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ウォルヴァンシアの王兄姫~番外編集~  作者: 古都助
~IFルート~
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IFルート・アレクディース×幸希 ~ポッキー・イベント~

11月11日のポッキーの日に間に合いませんでしたが、

ちょっと書いてみたかったので、やってみました。(笑)


「あ、アレクさん……、どうしましょうか」


「……物が準備されている以上、やるしかないと思うんだが、……嫌か?」


 テーブルに置かれてある赤い箱。

 それを見下ろしながら、イベントの為に呼ばれた幸希とアレクディースは困り果てている。何故ならば……、このエリュセードを治める美しき女神こと、フェルシアナから無茶ぶりをされているからだ。

 幸希が暮らしていた世界、地球でのちょっとした語呂合わせのイベント日。

 ポッキーの日を知った女神が二人に命じた事は、テーブルの上に鎮座しているチョコレートポッキーを一本だけ落とさないように互いの口に銜え、某ポッキーゲームをしろというものだった。

 誰もいないこの部屋で、アレクと二人でポッキーゲーム。なんの罰ゲームだ。

 説明を聞き終えたアレクも、一体どうすればいいものかと困惑している様子。

 しかし、やらねばこの閉じられた部屋からは出られない。

 幸希は覚悟を決めて赤い箱に手を伸ばした。


「だ、大丈夫、ですっ。それに、……その、恋人であるアレクさんとするなら、問題はないわけですし。が、頑張りますっ」


「ユキ……。俺も、少々気恥ずかしいが、相手がお前なら、何にでも挑戦出来る気がする」


「二人で頑張りましょう!」


 ビリッと中に入っていた銀の袋を破り、幸希はチョコレートポッキーを取り出した。甘くて苦い、恋の象徴のようなポッキー。

 その長細い端を口に銜え、アレクに「んっ」と顔を向ける。

 指令は簡単。ポッキーを落とさないように二人で端から食べていけばいい話だ。

 簡単……、けれど、その際に生じる羞恥心は半端ない。

 

「ん……」


 ついに、アレクが真顔でパクリとチョコレートの塗られた先を銜えた。

 そこでピタリと二人の動きが止まり、視線が気まずげに絡み合う。

 手を一切使わず、これを食べきらなくてはならないゲームが始まった。

 しかし、……ここからどう動くべきだろうか。

 

「……んっ」


 最初に勇気を出した幸希が動き出し、徐々にポッキーを咀嚼し始めた。

 アレクもそれに倣い、慎重にチョコレートの味を感じながら口を進めていく。

 この部屋に誰もいなくて良かった……。

 もし観客などいた日には、幸希の心臓は羞恥心で限界値を知らせる鐘を打ち鳴らし、頭を抱えて部屋の隅に蹲った事だろう。

 けれど、目の前にいるのは、自分の信じる騎士……。心から愛している男性だ。

 何も恥じる事などない。さぁ、さっさと終わらせ……。


「――っ」


 ポッキーが端から齧られて口が前に進んでいくにつれ、迫ってきたのは恋人の顔。

 当たり前の事だが、視線の距離も、息遣いも、キスをする時のように近くなっていく。……これは指令だ、イベントの一環だと納得していても、心は無意味に緊張してしまう。

 

「……ふっ、んっ」


「……」


 静かすぎるこの空間と、やっぱり二人でも恥ずかしすぎるこのゲームに、どんどん幸希の心臓が早足で鼓動を刻んでは、頬に熱を抱かせていく。

 別にラブシーンでも何でもない。それなのに……、アレクが少しでも吐息や低い音を喉元で零せば、無意味に全力逃亡したくなってしまう現在の状況。

 ポリ、ポリ、ポリ……。幸希もチョコレートの塗ってある範囲に口を進め、さらに二人の顔の距離は近くなっていく。


「……」


「……んっ」


 もうこの辺りでわざとポッキーを折ってしまおうか。

 そう考えるが、根の真面目な幸希にそれは出来ない。

 というよりも、アレクが熱心な眼差しで幸希の視線を奪っているので、そんな事も考えられないでいる。


(ち、近い!! うぅ……、一体どこで終わりにすればっ)


 困り果てる幸希を見つめながら、ふと、アレクは視線を横に逸らした。

 ほんの数秒の事だが、何かを考えているような、……決断一歩手前のような熱を蒼の瞳に揺らめかせている。そして、このまま前に進む事を戸惑い始めた幸希に視線を定めると。


「……、ん、……、――っ!?」


 ポッキーゲームをする為に椅子を寄せていたアレクが、幸希の腰を抱き寄せたかと思うと、もうすぐ互いの唇が触れ合う距離にいたそれを完全に消し去り、――。

 あと少ししかなかったポッキーを自分の口の中で引き取ったその動きのままに、幸希の柔らかな唇を自分の熱で奪い去ったアレク……。

 口の中で溶かされていくチョコレートの味ごと、アレクは幸希の温もりを味わっている。


「んっ、……ん~!!」


 誰がポッキーゲームの途中でキスをしろと言ったのか……。

 逃げようともがく幸希の動きを腕の中に閉じ込め、アレクは本能だけで動いているかのように愛しい恋人の熱を味わっている。

 そして、ようやく唇が離された後……。


「すまない……。近づいてくるお前の顔を、……ポッキーを食べているお前の口元を見ていると、吸い寄せられるように、その……」


「い、いえ……っ。あ、あの、か、顔が近すぎたら、その、そ、そうなります、よ、ねっ」


「ふぅ……。このポッキーゲームとやらは恐ろしいな。近いのに、ポッキーを食べ終えるまでの時間が、お前の温もりを求めたくなる欲を煽り、俺の理性を溶かしてしまう」


 溜息と共に、テーブル上の赤い箱を見やったアレクは、その中からもう一本取り出した。それを口に銜え、幸希の方に差し出してくる。


「え?」


「さっきのは失敗だ。……成功するまで、一緒に頑張ろう」


「はい!?」


 至極真面目な顔で、いや……、幸希のフィルターのかかった目には、アレクの頭に、ふさふさの狼の耳が見えた。謝罪をしながらも、どこか楽しそうな……。

 どうやら、目の前の真面目な騎士様は、このポッキーゲームで幸希とイチャイチャ出来る味を覚えてしまったらしい。今度は触れ合う寸前にポッキーを食べ終える、そう宣言しているが……、どう考えても、またポキッと折ってキスに走りそうな予感しかしない。

 却下して部屋を出ようかとも考えたが、アレクのおねだりを込めた視線に逆らえるわけもなく。


「つ、次はちゃんと……、頑張りましょうね?」


「ん……」


 我儘など滅多にしない騎士様からのお願いなのだ。

 幸希はポッキーの端を銜えると、それから何本も失敗する未来を予感しながら、また愛する恋人の視線を受け止めゲームに興じるのだった。


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