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その目を開くとき 2 <マキア視点>





パーティーで会った王子様はもう二度と会うことはないと思っていた。実の兄でさえ、学園生活で会うこともないし、一目見ることもかなっていないのだから。




「いつもここにいるのか?わざわざ来るには少し遠い気がするが」

「殿下…?!」

「ちゃんと名を呼んでくれと、いつも言っているだろ?」

「…アルフェンス様」


満足そうに頷いた彼は、マキアが昼休みに裏の森に向かうところをついてきてしまったらしい。


「この子達と一緒にご飯を食べているんです」

「リスか。よく懐いているな」

「最初は私の魔力につられて、今はご飯目当てですね」

「なるほど。シートがあれば服も汚れない」


アルフェンスがシートに座ると、傍にいたリス達も彼の周りを走り回った、そうかと思えば気が付けば肩までよじ登り、リラックスした態度で首を傾げる。

見えていない筈のリスに、笑みを零すアルフェンス。

誰が彼を盲目と思うだろうか。

そして地べたに一枚シートを引いただけの場所に腰を下ろす彼が王子だと言うのも、なんだか不思議な気分だった。


「マキアは魔力が見えるのだったな」

「はい。昔から」

「そうか、ならば俺と同じだな」

「で…アルフェンス様も?」

「あぁ、物心ついた時には見えていた」

「すごい!私以外初めて会いました」

「そうだろうな。俺も…母以外知らなかった」


どこか寂しけに息を吐いたアルフェンスに、言葉が詰まる。気の利いた事一つも言えない自分を恥じて、下唇を噛んだ、その時。


「そんなことをしてはいけない。傷ついたらどうするんだ」


何の躊躇いもなく、触れる、マキアと違って少しごつごつとした大きな手。指先が唇をなぞった。

頬に熱が集中するのがわかる、見えていないと分かっているが、どこまで知られてしまうのか少し怖い。ドキドキして身動ぎ一つ、できない。


「血は出てないな。…よし」


満足げに頷いたアルフェンスは、マキアを見つめる。閉ざされた瞳で。


「マキア」


自分の名を刻む、形の良い唇。何を言われるのだろう、つい身構えてしまうマキアは身を固くした。


「……いや、なんでもない」


少しの沈黙の後、苦笑を零したアルフェンス。

邪魔したな、とポンと頭に軽く手をのせて、立ち上がっていく後ろ姿をじっと眺めた。

あんなに澄んだ魔力を見たことはない、神に愛された存在だと思った、けれどその目を、どうしても直視できない。

それをわかっているからか、アルフェンスはたまに苦しそうな顔をする、申し訳ない、と口をする前に風のようにどこかへ行ってしまう。






言い知れぬ感情をマキアに残して。



この世界の動物は魔力を持っています。言うなれば魔物なんですが、だからといってリスが人間を襲う訳でもないので、動物扱いにしました。

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