかった。
「お前な、一応医者でもあるだろ?
怪我人はいつでも受け入れろよ」
「へーへー。じゃあ、さっさと中に入りやがれ」
しかも、最高に口が悪い。
男を中へと招くと、左奥にあるカーテンに仕切られた一室に幼い俺は連れて行かれた。
全身傷だらけの上、竜手は元に戻すやり方さえわからずそのまま。
黒髪の医者らしき男は、俺の状態を確認し、治癒の術を掛け始めた。
「結構派手にやられてんなぁ、お前。
ラシュが連れて来なきゃ、野たれ死にになってもおかしくねぇぞ?」
「うっ……」
「痛いだろうが、少しの間我慢してろよ、坊主。
この男は、口は悪いが医者としての腕は良い」
横から俺を見下ろしてきたのは、背中に背負って連れて来てくれた男だ。
小屋に灯された術の明かりが、男の色を浮かび上がらせている。
真紅の長い髪に、愛想の良さそうな笑み。人に抵抗を抱かせない部類の人種。
「しかし、坊主、お前なんであんな所にいたんだ?
力も制御出来ないようだし、……何があった?」
「……っ、……わかんない。
ばしゃにのってて……、それから、きづいたらあそこにいて……。
こわいおじちゃんが……いっぱいいて……なぐられたり、けられた」
傷の痛みが徐々に和らいでいくのを感じながら、幼い俺は真紅の髪の男にそう伝えた。
賊という言葉も知らなかったしな。
だが、拙い子供の言葉でも、大人二人は事情を察したようだった。
眉を顰め、互いに顔を見交わし頷き合う。
「賊の類だろうな……。こんな小さな子供にまで……」
「だが、逃げて来たって事は、隙を突いて来たって事じゃねぇのか?」
「いや、坊主の竜手を見てみろ。……人を害した気配がある」
二人の視線が、俺の竜手に集まる。
いまだ治まる事のない震え……、それを手に取った黒髪の口の悪い男が、
小さく詠唱を発し、竜手の震えを鎮めていった。
「これでひとまず心配はないだろう。
小せぇくせに、……よく頑張ったな?」
さらりと、前髪を掻き上げられ、俺は黒髪の男に撫でられた。
「うっ……ひっく……こ、こわかったぁっ、ひっく」
「おう、泣け泣け。泣きまくって腹空かせろ。
なんか美味いもんでも作ってやっからよ」
「あ、じゃあ、俺も分も是非……」
「あ? テメェは自給自足出来るだろうが」
幼い俺に向けた一瞬だけの優しい笑みが、真紅の髪の男に向いた瞬間不機嫌なものへと変わった。
治療を終えた黒髪の男は、木椅子を立ち上がり小屋の別部屋へと向かっていく。
そして、「お前、本当Sだよなぁ……」と苦笑いした真紅の髪の男が、代わりに木椅子へと腰かける。
「しかし、お前……、皇子様のくせに、なんで皇宮を抜け出したりしたんだ?
今頃皆、心配してる頃じゃないのか?」
「……おはなを、……かーさまに……あげたかったの……」
「花? その為に抜け出したのか?」
「うん……。みんながいってた。きょうは、かーさまにかんしゃ、するひ、だって」
「あぁ、『母への感謝の日』か。……勇気があるな」
「だけど、……おはな、みつからな……い、し、ひっく……きょうが、おわっちゃうっ」
せっかく皇宮を抜け出して、荷馬車にまで乗り込んだのに……。
目的を達成できなかった俺は、また情けなく涙をボロボロ零し始めてしまった。
母親を喜ばす事が出来ない自分に、一人で何も出来ない歯がゆさに……、心から情けなく思っていただろう。
そんな幼い俺に、真紅の髪の男はひとつの提案をしてきた。
「じゃあ、飯を食ったら外に行ってみるか?
この山の頂上にも、綺麗な花がいっぱい咲いてるんだ」
「……ほんと?」
「あぁ。それに、まだ今日が終わるまでには時間があるからな。
花を摘んだら、皇宮まで送ってやる」
見ず知らずの幼い子供に、真紅の髪の男は躊躇いもせずにそう笑って言った。
お人好しなのか、人助けが趣味だったのか、今でも謎だが……。
所謂、良い奴の部類にいた奴なんだろうな。
――三十分後。
「おう、飯出来たぞー。こっち来て食え」
「ディーク、やっぱり俺の分も用意してくれてたんだな!
さすが、長い付き合いの友達だ!!」
「そう思うなら、俺が寝ている時間は避けて来いよ、はぁ……」
木のテーブルに並べられた料理は、卵を使ったオムライスと、野菜たっぷりのスープだった。
子供だった俺の目から見ても、皇宮の料理人に負けずとも劣らない出来で驚いたのを覚えている。
味も美味かったし、人は見かけによらないもんだと思ったのも、この時だったか……。
とにかく、腹が減って疲労も溜まっていた俺は、マナーも忘れて食べる事に夢中になった。
そんな俺の様子を、大人二人が微笑ましそうに笑って見ている事にも気付かずに。
「おいしい!」
「ディークの飯は、スカウトがかかるぐらいに美味いだろう?
俺もたまに恋しくなって、食わせて貰いに来るんだよなぁ」
ディークというのは、黒髪の男の名前のようだった。
無我夢中で飯を食べる子供の俺に、ディークが紙ナプキンをぐいっと押し付け世話を焼く様は、
まるで面倒見の良い兄か父親のようでもある。
「しかし……、力の制御が出来ないとなると……、今後が心配になるな」
「ディークもそう思うか?」
「また同じ事が起こらないとも限んねぇだろ?
それに……、この魔力とさっきの竜手、この身なり……。
皇族じゃねぇのか?」
「当たりだ。漆黒の髪に真紅の瞳、竜手、強い魔力……。
イリューヴェル皇家の者、……第三皇子で間違いないだろう」
その時、また聞きたくないキーワードを耳にした幼い俺が、飯を食べる手を止めた。
皇宮で受けている精神的な嫌がらせに用いられる言葉……。
それを思い出すと、吐き気がするぐらいに具合が悪くなるようになっていた。
「ん? どうした、ガキ。具合でも悪くなかったのか?」
「いや、多分……、俺のせいだろう。
怪我をしているのを見つけた時は偶然かと思ったが、
やはり……『第三皇子』という言葉に必要以上に恐れがあるようだ」
もう一度言葉に出されたそのキーワードに、今度こそ幼い俺は大粒の涙を流して顔を伏せてしまった。
怖い……怖い……! また何かが起きそうで、不吉な言葉にしか思えない。
皇宮のあちこちで囁かれる、皇妃と第三皇子への陰口……。
生まれて来たのが、そもそもの間違いだと嘲笑う者達の嫌悪すべき声……。
それが一気に襲い掛かるようで、幼い俺は耐えきれずに嗚咽を漏らして泣き続けた。
「おい、ガキ……。お前、名前は?」
「ひっく……、な……まえ? ……カイン」
「カインだな、覚えた。
じゃあ、今から俺は、お前をカインと呼んでやる。
皇子とか煩わしいモンはポイだポイ。ただのカインとして見てやる」
「ははっ、さすがディークだな。
じゃあ、俺もカインと呼ばせてもらおう。カイン、よろしくな」
初めてだった……。
自分を、皇子ではなく、ただのカインとして見る存在がいるとは……。
自分より何倍も歳を重ねている大人二人が、楽しそうに幼い俺に笑いかける。
それが……、どんなに嬉しい事だったか……。
幼い俺は、二人に何度も礼を言って頭を撫でられていた。
皇宮には、信頼できる者はごく僅かだった。
そんな俺に……、何の代価もなく手を差し出してくれた二人の大人。
最低最悪の日だったが、同時に……最高の日でもあった。
――……。
「さて、飯も食った事だし、お前の目的を果たしに行くか、カイン?」
「うん!!」
「気を付けて行ってこいよー」
真紅の髪の男、ラシュと呼ばれていた男に腕へと担がれ、
幼い俺は、山の頂上へと向かった。
――サァァァァァァ……。
「月の光を受けて、夜の間だけ咲き誇る珍しい花々だ。
朝と昼は寝っぱなしっていう感じだけどな。
どうだ、母親への土産になりそうか?」
「きれい……、いいにおいもするし……、かーさま、よろこぶよ!」
小屋に着く前は、曇り空で天気が悪かったというのに、
たった一、二時間で……こんなにも晴れ渡るとは思わなかった。
世界の希望を散りばめたかのように美しい星々の踊る様、
エリュセードを照らす慈愛深き三つの月……。
そして、その恩恵を受けて咲き誇る美しい花々。
気持ち良さそうに、風に揺られるその様に、幼い俺は花畑の中へと走って行った。
これなら、母親を喜ばせる事が出来る……。
「ラシュ、ありがと~!!」
「ははっ、喜んで貰えて何よりだ。
気が済むまで摘んだら、小屋に戻るからな」
「うん!!」
手の中いっぱいに花を集め、母親の喜ぶ顔を想像しながら摘み続けた。
早く、皇宮に戻りたい……、早く、母親に会いたい。
そんな想いを溢れさせながら、俺は満足のいくまで花を腕に抱え終わると、
再びラシュに抱き上げられ、小屋へと戻った。
――……。
「じゃ、俺はカインを皇宮に送ってくわ」
「あぁ、気を付けて行けよ。今頃、皇宮中が大騒ぎだろうからな」
「ディーク、ありがと……」
別れの時、手当てをしてくれた礼と、俺をただのカインとして見てくれたディークに笑みを向けた。
最後にもう一度頭を大きな手のひらで撫でられ、ディークが一度小屋の中に戻り一枚の紙を持って、俺の許へと戻って来る。
「俺の住んでるこの山への道を書いた紙だ。
何かあったら……相談ぐらいには乗ってやる」
「ディーク……」
「良かったなぁ! ディークは気に入った奴にしかデレないんだぞー!!」
「ラシュ……、いっぺん、沈めてやろうか?」
「冗談だって!! そんな睨むなよ……」
あはは、と苦笑いを零し、ディークの怒りを宥めようとするラシュを他所に、
俺は手の中に握りこまされた紙をじっと見つめていた。
また来てもいいのだと……、そう言われている。
しかも、道筋を書いた紙までくれた。
「ディーク、ありがと……!」
「ん? あぁ。……またな。カイン」
ラシュとじゃれ終わったディークが、笑みを浮かべて手をひらひらと振った。
闇夜に……、ディークの姿がどんどん溶け消えていく……。
「ディークー!! またねー!!」
山の中を、来た時と同様凄い速さで駆け下りて行くラシュ。
その身体にしがみついて、黄色い花の優しい匂いと共に、遠くなっていくディークを見つめ続けた。
本来、会う事もなかったはずの、歳の離れた口の悪い友人。
アイツとの出会いが……、その後の俺を生かす為に、どれだけ重要な役割を担ったか……。
――イリューヴェル皇宮・皇妃の部屋。
一時間も経たない内に着いたのは、俺の母親の住む部屋のバルコニーだった。
皇宮中が物々しい気配に包まれ、厳重な警戒が敷かれているというのに、
ラシュは容易くバルコニーまで辿り着いた。
憔悴しきった顔の母親が、ベッドに凭れているのが見える。
いなくなった息子の事を思い、酷く気疲れしているのだろう。
――コンコン。
ラシュが窓をノックする。
その音に気付いた母親が、緩やかに顔を上げバルコニーに視線を向けた。
すると、そこに立っていた不審な男の姿に怯えた様子を見せたものの、
腕に抱かれている幼い俺を見た瞬間、窓へと駆けて来た。
――ガチャッ!!
「カイン!!」
「かーさま、ただいま!!」
摘んできた花を両手に抱えている俺をラシュが下に降ろした瞬間、
細い両腕が、俺を掻き抱くように強く俺を抱き締めた。
泣きじゃくる母親の声、心底心配していたのだとわかるその言葉に……、
自分がどれだけ軽率な真似をして、ただでさえ気苦労の多い母親を追い詰めていたのかを知る。
二人の間に押し潰された黄色い花の匂いが、幼い俺と母親を優しく包み込む。
「ごめんなさっ、い、かーさまぁっ」
「皇妃殿、ご子息は……、貴方に『母への感謝』を伝える為に皇宮を抜け出したらしい。
貴方に喜んで貰おうと、花を探しにな」
「花を……? 本当なの、カイン?」
「う、うん……。でも、しんぱいかけちゃった……、ごめんなさい」
「私の為だったのね……。その気持ちは、とても嬉しいわ、カイン。
でも、もうこんな事をしては駄目よ?」
「うんっ」
俺の摘んできた花を見下ろした母親は、本当に幸せそうに微笑んだ。
俺を産んでから、毎日が辛かったであろう日々に、最高の幸せを見つけたように……。
その笑顔が見れた事に、幼かった俺自身も人生最大の幸せを感じるように、母の笑みに見惚れていた。
心配かけまくって、母親の精神をすり減らしたのに、それでも……後悔はなかったんだ。
「あ、ところで……貴方は……あら?」
母さんが顔を上げた時、すでにそこにはもう、ラシュの姿はなかった。
カーテンだけが、窓の向こうの夜空にベールを敷くようにそよそよと風に揺れるのみ。
母はラシュに礼を言えない事を気に病んでいたが、
まずは、皇宮の者達に俺の無事を知らせるのが先だと、そちらに意識を向ける事になってしまった。
その後、色々と事情を聞かれたりしたんだが、俺は……見知らぬ者に保護されたと嘘をついた。
この皇宮には、俺と皇妃を良く思わない奴らが存在している。
だから、もしラシュやディークの存在が表に出ると、何か良くない影響をアイツらに与えるのではと、
幼いながらも、予感のようなものを感じた故での嘘だった。
「(俺の味方になりそうな存在を疎ましく思ってる奴らもいたしな……)」
母親も、ラシュの名前までは知らなかったから、上手く誤魔化すことには成功した。
ディークから貰った紙も、見つからないように道筋を暗記して捨てた俺は、
再び、人の悪意と母親の憂い顔を見る日々に戻って行く事になる。
母親を心配させるわけにはいかないと、それから二年程は外の世界に行くのを我慢した。
だが……、次第に酷くなっていく皇宮での生活に、ついに限界が訪れる。
蔭口の内容が、俺を見る視線が、次第に悪意を増すかのように酷くなっていく。
母親は寝台に伏せることが多くなり、俺自身、もう自分をどうこの皇宮で生かしていけばいいのかわからなくなった。
自分さえいなければ、母親は苦しむ事はないのではないか……。
もっと自分に力があれば……。
そう自分を苛んだ俺は、ある事を思い出した。
二年前世話になったディークの事だ。飯を食べている時に、アイツが戦闘能力も高い奴だという事を、
確かラシュが笑いながら幼い俺に説明してくれた気がする。
ならば……、戦う術を……教えて貰えるのではないか?
幼い俺は、とにかく強くなりたかった。それは、腕っぷしもだが、精神的にもだ。
ただ怯えるだけではなく、母親を守れるように強くなりたい。
その思いが、おれを突き動かした。
母親には、信頼できる奴のところに暫く世話になると説明し、皇宮を出た。
勿論、最初は首を横に振られた。
だが、俺が皇宮で生きて行く為に、どうしても必要な事なのだと説明すると、最後には心配そうにしながらも許してくれた母親。
「(俺はいつの時代も、母親の心配の種だったんだろうな……)」
単身、幼い俺は皇宮の抜け道を使い、ディークの住む山へと向かった。
まだ住んでいるのかさえ半信半疑だったが、幸いな事にディークはまだ山で生活しており、
俺は皇宮での自分を取り巻く事情を説明し、自分と母親を守るために戦う力を学ばせて欲しいと頭を深く下げた。
それに対し、ディークは「厳しくても泣くなよ?」とニヤリと笑い……。
「(本当にクソ鬼畜なメニューばっかだったよなぁ……)」
思い出すだけでも鬼畜極まりない訓練の内容に、幼い俺はよく耐えたと思う。
竜手と自分の右腕を、上手く変化させるやり方。
身の内にある魔力の扱い方、戦闘に必要な身体の基盤づくり……。
それを、何度も皇宮を抜け出して、ディークから学んだ。
確実に……、自分一人で生きて行けるように俺を鍛え続けてくれた。
まぁ、途中で俺がどこに行っているのか訝しんだ面倒な奴らを撒いたり、
ディークの存在を隠すので色々苦労はしたけどな。
というか、ディークは刺客が来ても負けるような奴ではなく、本当に恐ろしいほどに強い奴だった。
俺を追って放たれた刺客を、誰一人生きて返す事はせず、幼い俺の前で皆殺しにしたほどだったからな。
ヘマをして、刺客を招き入れた幼かった俺自身も馬鹿だが、あの瞬間はマジで凍り付いたな。
どんだけ容赦ねぇんだよ、ってぐらいディークは本気で殺った。
そして、それぐらいの覚悟がねぇと、この先行き抜けねぇぞと俺を叱りやがるし……。
「(ディークの人生本当どういう道を辿って来たんだよ! ってぐらいには鬼気迫ってたな)」
まぁ、そのお蔭で俺は日々逞しく育つ事が出来たわけなんだが……。
皇宮での陰口や嫌がらせ、刺客は減る事もなく増え続け、
俺は次第にうんざりきて、どんどん歪んでいくことになった。
何をやっても、第一皇子、第二皇子と比較される日々。
親父は政務で忙しいのか、女遊びで忙しいのか知らねぇけど、全く後宮に足を運ばない。
奇跡的に足を運んで来ても、母親と少し言葉を交わしただけで帰っちまう。
俺と母親が、どんな目に遭っているのか……気付いてもないんだろうな。
頼る事自体馬鹿馬鹿しい……。
俺自身も、親父と話す事に嫌悪しか浮かばず、素行を注意されても全て無視した。
俺と母親を助けなかった情けない父親に、指図される覚えはない。
「(強くなっても、結局何ひとつ変わらなかった……。
自分がいらない存在だと、自覚すればするほどに……母親まで追い込んじまったしな)」
刺客を相手にする日々、悪意を向けられ耐える日々……。
利口でいる事さえ、品行方正な皇子を演じる事さえ、最初の段階で諦めてしまった。
どうせどの俺もいらないんだろう? なら、……俺は勝手にやらせてもらう。
期待も何もいらない。皇宮の悪意も知らない……。
俺は周りが自分をそう評価するように、ろくでなしの皇子へと変貌していった。
駄目な第三皇子らしく、好きなだけ馬鹿にすればいい。
もう自棄になってたんだろうな、あの時の俺は……。
最初は、出来の良い皇子になろうと必死だった。
だが、何をしても駄目。陰口はどんどん肥大し、俺が何をしても認められることはない。
歪み続けて病んでいた俺は、次第にアイツらが望む最悪の皇子を演じるようになっていた。
それは、母親だけには知られたくない事だったが、俺の方は当に限界に来ていたから……。
楽な方へと逃げた。優等生な皇子になるよりも、もう誰も俺を見なくなるように暴れていた方が気が楽で……。
気が付けば、母親も怯えて隠れてしまうほどの息子に……成り果てていた。
「(ま、ガキすぎた故の過ちって奴だな。母親の気持ちを考えてやれなくなって……)」
イリューヴェルの第三皇子の悪行は、他国に響くまでに大きくなっていった。
女タラシの我儘横暴乱暴皇子だの、紛れもない事実が……。
師匠でもあるディークも、それを聞いていい顔はしなかった。
それでお前はいいのかと、真剣な眼差しで言われた事もある。
だが、その時の俺はもう……誰の話も心に届かないほどに歪んでいたんだ。
で、手の付けられなくなった俺に、ディークは「改心するまで二度と来るな」と縁切りを叩き付けてきた。
勿論、当時の俺は「はっ、テメェに教わる事なんか、もう何もねぇよ!」と、
今考えても、反抗期大爆発だな、おい。と言うような捨て台詞を残して山を下りた気がする。
「(まさか……、ラシュに続いて、ディークとも再会するとはなぁ)」
いつか謝りに行かなくてはならないと思っていたが、
まさか、遊学先のガデルフォーンで恩人でもある二人と再会する事になるとは思わなかった。
ラシュ……、幼い頃に俺を助けてくれた心優しい恩人。
そして、ガデルフォーンの城下町の大食堂で再会したディーク。
あの時は、ぶっちゃけラシュの時と違って心から焦った。
てっきり、好き勝手に師匠の助言を無視して山を下りた俺を、タコ殴りにでもするかと思っていたからな。
……まぁ、ラシュとディークの三人で飯を食った後に、鍛錬場で少しばかり痛い目には遭わされたが。
でも、長年の心のわだかまりも水に流して、関係を修復出来たのは幸いだった。
「(あとは……母親の方をどうにかしないとな……)」
思えば、親父とは一応和解みたいなものをしたわけだが、
母親とはいまだに、会って話をする事が出来ていない。
それは、俺がこのウォルヴァンシアという国に居ついてしまったのが原因なんだが……。
ユキとその母親の会話を聞いていたら、途端に懐かしくなった。
幼い俺が摘んだ花を、嬉しそうに見つめた母親……。
そろそろ、今までの親不孝のツケを払わないとな……。
そんな風に、昔を思い出しながらウォルヴァンシア王宮の一階まで降りると、
――急に背後に悪寒を感じた。
「カ~イ~ン~」
「うわっ!!」
幽霊でも出たんじゃねぇかってぐらいに演出された声音に、
俺は慌ててその場を離れ飛び退った。な、なんなんだ……!!
声のした方に振り向くと、にんまりと笑うレイフィードのおっさんの姿が……。
おい……、今のはテメェか? 何怖ぇ演出使って登場してんだよ!!
「ふぅ、ドッキリ大成功~!!」
「アホか!! 心臓に悪い登場の仕方してんじゃねぇよ!!」
「カイン……、新鮮な驚きって、人生において大事だよ?」
「やかましいわ!!」
悪気のない顔で笑ったレイフィードのおっさんだが、本当に……このおっさんは茶目っ気がすぎるんだよなぁ。
それに、俺に声をかけてきたという事は、何か用事でもあるんだろう。
「で、俺に何の用だよ」
「『母への感謝の日』に、君は何もしないのかなって……思ってね?」
「……俺からのなんか、いらねぇだろ」
まだ今までの詫びさえ母親にしていないのに、そんな事が出来るわけもない。
どうせイリューヴェル皇国に帰っても、女官が「皇妃様はお会いになれません」と言ってきて終わりだ。
「まだ素直になれないのかい? ミシェナ殿は一歩踏み出したというのに」
「はぁ?」
「今まで神殿に籠ってた君の母親は、息子と向き合う為に神殿を出たそうだよ」
「……」
信じられない情報だった……。
あの気の弱い母親が、俺の素行を憂いて弱り切ってしまった母親が……、
自分から神殿を出た? 皇宮に戻ったっていうのか?
だが、レイフィードのおっさんの笑みは、嘘など吐いていないと言っているようで……。
「イリューヴェルが頑張ってミシェナ殿の心を溶かしたようだね。
もう一度、本当の親として息子に向き合うべきだって、説得したらしいよ」
「マジかよ……」
「君の父親は、確かにヘタレで女性関連のトラブル体質だけど、
やる時はやる男だよ? 君に認めてほしくて、頑張ったんじゃないかな~」
まさか、あのヘタレ親父がそこまでやるとは……。
信じられない気持ちで立ち尽くしていると、レイフィードのおっさんが俺の背中へと回り、
喝を入れるように勢いよくその背を叩いてきた。
「良いタイミングじゃないか。竜型に変化すれば、ひとっ飛びだろう?
今からでも遅くない。母君への感謝の日を過ごしておいで」
「おっさん……」
俺を見る眼差しが、一人の親としての優しさを表すかのように穏やかな物になっていた。
そういえば、このおっさんもレイルや三つ子の父親なんだよな。
親にならねぇとわからない気持ちも、把握済みって事か。
「なぁ、おっさん。ユキを……母さんに会わせたいって言ったら……怒るか?」
「ユキちゃんはまだ誰も選んでないけど……、まぁ、今日だけ特別に、許してあげようかな。
その代わり、お泊りとかは……駄目だからね?」
「つまり、俺に超特急で母親と和解して帰って来いって事かよ?」
「大丈夫、イリューヴェルの子なら出来るよ!」
「うげぇ……」
何爽やかな笑顔で親指をぐっと立ててんだよ。
まぁ……、イリューヴェルに行っちまえば、後はどうとでもなるか。
万が一泊まる事になっても、親父に言い訳させよう。むしろ親父のせいでよし。
今まで手抜きしてきた息子孝行をやらせる時だ。
そう決めると、俺はレイフィードのおっさんに礼を言って、ユキの許へと向かった。
――なぁ、母さん……。
俺はこの国に来て……、やっと大切なモンや自分の生き方を見つけたんだ。
アンタには、謝っても謝り切れない過去が多いけど、俺が見つけた道を知ってほしい。
どんな顔をするだろうか……、俺を許してくれるだろうか……。
不安は確かにこの胸にある。けれど……。
「(ユキの存在が傍にあれば、母さんと向き合うのも……怖くはない気がする)」
それどころか、俺がウォルヴァンシアで感じた事を、今好きなアイツの事を……。
全部母さんに話して、また……昔のように笑い合いたいと望んでいる。
ユキの許に走る足取りは軽く、俺の口元には……笑みが浮かんでいた。
カインの師匠、ディーク。
本名、セルフェディークさん。外見年齢は二十代半ばほど。
白衣がトレードマークです。口は悪いですが、面倒見の良い性格をしています。
カインに戦闘技術と術の使い方を教えた人物でもありますが、
現在は絶縁状態。謝りに行ったら多分ボコられます。
ここだけの話、ウォルヴァンシアのフェリデロード家の血を引いています。
つまり、ルイヴェルとセレスフィーナの親戚ですね。
過去に何かあったようで、気ままな山暮らしです。
健康にこだわりがあり、早寝早起きがもっとうです。
食事も栄養バランスを考えて、自分で全部作ります。
女子力の高い医者……、さらに戦闘能力も高い有望株です。
ただし、口は悪いです。
(多分、ルイヴェルと会ったら、健康について教授しそうです。
ルイヴェルは研究の為に徹夜とか平気な方なので)(笑)
幼いカインを助けた男、ラシュ。
本名はまだ本編が進んでいないので、秘密とさせて頂きます。
カインとは幼い頃に一度会ったきりですが、ガデルフォーンで再会します。
愛想も気前も良い男前な二十代後半ほどの容姿をした真紅の髪の男性です。
一応、こっそりとカインの様子を見に来たりはしていたようですが、
彼も各地を巡る旅をしている為、会ってはいかなかったようです。
皇妃ミシェナ。
気が弱く大人しい女性です。
血筋的には強い竜の家系なのですが、本当に気が弱いです。
人の悪意などにもろに精神をやられて病むタイプです。
歪んでしまったカインを諫めたいと思う気持ちはあったようですが、
身体と心が付いて行きません。そのせいで、清浄な空気に溢れた神殿に身を寄せ、
カインから離れた生活を送るようになります。
大切な我が子なので、憎んではいません。
ただ、歪んでしまった息子と向き合う勇気と精神が足りなかったようです。




