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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
14日目~20日目 原田視点

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40/118

岸田の後ろ姿を不思議そうに見遣る俺に、辻は一つ溜息をついて踵を返した。


「ほら、早く荷物持ってきて」

「んあ? あぁ」


辻の声に我に返ると、肩の上に担いでいた荷物を腕におろして慌てて後ろを追い掛けた。

中に入ると、まだ誰も来ていないらしくカーテンの引かれた部室は薄暗い。

真ん中の長机に荷物を置くと、辻と手分けしてカーテンと窓を端から開け放った。

「今日も暑くなりそうだな」

「そうだね」

既に気温の上がってきた空気が、部室に入り込む。

反対側から窓を開けていた辻が、あと一枚を残して手を止めて俺を見た。


「アオさんて面白い人だね」

「っ、なんだよ急にっ」


何の脈絡もなく言われた言葉に、大げさなくらい声が上ずった。

そんな俺を見ながら、少しも動揺せず辻はにっこりと笑う。

「その上、凄く察しがいい。気持ちも優しいし、素敵な人だね」

「え……?」

突然言われた言葉に、動きが止まる。

辻はそんなことお構いなしに、残っていた窓を開けた。

「付き合ってる人とかいるのかな?」

満面の笑みの辻の声に、どくりと鼓動が大きくなった。



「それって、どういう……」



脳内にまわるのは、昨日、俺がいない時に何かあったのかという事。

辻が、……アオに対して……


「え? どういうって、そのままの意味だけど。付き合ってる人いないなら、僕が立候補してもいいわけでしょう?」

「よくないっ」

勢いで返して、すぐに口を噤んだ。

辻はそんな俺を見てにやっと笑うと、頷いて窓際から離れる。

「なるほどねぇ」

そう呟く表情を見て、かま掛けられたことに気が付いた。

やられた、くそっ!

部室内を歩いている辻を睨みつけると、まったく気にしない風体で肩を竦める。


こいつ、ぜってー腹黒い。


「そっかー、原田がそこまではっきり気持ち固まってるとは思わなかった。じゃあさ」

長机の上の荷物をぽんぽんと叩きながら、俺を見た。

「世話焼きも大概にしないと、ね?」

「どーいう意味だよ」

アオに対しての気持ちを言わされたことにもやもやとしながら、適当にその言葉に問い返す。

分かんないかなぁと呟きながら、辻はくすりと笑った。

「特定の人を好きになったのなら、不特定への世話焼きは自粛するべきだよって言ってんの」

すると辻は、何か気づいたようにドアの方へと顔を向けた。

「? どうした?」

その行動に思わず声を掛けると、辻は片手をあげて俺を制すると少し大きめの声を上げる。

ドアの外へと向って。


「ごめん。もしかして、そこにいる? まだ着替えてないから、入って大丈夫だよ」

「え?」


つられてドアを見ると、それがゆっくりと開いた。

そこから顔を出したのは、さっき教官室に行った岸田だった。

何か困惑したような表情で、せわしなく視線を動かしている。

けれど辻は何も気にすることなく、何でもない様に岸田に声を掛ける。

「待たせちゃってごめんね、岸田さん。着替えはここじゃないし、何か用?」

岸田は少し戸惑う様に眉を顰めた後、机の上の荷物に目を留めた。

「あ、紙袋! この中に私の荷物も入れちゃってて……!」

「そっかー、これ?」

辻は紙袋を手に取ると、ドアの隙間からこっちを覗いている岸田に差し出した。

「ごめんね、岸田さん。ホント鈍くて」

その言葉に、荷物を受け取ろうとした岸田の動きがとまる。

けれど俺はそのことではなく、辻の言葉に首を傾げる。

「鈍い? 言葉ちがくねーか、辻」


腕を宙に止めたままの岸田に紙袋を渡して、辻がドアを閉める。

岸田は着替えに使っている教室にでも行くのか、駆けていく足音が段々と遠ざかった。

辻はそれを確認するように窓から外を見ると、その体勢のまま顔だけ俺の方に向けた。




「鈍いのは、お前だよ原田」




……なんでだ?


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