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ウォルヴァンシアの王兄姫~番外編集~  作者: 古都助
~IFルート~
28/85

【もふもふは正義だ企画】IFルート・サージェスティン×幸希

あかし瑞穂様の、【もふもふは正義だ企画】に、

ギリギリ滑り込みセーフ? で参加させていただきます。

サージェスティンと幸希さんの両想い中の小話です。


「はぁ~、もっふもふ、最高だねー」


『た、楽しいですか? サージェスさん……』


 もっふりとした蒼色の毛並みを纏う狼の姿になっているのは私。

 で、そんな私の自慢のもっふもふに抱き着きながらその手触りにご満悦状態なのは、ガデルフォーン皇国の騎士団長こと、サージェスティンさん。

 最近はご多忙だったとかで顔を合わせる事もなかった私の恋人は、ようやくお仕事から解放されてウォルヴァンシア王国へとやって来てくれた。

 そして、私の部屋に訪ねて来て開口一番が、――まさかのもふもふコース。

 お仕事が一段落ついて、そのまま真っ直ぐに私の暮らすウォルヴァンシアへと来たそうなので、当然、今日までに溜め込んだ疲労もそのまま。

 それを癒す為に狼の姿になってほしいと懇願された私は、この通りという訳です。

 でも……、自分の部屋、しかも、寝台の上で成人男性に抱き着かれて嬉しそうにもふもふされまくっているこの光景は、果たして晴れやかな昼間に相応しいものなのか。

 

「お日様の匂いと、これは、……シャンプーの匂いだろうね。それが癒し系抜群の香りになって、俺の事を癒してくれてるよー。あぁ、癒されるーっ」


 私の自慢のもっふもふで喜んで頂けて光栄です。とお礼を言えばいいのだろうか?

 完全に犬扱いで撫でまわされ、むぎゅむぎゅと抱き締められた私は、それから三十分間ほどして、ようやくサージェスさんの抱擁から解放された。

 私の毛並みがボッサボサになるほど乱れたのは言うまでもなく、サージェスさんも騎士団長服が毛だらけの大惨事になっている。


『ふぅ……、満足しました?』


「うん。やっぱり、アニマル・セラピーは抜群だねー。あ、そうだ、ユキちゃん。次は人の姿に戻ってくれるかなー?」


 疲労の気配が薄らいだ満面の笑顔で私の頭をポンポンと撫でたサージェスさんに促され人の姿に戻ってみると、今度は両手を広げてがばりと抱き着かれてしまった。

 狼の姿の時は完全にペット扱いだったから平気だったけれど、人の姿で抱擁されてる事にはちょっと気恥ずかしさがある。

 

「あ、あの、サージェスさんっ、じゅ、十分、その、もふり、ました、よね?」


「そうだねー。狼姿のユキちゃんのお陰で、仕事の疲れも吹っ飛んだよー」


「な、ならっ」


「だ・か・ら、ここからは恋人同士の触れ合い、しっかりしようね? 離れていた分、たっぷりと」


「ふぇえっ!? あ、あのっ、ひ、昼間、ですよっ」


 狼の姿の時とは決定的な違い。

 それは、サージェスさんの私に対する触れ方が全く違うものだという事。

 今度は癒してほしい、とか、そんな純粋な気配じゃなくて……。


「あぁ、そうだねー。じゃあ、はい」


 捕獲完了とばかりにその腕の中へと閉じ込められた私は、サージェスさんが全面窓仕様になっている扉側にニッコリと視線を向けたのと同時に、そこだけではなく、部屋の出入り口になっている扉の鍵までもが閉まる音を耳にした。

 その上、シャーッとカーテンが一斉に閉まる音。

 もしかしなくても、魔術によるお手軽戸締りが完了した事は、考えるまでもなくわかる事だった。

 薄暗くなった室内で互いの表情が読み難くなり、驚きと共に瞬きを繰り返している最中に、ちゅっと頬に触れた温もり。


「だ、だから、です、ねっ、昼間、なんですよ!! 昼間にこういう事はっ」


「連日お仕事お仕事で、恋人に会う暇もなく忙殺されていたサージェスお兄さんに、ご褒美くれないの?」


「ご、ご褒美って」


 子供じゃないんですよ!?

 元々、騎士団の長をやっているサージェスさんに仕事が多い事は周知の事実だし、私だって会いたくなるのを堪えて毎日……。

 と、ここで何を愚痴ったって、抗議したって、この恋人は自分に都合よく解釈するに決まっている。また頬に口づけられて、今度は目元に、鼻先に、額に……。


「ご褒美、欲しいなー?」


「だ、誰か来たらどう言い訳する気なんですかっ」


「じゃれあってます、って言えばいいよね?」


 鍵は閉まっているとしても、外側から見れば不自然な部屋の様子でしょうが!!

 私は外出の時でも昼間にカーテンを閉めたりしないし、中の気配を探られでもしたら……。

 真昼間からイチャついてました、なんて……、絶対に知られたくない!!


「あ、あのっ、ま、まずは、お外に行きましょう!! 城下に出て、二人でお食事をっ」


「食事より、ユキちゃんを食べたくて急いで来たんだけど?」


「私は食べ物じゃないですよ!!」


「何回でも食べられる、素敵なご馳走だよね? ユキちゃん」


 あ、駄目だ……。いつも通り、ブレのない返事ばかりが返ってくるっ!!

 狼の姿になれる私と、恋人を前にして昼間からイチャつきたがるこの精神的に狼な人、一体どちらが本物の狼さんなのか……。

 いっそこの場でまた狼の姿に変身すれば逃げ切る事が出来るのだろうか?

 ……いや、多分そっちの姿になったらなったで、また撫でまわされるだけの予感しかしないのだけど。

 ぐるぐると逃げ道を求めて悩んでいると、それを眺めていたサージェスさんが子供のような無邪気さで一言。


「えいっ!!」


「え? きゃっ」


 ぽふんっ!! と寝台に押し倒された私は、予告なしの不意打ちにすぐ様跳ね起きようとする。

 けれど、相手は男性であり、他国の騎士団長様。勝てる可能性は皆無。

 一応、私の持っている力を使えば可能ではあるけれど、それを恋人に対して向ける事は出来ない。

 それをわかっているからこその真似に、私は報復代わりに狼の姿に変化し始める。


「狼の姿になるのは、ナシ、ね? もしもその手を使ったら……、俺もちょっとだけ、本気出しちゃうよ」


 狼の姿になる為の変化を邪魔したのは、サージェスさんのアイスブルーの瞳。

 顔には笑顔の気配が浮かんでいるものの、……め、目が笑ってない。

 これ以上のおあずけなんて、誰が耐えられるものか! と、笑顔の下から本音がダダ漏れているかのような絶対的予感が!!

 私はゴクリと喉の奥に緊張の音を飲み込むと、試しに聞いてみた。


「ほ、本気……っ、て」


「えー? それ、俺の口から言わせちゃうのかなー? 純粋無垢なユキちゃんには、ちょぉーっと、だけ、刺激が強いかもしれ」


「やっぱり聞きたくありません!!」


 サージェスさんの本気なんて、どうせろくでもない事に決まっている。

 それでも怖いものみたさに聞いた私が馬鹿だった!!

 結局何を言ったって、何をしたって、サージェスさんは私をパクリと食べてしまうつもりなのだ。

 けれど、大人しく頂かれるのは何だか悔しい。


「さ、サージェスさんっ、わ、私だって、ご褒美が欲しいですっ」


「え?」


「会えなくて寂しかったのは、サージェスさんだけじゃない、って事ですっ。だ、だから、我慢したご褒美、ください」


「ユキちゃん……っ」


 城下町の有名菓子店の限定ワッフルとか、この前見かけた洋服店の可愛らしい外出着とか、我儘な恋人ぶって少し困らせてみようと思ったわけだけど……。

 覆い被さっている狼さん、のような男性ことサージェスさんは、具体的に欲張りなお願いを口にしてみる私を見ている内に、何故か感極まった表情になって。


「ユキちゃん……!!」


「は、はいっ!? うぐぅううっ!!」


 背骨が折れるぅうううううう!! と危機感を覚えるくらいに、滅茶苦茶な力で抱き締められてしまった!! 

 サージェスさんの全身から喜びの奔流がドバァッ! と溢れ出しているかのような気配。

 それを受け止めながら、私は恋人の背中を全力で叩きまくる。


「さ、サージェスさんっ、い、痛っ!!」


「あぁっ、ごめんね? だけど、嬉しいよー、ユキちゃん!! 普段あんまり俺に対して愛の言葉とか言ってくれないし、抱き締めるのも俺からばっかりでしょ? だからちょっと寂しかったんだよねー。あぁ、でも良かったー。ユキちゃんが自分からおねだりしてくれるなんてっ」


「え?」


「全力で頑張るから、期待していいよ!!」


 ――何を!? 何を全力で頑張る気なの!? この人!!

 私からの言葉を前半しか聞いていなかったらしき恋人は、多大なる勘違いをした果てに……、パクリと食べるどころの話ではなくなってしまったようで。

 それからの必死の抵抗も空しく、予想通りの展開を迎えてしまう事になったのだった。

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