story3「ゴーレム」
「なぜこんなところにゴーレムが居るんだ?」
俺の脳内CPUが崩壊直前だったとき、サンがさらりと言い放つ。
「ゴーレム? RPGとかに出てくる?」
「あーるぴーじー? それは知らんが、こいつは間違いなくゴーレムだ。神子と同じで、体が神力で構成されているからすぐにわかる」
「……神子と同じって」
ますますどういうこと? 余計にわからなくなってきたぞ。
「レナ。ゴーレムってなんだ?」
「……えっと」
あ、この顔……レナも知らないんだ。ちょっと頭の悪いところがあるよな。レナは。そこが可愛いんだけど。
「ゴーレムはね。神力アイテムの一つだよ」
すっかりと説明係になっているマイルが、レナの鞄からひょこっと顔を出した。珍しく起きてたんだな。
「神力アイテム?」
「そうだよ。神力アイテム『ゴーレム召喚!』。ぬいぐるみ型のアイテムで、使用者の心に反応して姿を変えるんだ。そして、使用者を護衛するアイテムなんだよ」
またゼウスのセンス全開のネーミングだな。
つまり……この子は本物の霜じゃなくて、雫の心に反応して姿を変えたゴーレムってことだよな?
「へぇ……神力アイテムなんだ」
そして、張本人の雫が一番軽い反応してるし。
「お前、神力アイテムなんてどこで手に入れたんだよ?」
「家に送られてきたの。小包で」
「……冗談?」
「ガチでマジよ」
なんでそんなお歳暮みたいに神力アイテムが送られてくるんだよ。
「お姉ちゃん……」
「あ、ごめんね霜。一人だけ蚊帳の外にして」
ぎゅっと霜を抱きしめる雫。
……見れば見るほど、どこからどう見ても霜が成長した姿だ。小さい頃から可愛かったけど、かなりの美少女に成長してる。姉妹だけあって、雫とそっくりだ。同じピンク色の髪を、ポニーテールの雫とは違って、即頭部の片側で結んだサイドポニー。瞳の色も雫と同じでオレンジ色だけど、柔らかくて自信なさげな部分は雫とは正反対。スタイルは……レナと同点ぐらい。そこは似なかったんだな。まぁ雫が良すぎるだけだけど。
見た目、ゴーレムなんて存在とは思えない。それに、
「ゴーレムって知性があるんだな」
雫をお姉ちゃんと呼んでるあたり、人間や神子と同程度に知性はありそうだ。ゲームとかのゴーレムは知性なんて皆無の暴君だけど。
「基本的に、ゴーレムは私たち神子と変わらない。学んで成長する。内蔵神力が続く限りは活動を続ける」
内蔵神力? ああ、そういえば神力アイテムって、ゼウスが神力を込めて作ってるんだったな。それが無くならない限りは動き続けるってことか。
「内蔵神力ってどれぐらい持つんだ?」
「無茶な活動をしない限りは、人間や神子と同じだけの寿命があると思っていい」
本当、神子と変わらないんだな。
確か使用者を護衛するって言ってたっけ? 神子が自分の身を守るためのボディガードってことか。
……ん? ってことは。
「ああ見えて強かったりするの? ゴーレムって」
「身体能力は高いはずだが、護衛が目的であって、相手を傷つけるのが目的ではないからな。危害を加えられるような仕様ではないはずだ」
そうか。神力アイテムって基本的に相手に危害を加えられる物はないんだったな。Bランク以上の神子が持ってる専用アイテムを除いて。
「でもぉ、『ゴーレム召喚!』って、内蔵神力が多くて作るのが面倒だから、ゼウスが面倒だって、ほとんど数が出回ることなく生産中止になったって聞いたけど?」
「ん? そうなの?」
ミレイも神力アイテムのことけっこう知ってるんだな。さすが元Aランク神子。
「そうだね。『ゴーレム召喚!』は普通の神力アイテムに込める神力の十倍以上の神力を使うから、ゼウス様が面倒くせーって言い出して、確か全部で十個も作らなかったはずだよ」
「……激レアアイテムじゃん」
全部で十個もないって、有名ブランド物で言ったら価値が大沸騰物だぞ。ていうか面倒ってのが理由? 相変わらずふざけた奴だな。
そんな激レアアイテムが、なんで雫の家に送られてくるんだよ。小包で。お歳暮みたいに。
「……」
でも……。
雫が笑ってるのを見てると、そんなのどうでもよくなる。
嬉しそうだな……雫。
「……回収とかするの?」
「ん?」
気がついたら、俺はサンに聞いてた。
経緯はどうあれ、人間が神力アイテムを持ってるってのは、異例だろうから。
「人間界で神子以外がアイテムを持ってたら、回収の義務とかあんのかなって」
「……」
サンも俺の言いたいことがわかったらしく、少し考えてから、口を開いた。
「ゼウス様は適当だからな」
「え?」
「神力アイテムの管理については、そこまで厳しくはない。神子以外が神力アイテムを持っていても、気にしないだろうな。悪用さえされなければ」
……遠まわしに、見逃してくれるって言ってるのがわかった。ありがとう。サン。
しかし、うん……ゼウスが適当ってのを理由にされると、めっちゃしっくりくる。
気を取り直して、俺はゴーレム……いや、霜に声をかけてみた。
「……霜?」
ちょっと疑問形で名前を呼ぶ。そんな呼び方でも霜は、
「……はい?」
返事をしてくれた。自分が霜だって認識してるんだな。
「葉介。あんた、霜まで毒牙にかけるつもり? だとしたら容赦しないで潰すけど」
「なんでだよ。俺がいつ誰を毒牙にかけた? 潰すってなに? ツッコミどころありすぎておいつかねぇよ」
「レナと瑠璃ちゃん」
かけてねぇし。むしろどっちかって言うとかけてんのお前だし。俺がいつレナと瑠璃に手を出した? お前は手を出しまくりだろうが。女同士じゃなかったら犯罪だ。
「……?」
見ろ。雫が変なこと言うから霜がきょとんとしてるじゃんか。めっちゃ俺のこと見てるじゃんか。
「……ようすけ君?」
今度は霜が疑問形で俺の名前を呼んできた。
ああ……めっちゃ見てると思ったら、お姉ちゃんが呼んだ葉介って名前はこの人? 的な感じだったのか。
「そう。俺は葉介って言うんだ」
「どくが……牙? ようすけ君は牙があるんですか?」
違います。変な言葉を覚えないように。
しかし、疑問形で名前を呼ばれて改めてわかったけど。ていうか、考えれば当たり前なんだけど。
俺のことを知ってるわけないよな。この霜は、俺の記憶にある霜じゃないんだから。
「私はレナです! こっちは先輩とミレイさんですよ~」
レナ。先輩じゃ紹介になってないぞ。サンが先輩なのはレナだけだし。でも笑顔が可愛いから許す。
「……お姉ちゃんのお友達なんですよね?」
「そうですよ。みんな雫のお友達ですー」
「……私とも、お友達になってくれますか?」
霜は少しもじもじとして、恥ずかしそうに枯れるような声を出す。
……本当、性格は瑠璃そっくりだな。まるで瑠璃を見てるみたいだ。絶対に気が合うぞ。瑠璃と霜。
「もちろんですよ! 霜と私はもうお友達です~」
「!?」
レナに抱きつかれて、霜は驚きのあまり声を失ってる。顔が真っ赤だ。そんなに恥ずかしいのかな。そしてその光景を、雫が後ろで息遣い荒く見てる。目が犯罪者の目です。
「……今からあんたの家に行くわ」
そして急にそんなことを言い出した。突拍子もない。
「なんでだよ」
「霜とレナと瑠璃ちゃんを並べて鑑賞するの」
レナたちはお前のコレクションじゃないっての。なに真面目な顔で馬鹿発言してんだよ。ていうか絶対鑑賞だけじゃ済まないだろうが。
「霜。今から私のもう一人の妹を紹介するわ」
「……もう一人? 私以外にも、妹さんがいるの?」
「うん。霜と同じで可愛い子よ。絶対に仲良くなれるわ」
それって瑠璃のこと? お前の妹じゃねぇし。俺の妹だし。さらりと戸籍偽造するなよ。
「そうと決まったら早く行きましょ! レナも!」
「え? し、雫! 引っ張らないでください~」
レナと霜は雫に手を引かれて拉致されていった。
……仕方ない。醤油は俺が買っていこう。
それにしても……。
「なんで雫のところにあんな激レアアイテムが送られてきたんだ?」
俺と同じくその場に残ったサンとミレイにその疑問をぶつけた。
雫が嬉しそうだからいいやと思ったけど、そういうわけにもいかないよな。普通に考えて、有り得ないことだと思う。ただでさえ、神力アイテムなんて一般的に知られてないんだから。
つまり……雫に『ゴーレム召喚!』を送ってきた相手は、神族しか考えられない。
「ゼウスからのプレゼントじゃないのぉ? 可愛い子大好きでしょ。あの王神。だから神子も全員女の子なのよ」
それはミレイと雫だろ。
……確かに、神子が女の子しかいないってこと考えると、ゼウスの趣味? って思うけど。それは今は置いておこう。
「……いちおう、ゼウス様にはそれとなく確認はしてみる。確かに普通ではないからな。『ゴーレム召喚!』を送ってきた相手は、雫が私たち神子と関わりがあることを知っていて送ってきた可能性が高い」
「……どういうこと?」
「なにか目的があるかもしれない。ということだ」
神族が、なにか目的をもって、雫にアイテムを送った。
なにが目的なんだ?
……あんまり考えたくないな。
あれだけ喜んでる雫を見たら、何も無いでほしい。そう願いたくなる。




