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後半、岸田&辻ターン入ってます。
その後も自分突っ込みを内心でかまし続けながら、原田は風景写真を撮りながら歩いていた。
写真を撮るという目的だけではなく、自分が山を歩く事や風景を見る事が好きだという事もあって、いつの間にか太陽も南天に差し掛かっていることに気が付いた。
「そろそろ戻らないと、まずいな」
昼飯を食べて、十四時前にはここを出る予定になっている。
原田は登っていた足を、下る方向へと変えた。
そんなに奥まで来たわけではないから、時間には間に合うだろう。
急ぐでもなく、のんびりと下っていく。
そう言えば、合宿所の裏庭に小さな池があったな。
それを最後に撮って、終わりにするか。
入っても膝丈くらいしかない池だけれど、既に秋の雰囲気が……
そこまで考えてから、思わず肩を落とす。
三和の小憎たらしい笑みが、脳裏を掠めた。
だから。
俺は、どこの色惚けだ。
自分で突っ込まない事には、どうにも恥ずかしさが拭えなかった。
「あ、おはよう。岸田さん」
岸田は突然かけられた声に、びくりと肩を震わせた。
足を止めて振り返ると、そこには辻の姿。
どこかに行くつもりなのか、手にはお財布を持っている。
「……おはよう」
返された挨拶に、辻の眉が顰められた。
整った顔の人がすると、どんな仕草もさまになるから羨ましい。
そんな事を考えながら、自分を見下ろす辻から視線を外す。
あまり、見られたくないのだ。
特に、今日は。
「どこか行くの? 私は食堂に行こうと思って」
質問を投げかけながらも強制的に終わらせようとしている自分。
岸田は自嘲気味に目を伏せると、そのまま歩き出そうとして……失敗した。
引き戻される、自分の身体。
掴まれた腕は、昨日と同じ個所。
驚いて顔を上げれば、眉を顰めたままの辻がじっと岸田を見下ろしていた。
その、目が、あう。
「寝不足?」
その一言で、頬が火傷しそうなくらい熱くなっていく。
「ち、ちが……っ! そう! そうなの!」
否定しようとした言葉を飲み込んで、岸田は肯定するように頭をぶんぶんと縦に振った。
「今日で帰ると思ったら、なんだか目が覚めちゃって!」
だからなんでもない、と続けて、その掴まれた腕を自分に引き寄せようと力を込める。
けれど辻は離す気がないらしく、その手は岸田の腕を掴んだまま。
「あ、の。辻くん」
離して、と言外に込めても、辻は微動だにしない。
そのかわり、低い声が頭の上から降ってきた。
「何か、あったの。昨日、あの後」
途切れ途切れの声が、余計、威圧感を醸し出す。
いつも笑っている辻の顔が、無表情に見下ろしてくる。
「何も、別に。何も……」
――原田くんに特別な人がいると、知りました。
そんな事、言えない。
目を逸らして、辻の言葉を待つ。
手を離してくれるのを待つ。
ほんの少しだと思う。
「そう。何も、ね」
「うん」
「……俺は顧問の所に行ってこようかな」
「え? あ、うん」
突然言い出した言葉にすぐに反応できず、とりあえず頷いた。
責められているような雰囲気がやっとおさまり、腕を離されたことで知らず強張っていた体から力が抜ける。
それを眺めていた辻は、あのさ、と呟いた。
「そんなにわかりやすく態度に出すなら、言葉にした方が俺はいいと思う」
「……え?」
いきなり言われた言葉は、今までの中で一番ダイレクトな指摘だった。
「どうしたの? って、言われたい顔だよね」
「……っ」
言われたことを理解して、落ち着いてきたはずの顔に一気に血が上る。
けれど赤くなっているだろう顔を隠すこともできず、岸田は信じられないものを見るように辻を見上げた。
今までも気にかかるような事を言われてきた岸田だったけれど、ここまで辻が踏み込んだ事を言ってくるのは初めてだったのだ。
見上げた先の辻は、先ほどと同じ、無表情。
「普通にできないなら、行動した方がいいと俺は思うけど」
そのまま踵を返すと、辻は何も言わずその場から歩き去った。
岸田を、その場に残して。




