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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
26日目~28日目 原田視点

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後半、岸田&辻ターン入ってます。


その後も自分突っ込みを内心でかまし続けながら、原田は風景写真を撮りながら歩いていた。

写真を撮るという目的だけではなく、自分が山を歩く事や風景を見る事が好きだという事もあって、いつの間にか太陽も南天に差し掛かっていることに気が付いた。


「そろそろ戻らないと、まずいな」

昼飯を食べて、十四時前にはここを出る予定になっている。

原田は登っていた足を、下る方向へと変えた。

そんなに奥まで来たわけではないから、時間には間に合うだろう。

急ぐでもなく、のんびりと下っていく。


そう言えば、合宿所の裏庭に小さな池があったな。

それを最後に撮って、終わりにするか。

入っても膝丈くらいしかない池だけれど、既に秋の雰囲気が……


そこまで考えてから、思わず肩を落とす。

三和の小憎たらしい笑みが、脳裏を掠めた。


だから。

俺は、どこの色惚けだ。


自分で突っ込まない事には、どうにも恥ずかしさが拭えなかった。











「あ、おはよう。岸田さん」

岸田は突然かけられた声に、びくりと肩を震わせた。

足を止めて振り返ると、そこには辻の姿。

どこかに行くつもりなのか、手にはお財布を持っている。

「……おはよう」

返された挨拶に、辻の眉が顰められた。


整った顔の人がすると、どんな仕草もさまになるから羨ましい。


そんな事を考えながら、自分を見下ろす辻から視線を外す。

あまり、見られたくないのだ。

特に、今日は。


「どこか行くの? 私は食堂に行こうと思って」

質問を投げかけながらも強制的に終わらせようとしている自分。

岸田は自嘲気味に目を伏せると、そのまま歩き出そうとして……失敗した。


引き戻される、自分の身体。

掴まれた腕は、昨日と同じ個所。


驚いて顔を上げれば、眉を顰めたままの辻がじっと岸田を見下ろしていた。

その、目が、あう。

「寝不足?」

その一言で、頬が火傷しそうなくらい熱くなっていく。

「ち、ちが……っ! そう! そうなの!」

否定しようとした言葉を飲み込んで、岸田は肯定するように頭をぶんぶんと縦に振った。

「今日で帰ると思ったら、なんだか目が覚めちゃって!」

だからなんでもない、と続けて、その掴まれた腕を自分に引き寄せようと力を込める。

けれど辻は離す気がないらしく、その手は岸田の腕を掴んだまま。


「あ、の。辻くん」


離して、と言外に込めても、辻は微動だにしない。

そのかわり、低い声が頭の上から降ってきた。


「何か、あったの。昨日、あの後」


途切れ途切れの声が、余計、威圧感を醸し出す。

いつも笑っている辻の顔が、無表情に見下ろしてくる。


「何も、別に。何も……」



――原田くんに特別な人がいると、知りました。


そんな事、言えない。



目を逸らして、辻の言葉を待つ。

手を離してくれるのを待つ。

ほんの少しだと思う。


「そう。何も、ね」

「うん」

「……俺は顧問の所に行ってこようかな」

「え? あ、うん」

突然言い出した言葉にすぐに反応できず、とりあえず頷いた。

責められているような雰囲気がやっとおさまり、腕を離されたことで知らず強張っていた体から力が抜ける。

それを眺めていた辻は、あのさ、と呟いた。



「そんなにわかりやすく態度に出すなら、言葉にした方が俺はいいと思う」

「……え?」

いきなり言われた言葉は、今までの中で一番ダイレクトな指摘だった。

「どうしたの? って、言われたい顔だよね」

「……っ」

言われたことを理解して、落ち着いてきたはずの顔に一気に血が上る。

けれど赤くなっているだろう顔を隠すこともできず、岸田は信じられないものを見るように辻を見上げた。

今までも気にかかるような事を言われてきた岸田だったけれど、ここまで辻が踏み込んだ事を言ってくるのは初めてだったのだ。

見上げた先の辻は、先ほどと同じ、無表情。



「普通にできないなら、行動した方がいいと俺は思うけど」



そのまま踵を返すと、辻は何も言わずその場から歩き去った。


岸田を、その場に残して。


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