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神子の恩返し  作者: 天天
『瑠璃』パート
34/63

story10「躊躇い」

「お兄ちゃん」

 夜。夕飯のあとで、後片付けをしていた瑠璃が携帯片手に声をかけてきた。誰かと電話してたのか?

「どうした?」

「えっとね……学校のお友達が、今からお泊りで遊びに来ないかって……」

 学校の友達……きっとあの子たちだな。

 瑠璃の教室に行ったとき、俺に話かけてきた三人の女子生徒だ。赤ヶ丘から瑠璃がいなくなるってことを聞いて、本気で悲しそうにしていた。

「いいじゃないか。行ってこいよ」

「……いいの?」

「駄目なわけないだろ」

「うん。じゃあ行ってこようかな……本当は……」

 瑠璃が悲しげに声を小さくした。

「できるだけお兄ちゃんたちと一緒にいたいんだけど……」

「……」

 瑠璃の叔父が迎えに来ると言っていたのは昨日から一週間後。つまりは、来週の木曜日だ。それを考えると、確かに時間はあんまりない。

 でも……。

「俺はまだ諦めてないからな?」

「……うん。ごめんなさい」

「謝るなって。とりあえず、行ってこいよ。友達付き合いは大事にしたほうがいいぞ」

「うん。そうするね」

 少し嬉しそうな瑠璃。相当仲が良い友達なんだな。

 夕飯の後片付けに戻った瑠璃と入れ違いに、レナがリビングに入ってきた。ちらりと瑠璃を見ながら、俺にこそこそと喋りかけてくる。

「葉介。丁度いいです。これから……先輩が神界から戻ってくるんですよ」

「サンが?」

「はい。堕ちた神子のことでなにかわかったとかで」

 なるほど。確かに、瑠璃がいない方が話しやすいか。じゃあ雫も呼んだ方がいいな。呼ばなかったなんて後でばれると俺がボコられる。



★☆★☆★☆



 一時間後、迎えに来た友達と家を出る瑠璃を見送ってから、雫に連絡を入れる。サンが来たのは、雫とほぼ同時だった。

「瑠璃ちゃんは?」

「友達の家に泊まりに行った。タイミング的にちょうど良かったな」

「……」

 あ、こいつ。女の子だけのお泊まり会を想像して興奮してやがる。顔で丸わかりだ。

 レナがお茶を入れてくれて、全員がリビングのソファーに座る。話を聞く準備OKだ。

「先輩。なにかわかったんですよね?」

「ああ。堕ちた神子についていろいろ調査した」

 堕ちた神子。今回の騒動の原因ともなっている……301号。ミレイと名乗った、あの神子だ。

「堕ちた神子は、神子の使命を放棄し、人間界へと逃げた神子のことだ。それは知っているな?」

「ああ」

「そしてその堕ちた神子が……集まり、一つの組織として活動をしているらしい」

 組織だって? 秘密結社じゃあるまいし。

「……なんのために?」

 神界を追われた神子。その堕ちた神子たちが集まって組織を作ってるなんて、穏やかな話じゃない。

「詳しくはわからないが、あの堕ちた神子の言っていたことを鵜呑みにすると……一つしかない」

「……」

 ゼウスへの復讐。

 ミレイはそう言ってた。

 ゼウスへ復讐するために、堕ちた神子は人間界で集まってるって言うのか? 確かに神子を使命で縛ったのはゼウスだ。でも、そこまで恨む相手なのかよ。

「でもさぁ。人の願いごとを間違った形で叶えることで、本当にゼウスへの復讐になるの?」

 雫の疑問も最もだ。俺自身、そこはあんまり納得していない。

 人の願いを間違った形で叶えることで、人間界を混乱させる。そうして人間界を壊していけば、ゼウスの面目は丸潰れ。ミレイはそれがゼウスへの復讐になるって言ってた。

「微妙だね。あの堕ちた神子が言っていたことを考えると、願いごとを叶えるときに自分の神力で無理やり別の形へと変えるってやり方だった。つまり、どんな形に願いごとが変わるかは堕ちた神子自身もわからないってことだよ」

 カール……お前、いたんだな。最近影薄いからわかんなかった。

「と言うことは、本当に人間界に影響を与えるような願いごとになるかなんてわからない。堕ちた神子のやっていることは、あんまり理にかなってないんだよ」

 確かにそうだ。今回のことだって、瑠璃の願いごとを間違った形で叶えることで人間界が混乱とか壊れるとか、そんな大げさなことになるかどうかって言われたら、答えは否だ。

 じゃあなんのために、堕ちた神子たちは人間の願いを間違った形で叶えてるんだ?

「……堕ちた神子たちは、人間の願いを叶えることで、なにかを成そうとしている」

 ……なにか?

 ゼウスへの復讐じゃなくて、別のなにかってことか。確かに、そう考えるのが妥当かもしれない。それがなにかはわからないけど。

「それを確認するためにも、堕ちた神子を探して確保する」

 でも……。

 俺には、ミレイの感情が偽りだとは思えない。

 本気でゼウスを恨んでいる。

 少なくとも、ミレイはそうだった。でないとあれだけ憎しみと嫌悪をゼウスに向けられないだろう。

「改造神力アイテムのことも気になりますよね……」

 ああ、そうだった。もう一つの問題。改造神力アイテム。

 ゼウスが神力を込めて作った物を、そんな簡単に改造はできない。そう言ってたな。

「いくら集まったところで、神子が神力アイテムを改造するなんて不可能だよ」

「……そうだな。それはゼウス様も言っていた」

「じゃあ誰が改造したんだよ?」

 王神のゼウスが改造した物を改造できる奴。

 ……まさかな。俺が冗談で言ったことが本当なわけないよな。

 他の王神が絡んでるなんて。そんなことないだろう。

「それも、堕ちた神子を確保すればわかるかもしれない」

 けっきょく、ミレイを探すしかないってことか。

「……それにあの堕ちた神子を確保して、改造神力アイテムを奪えば……今回の件もなんとかなるかもしれない」

「え?」

 今回の件って、瑠璃のことか? なんとかなるって……どういうことだ? 俺はサンの言葉に食いついた。

「ど、どうしてだよ?」

「あの改造神力アイテムは、神力を吸収する能力だ。今の私は願いを叶えるための神力を持っていないが……うまく使えば、一度願いを叶えることぐらいはできるかもしれない」

 それって……サンが瑠璃の願いを叶えて、願いごとを上書きするってことか? この前、サンが不可能だって言ってた方法だ。

 確かにそれならなんとかなりそうだ。でも……。

「本当なの!?」

「神界の天の川は神力を生む川だ。そこでうまく神力を吸収できれば……」

「まてよ。サン」

 それには大きな問題がある。

「改造神力アイテムなんか勝手に使ったら、お前だって堕ちた神子と同じ扱いにされるんじゃないのか?」

「……」

 ゼウスはともかく、それこそ他の王神が黙ってないだろう。ただでさえ、最近はゼウスが神子の在り方を変えようとして注視されてるのに、ゼウスの監視下で、サンが改造神力アイテムなんて使ったら、それこそ拘束されてもおかしくない。

「気持ちは嬉しいけどな。サンが犠牲になってまで、願いごとを上書きするなんて、瑠璃は嫌だと思う」

 瑠璃はただでさえ、自分のせいだって思って、自分を責めてるんだ。その上、自分のせいでサンが神界で拘束されるようなことになったら……自責の念で潰れてしまうかもしれない。そんな瑠璃は見たくない。

「……葉介。お前の性格はわかっている。お前ならそう言うと思った。しかし……誰も傷つかないで物事を解決できることのほうが少ないんだ」

 綺麗事。なんだろうな。俺の言ってることは。

 わかってる。気持ちだけじゃ、感情だけじゃ、どうにもならないことだってある。

「……私はただの神子に過ぎない。私のことは気にするな」

 でも俺は、

「神子だからなんだよ」

 割り切れない。

「前にも言っただろ。神子である前に、サンはサンだって」

「……」

 神子だからなんだって言うんだ。

 俺にとって、神子である前に、サンはサンなんだ。それは譲れない。

「先輩。自分を犠牲にして解決しても、何にもなりませんよ。一度、自分は消えてもいいと思っていた私だから……わかります」

 レナもサンに笑いかけながら言う。同じような経験をしているレナだからこそ、笑って言えるんだ。本当に、自分を犠牲にしても誰も喜ばないってことを知ってるから。

「お前たちは本当に、馬鹿みたいに真っ直ぐだな」

 俺たちの気持ちに、サンが折れた。呆れたように息をついてるけど、顔は少し嬉しそうだ。

「俺にとってそれは褒め言葉だぜ」

「真っ直ぐすぎて心配になるがな」

「そうですか?」

 レナと顔を見合わせて、お互いに笑う。

 真っ直ぐすぎる……か。

 いいんだよ。それが俺だからな。

「とりあえず、堕ちた神子を探したほうがいいんじゃないの?」

 空気を読まず、カールが話に入ってくる。まぁ猫に空気読めって言っても無理な話だ。

 確かに、改造神力アイテムは別としても、ミレイを見つけて捕まえるのは仕方ないことかもしれない。サンが言っていた堕ちた神子が集まって組織を作っている。それについて、間違いなくミレイはなにか知っているだろうからな。

 俺は……あんまり気が進まないけど。

「そうだな。明日、私は堕ちた神子を探す。あいつの言葉を信じるなら、この町にいるはずだ」

「私も手伝いますよ!」

「私も殺るわよ!」

 今、やるが殺るになってなかった?

「……」

 俺は一人で考える。

 ミレイは神子としてやってはいけないことをした。瑠璃をあんなに悲しませてるのはミレイだ。だから、これは仕方がないことだ。

 でも……なんでだろう。やっぱり、

「葉介。あんたは?」

「んあ?」

「馬鹿みたいな声出してないで、手伝うの? 手伝わないの?」

 俺はミレイを捕まえるってことに、躊躇いがあるんだ。

 たぶん……使い捨て神子だったレナのことがあるからだ。

 神子の使命。それに縛られて、一度消えたレナ。

 ミレイも……神子の使命に縛られていた。それから逃げたかっただけなんだ。

「……手伝うよ」

 ミレイを捕まえる。

 いや、俺はもう一度、ミレイと話がしたい。



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