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episode thirty-five

ヨロシクお願いします


「――てなわけなんだけど」


 いつもの夕食。


 いつもの日常。


 招待状が届いた経緯は省きつつ、招待を受けたことを母さんたちに伝える。


「そういえば、そろそろ殿下の誕生日だったわね」


 一般人が普通に『陛下』や『殿下』を使う。

 俺からすると多少違和感がなくもない。


 日本だと、メディアとかはたいてい『天皇皇后両陛下』とか、使うよね。

 皇族にたいしては〇〇宮△△様、ってなかんじか。


 一般人は、普通に天皇とか、皇族だと〇〇様とかじゃね?


 少なくとも、あんまり陛下とか、殿下とかって言わないよね。


 あー、余計なこと言うとさ、例えばそうだな……現代初の生前退位を果たした平成天皇代を例に出すか。


 その頃は、西暦2017年なら平成29年とかって言うだろ。

 でもその当時で天皇陛下を呼ぶときに『平成天皇』って言ったらアカンのよ?

 『平成天皇』って呼んでいいのは、崩御なされた後だけだぜ?

 当代の天皇陛下ことは『今上天皇(きんじょうてんのう)』って呼ぶんだ。


 在位中の天皇へ、勝手に年号付けて呼ぶなよ?

 亡き者扱いだよそれじゃあさ。

 

 知っていると社会に明るいアピールになるからな。

 まあこの知識をひけらかすタイミングなんてそうそうないだろうけど。


 因みに天皇には名字ないよ。



 閑話休題



「楓さんも入れるの?」


「ええ、警護官ならば入れたと思うわ」


「えーっと、春姉は?」


「……私、その日家に帰る。その後、病院に、行きます」


 俺はそう言った春賀に問いかけた。


「お母さんの所?」


「うん」


「そかそか、了解」


 因みに今日の夕飯は肉だ。

 鶏肉を甘塩っぱく焼いたヤツ。


 作ったのは母さん。


 ビールを美味そうに煽っている。


「ところで母さん」


「ん? なぁに冬夜くん」


「はい、これあげる」


 おもむろに10枚の紙切れを取り出して、母さんにあげた。

 表には『何でも言うこと聞きます トーヤ』と書かれた文字が。


 それを見た母さんは、獲物を見つけた肉食獣が如く。


 バシュッ! って音がするくらい素早い動きで、俺から紙を受け取った。


「……うふ、うふふ、うふふふふふふ……♥」


 不気味に笑い続ける母さん。


 あーあ、逝っちゃった。


 これあれだよ、春賀を家に持ってきたとき母さんを釣ったエサ。

 俺は約束を守る男だぜ?

 すげーだろ?


「ずるーい! お母さんだけずるーい!」


「冬華は、来週遊園地ね」


「ッ!? わーい!」

 

 うーん、なんかアホっぽい会話だよなぁ?


 背後にお花畑の幻覚が見える冬華は放っておき、今度は楓さんに向き直る。


「楓さんには後で話あるから、俺の部屋来て?」


「モグモグ……」


 あら、口に物入れてるとき話しかけちゃった。

 返事をしようとする楓さんを手で制し、とりあえず目線で了解の返事を貰う。


 しっかし今日のジャージもいっそうダサいな!


 俺は肉を口に放り込みながら、ここしばらく戻った平穏の味をよくよく噛み締めた。


 俺の平穏はスーパーのそこそこ高い肉くらいでちょうどいいのさ。





■□■□





 夕飯を終えて風呂も入り、時刻は9時を回ったところ。

 

 コンコン、と俺の部屋の扉がノックされる。


「どうぞ」


 カチャリと扉を開けて入ってきたのは楓さんだ。


「いらっしゃい、そこかけて」


「は、はい」


 俺はベッドに腰掛けて、楓さんは向かいのソファーに座らせる。


 所在なさげにあっちを見たりこっちを見たり。

 オドオドする楓さんは、本当に眺めていて楽しいよ。


「わざわざありがとね」


「い、いえ……全然そんな……」


 そんな楓さんに、俺は何枚かの書類を渡した。

 

「……?」


「俺にモデルになって欲しいって雑誌やらの書類と、テレビ出演の依頼を書き留めたやつだよ」


「こ、こんなに……」


「とりあえず、夏休み中はいくつか出てみようかなってさ」


 もちろん、俺はギャラを貰うつもりでいる。

 むしろギャラが出ないなら出演もしない。


 だからと言って、貰った『仕事』を手抜きしようとは思わない。

 金が発生する以上、真剣に取り組む。


 本業にするつもりは無いけどな。


「楓さんも色々忙しくなると思うけど、よろしくね」


「は、はい」


 手渡した書類を返して貰い、再びしまう。

 

「とりあえず、明日雑誌の撮影入ってるからね」


「は、はい……かしこまりました」


「ん。さて、本題入ろうか」


「……あう」


 まだ本題じゃないんだぜ楓さん。


 ここからはオフコレでよろ。


「楓さん」


「は、はい……」


「如月大尉と連絡取れる?」


「……い、一応、可能です」


「俺からも黑河中尉に当たってみるけどさ……軍の医療研究で、春賀を臨床実験の被験者に出来ないかな?」


「……そ、それは……」


「欲しいでしょ? 子どもの被験者」


「……」


「この前も話したけど、そこそこ恩も売れたじゃん? 皇国軍だって、今まで汚いことの100や200やってきたでしょ? 今更非合法実験の1つくらい増えたっていいじゃん」


 もちろん尊重するのは春賀(本人)の意志だけどさ、と付け加える。


「だから、もし本人がやりたいっていったら、大尉たちを通じて上に話を通して貰おうよ。もちろん楓さんも頑張ってね?」


「……む、むちゃくちゃです……き、危険性だって――」


「危険性も込みで本人には伝えるよ。犠牲無くして科学の発展はあり得ない……まあ、犠牲は言い過ぎだけど、結局被験者は必要じゃん」


「……そ、それは、そうですが」


「でも、許可が下りたらだけどね! はい、話はここまで! さ、寝よ寝よ」


 俺はそのまま腰掛けていたベッドで横になって、部屋の照明を落とした。


 楓さんはソファーの上で、うーだのむーだのうなっている。

 かなり真剣に考えているようだ。


 だがしかし。

 

 うるせえな。


 はよ寝ろ。

 明日も仕事だぞ。

 警護官はブラックな仕事だぞ。

 はよ寝ろ。


「……むぅ……うーん」


 ……ああ、もーうるせえな!


「楓!」


「ひゃい!?」


 いきなり呼ばれた楓さんは、ビクッと顔をあげてこっちを向いた。


「こっちに来い」


「は、はい」


 命令口調で楓さんを呼びつける。

 近づいてきた彼女の腕をとって、ベッドに引っ張り込んだ。


「ひう!」


 すっぽり俺の腕の中に収まる楓さん。

 おっぱい。

 

 エアコンの涼しさのなかに感じる、じっとりとした彼女の体温、そしておっぱい。

 堪らなく心地いい。


「あ、あう……とう、や、様?」


「早く寝な」


「……は、はい」


 もぞもぞ動く楓さん。

 

 これじゃどっちが年上かわからんよなあおっぱい。


 その動きを感じながらも、俺の意識は微睡みの中に落ちていった。


 

 


 










 ただ、意識の落ちる最後まで、おっぱいの感触は感じていたがな。


 フニッフニ最高。





■□■□





 翌日。


 楓さんのことはほっぺたをペチペチひっぱたいて起こして差し上げ、俺は着替えてリビングに向かった。


 朝ご飯を食べて、仕事に向かう母さんを見送る。


「じゃ、冬華、春賀。留守番よろしくな」


「いってらっしゃい!」


「気を付けて」


 9時を過ぎた頃、俺も楓さんを伴って家を後にした。

 留守番は2人に任せて大丈夫だろう。

 幼い子どもじゃ無いんだし。


 留守番くらい出来るだろ……出来るよね……?


 ガレージの車に乗って、シートベルトを締める。


「それじゃ楓さん、よろしくね」


「は、はい……出します」


 滑らかに滑り出す車。


 相変わらずすげーなぁ。


「楓さん、最近調子どう?」


 しばらく走り、暇になってきたのでお喋りに興じる。


「い、良いです……」


「ほーん。彼氏出来た?」


「あう、で、出来るわけ、あ、ありません……」


 ですよね。  

 当然だよね。


 むしろ出来たって言われたら驚きだぜ。


 俺の楓さんにたかる腐れポンチが居やがったら、探し出して息子を踏み潰してやる。



「えー、そうなの? じゃあ俺のお嫁さんになる?」



「……へっ?」


 キイィー! っと車が蛇行して、一瞬デンジャードライブになった。


 うおっ、危ねぇ!


「ちょっと楓さん。危ないよ」


 俺は半眼で楓さんを睨む。

 じと目ってヤツだな。


 だが一方の楓さんは、もうなんか、どうにかなってる。


「……ふえ? け、けけ、けっこ……? ……こ、こけこっこ? つ、疲れちゃった、のかな……? で、でも……ほ、本当? お、お嫁さん、お嫁さん……♥」


 ほっぺたには朱がさして、口元は嬉しそうににやけている。

 なんかトリップしちゃった。

 

 今まで何だかんだやることやってるけど、面と向かって好きだのとかは言ったことが無かった。


 でも重婚とか合法だしさ、気に入ったら嫁にしちゃえばいいんじゃね? って思ったわけよ。


 だからさりげなくプロポーズしてみた。


 結婚するのはずっと先の話だけどな。

 

 (よわい)14で、一体何人の女性と関係を結んだんだよっつーのさ。

 将来何人嫁が出来るのか、賭けるのも面白いかもしれねぇな。


 

 結局楓さんはトリップしちゃったから、お喋りするのも出来なくって。


 しばらく走ること、やっと目的地に到着した。


 都会のビルだ。


 いやしかし無意識下で運転とか、楓さんは運転神の申し子だな。


 すげーよ。


 車を地下のパーキングに止めて、俺たちは降車する。


 エレベーターで2階フロアに上がったら、俺たちを待っていたのは――






「「「「「「お待ちしておりました、霧桐様!!」」」」」」





 30人ほどのスーツに身を包んだキレーなねーちゃんたち。

 一列に並んで俺たちを迎え入れてくれた。


 ……はは、久しぶりだぜ。


 女性のこの感じは。


 こっちに来たばっかりを思い出す。


 このギラギラした眼差し、嫌いじゃねーよ?


 さて、金のためにもしっかりモデル(マネキン)になりますか。


 













出す出す言ってこの遅さか……


恨むべくは、スケジュールなのかはたまた私の能力なのか。

恐らく、いや、ほぼ確実に後者だな……

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