episode ten
お食事前、お食事中の方はご注意ください。
もしくは~冬華~以降を飛ばしてください
あー、遅くなっちったな。
冬華を連れて少し歩き、タクシーを捕まえるのに思ったより時間がかかった。
「せ、1800円になります……あ、あの、お金はいいのでサインくださぃ」
ここに天使ってお願いします、と色紙を出してきた。
ポソポソ喋る、気の弱そうなタクシーの運ちゃん(美女)にしっかり金を払い、もちろんサインを渡してタクシーを降りる。
「ふえぇ、本物だぁ……ありがとうございます! ま、またのご利用お待ちしています」
あ、待った。
「あの、お姉さん。帰りもお願いできます?」
ぽ~っとサインを眺めている運ちゃんに声をかけた。
「ふあ? か、帰りもですか! 大丈夫です、個人タクシーですから……あの、何時頃……」
何このタイプ新キャラじゃん。
なんか、構いたくなる感じ?
いいわー。
「そうですね……10時頃かな? また連絡するんで、連絡先もらってもいいですか?」
「ふぁ、あの、ではこちらに……」
そう言って運ちゃんは名刺を差し出してきた。
『ぴかぴか個人タクシー 郡山 楓』
なるほど。
「その電話番号に連絡を貰えれば……」
「わかりました、ではお願いします」
「は、はい……」
運ちゃんに頭を下げ、冬華とレストラン名香野に向かった。
「冬華、みんなにちゃんとお礼を言うんだぞ?」
「うん! わかってるよお兄ちゃん!」
カランカラン♪
「いらっしゃい、冬夜くん! なっ、その格好は……!?」
早速裕璃が出迎えてくれた。
が、次の瞬間には固まった。
久しいな、この反応。
店にはクラスのみんながもう集まっていた。
一様に俺を見て固まって居るけどね。
隣の冬華は、皆に向けてグッと親指を立てている。
なぜ。
「あの服装は……」
「うん、間違いないよ!」
「本物より本物だ……」
「まさか、小説のヒーローに出会えるなんて……」
「私の執事様!」
「主人公みたいに」
「もしかしたら私たち」
「「「「「「ムチャクチャに犯されちゃうっ!?」」」」」」
おい、聞こえてるぞ。
それよりお前ら、この格好は執事なのか?
だとしたらその小説は間違ってるぞ。
執事なんてスーツか燕尾服だろ普通。
俺か? 俺がおかしいのか?
この世界の常識?
まあ、小説の話、フィクションらしいしな。
現実だったら、服装云々より男が働いてる方に驚くよ。
というか冬華よ、犯人はお前だな?
お前が買った残りの服まさか全部、コスプレじゃないだろうな?
半眼で冬華を見る。
「かっこいいよお兄ちゃん! 『私の執事様』の執事よりかっこいいよ!!」
うむ、そうか。
ま、許してやろう。
「こんばんは、裕璃。遅れてごめん、あと、冬華の件ありがと! 助かったよ」
「こんばんは、冬華です。ありがとうございます!」
「こんばんは! いいんだよ気にしないで! さ、コッチコッチ! ……寧ろ好都合、将を射んとするならまずなんとやら……」
「ん? 何か言った?」
「何も? さ、始めよっか!」
なんか言ったと思ったんだがな。
気のせいか?
グラスを渡され、ジュースを注がれた。
「じゃ、みんな! 1年間よろしくね!! カンパーイ!」
「「「「「「カンパーイ!!」」」」」」
裕璃が音頭をとって、みんなで乾杯をする。
さっそく冬華は、クラスの女子たちに連れていかれた。
まあ、大方俺の私生活について聞くんだろう。
そりゃあもう、根掘り葉掘り。
いやーん。
ちびちびジュースを飲みながら、ポテトと摘まんでいると、裕璃が料理を運んできた。
お、後ろに誰か居る。
おっとり美人だ。
柔らかく微笑んでいる。
「はい冬夜くん! あとね、こちらお母さん、ウチのオーナー兼シェフです」
「こんばんは、はじめまして。あなたが冬夜くんね? いつもありがとう、お陰で大繁盛だわ。後でお礼をしたいんだけど……どうかしら? 1区のホテルでディナーとか……」
「ちょ、お母さん!? ダメに決まってるでしょ!?」
「あら~、いいじゃない? 決めるのは冬夜くんでしょ?」
「うう~、ダメ! セクハラだよお母さん!」
つまり前世で言うと、こういうことか。
息子が女の子を連れてきた。
ウルトラ可愛い。
息子が父親を紹介、そしたらいきなり父親が粉をかけ始めた、と。
確かに怒るしセクハラだ。
しかし。
俺の感覚だとサービスだ。
ようは一夜ヤらない? って話だろ?
全然いいよ。
「はじめまして、オーナー。いつも美味しくいただいてますよ。ふふ、しかしオーナーがこんなにも綺麗な方だとは……裕璃さんのお母さんだから、美人だろうとは思っていたんですがね?」
そこで一旦切って、あの魔性の笑みを浮かべる。
「オーナーの特別メニューにも、期待していますよ? きっと極上でしょう……ね?」
つうっと、裕璃のお母さんを引き寄せ、耳許で囁く。
「はぁん……」
堕ちたな。
ふはは、歳上キラーと呼んでくれ。
ゆでダコになった裕璃母を裕璃に返した。
「私のお母さんだからって、と、冬夜くん……わ、私美人なの……?」
今度は裕璃が聞いてきた。
うんうん、美人だとも美人だとも。
この世界に来てからこの方、ブスは見たことないよ。
「じゃあ、裕璃。この前の約束、覚えてる? ほら、おいで」
ぽんぽん、と自分の膝を叩く。
「約束……あ!」
そう、この前の冬華や加那、七海ち来たとき、去り際に言ったのだ。
膝の上に座らせ、好きなだけ食べさせてやるってな。
「あ、あうあう……えっと、き、着替えてくる!!」
あーあ、行っちゃった。
着替えてくるって言ってたから、戻ってくるよね。
しかし、母親を抱えたままあの速度を出せるとは……やりおるな。
ん、オムライスうまうま。
デミのハンバーグも最高だ。
この二つが一番のお気に入りである。
何だかやけに静かだな。
何してんだみんな。
ん、くじ引きか?
ま、いっか。
メシウマ。
■□■□
~冬華~
「すいません、無理を言って……」
着いてすぐに、お兄ちゃんのクラスの人たちのテーブルに連れていかれた。
「大丈夫だよ! それで、冬華、ちゃんだよね? 冬夜くんの家での様子とか、色々聞かせて!」
うんうん、とみんな頷いている。
それくらいならお安いご用だよ!
「あ、あとね。冬夜くんとの相席は、3分毎に厳正なくじ引きをするからね? 妹のあなたでも、そこは譲れないよ?」
「はい、わかりました」
お兄ちゃんとの相席だもんね。
むしろみんなにチャンスがめぐるくじ引きなんて、親切すぎだよ。
お兄ちゃんのクラスメイト、いい人がたくさんなんだね~。
「とりあえず最初は、この場を提供してくれた名香野母娘だから。そのあとくじ引きしようね!」
「はい!」
「じゃ、色々聞かせて貰える?」
私はみんなに聞かれるまま、お兄ちゃんの話をしていった。
「いいな~冬華ちゃん」
「そうだね~」
私を羨む声が多数上がってくる。
ふふん、なんたってお兄ちゃんだからね!
「てゆーか冬華ちゃん! 今日はナイスだよ!」
なんだろ?
「冬夜くんの執事……見た瞬間ちょっと濡れちゃった!」
ああ、それか!
私、ばっちり親指立ててたもんね。
「あ、それ私も! 堪んないよね!」
口々にお兄ちゃんの服装について語りだすみんな。
うんうん、わかってるね。
さすが先輩、お兄ちゃんの魅力を把握しているよ。
「小説の主人公が、×××をひたすら愛撫されながら、耳許を犯されるのいいよね! 冬夜くんにされたいわ~」
「そう? 教鞭で叩かれながら、ガンガン×××を突かれるのも良くない? もちろん体位はバックで」
「いやいやいやいや。やっぱあれでしょ、亀甲縛り。××の先にピアス刺されて、ガチのろうそく垂らされたいの! それで×××を舐められながら、この淫乱マゾブタ女め! とか罵られたい!」
「みんなマニアックね? 私は普通にス〇トロでいいかな~」
「「「お前が一番ストレートマニアックじゃね?」」」
ちょっとどうなってんの!?
いつの間にか超下ネタになってるじゃん!
カレー食べてる人もいるんだよ!?
放送できないよ!!
「あ、そろそろくじ引きね。集合~」
「「「「はーい」」」」
切り替え早!
■□■□
う、食べ過ぎたポ。
オムライス、バーグはよかった。
そのあとにライスも食ったのが間違いだった。
だってバーグがうめえんだもん。
米が欲しくなったのは当然だよな?
ああ、このブドウジュースうめえゴクゴク飲める。
スパークリングがきいてる。
苦しかったのが楽になった。
はあ……ある程度食事は管理していたんだけどな。
こりゃ食い過ぎた。
成長期の体だし、そんなに気にする必要はないと思うんだけど。
今日くらいいっか。
始まってから結構時間がった。
一時間くらいかな?
入れ替わり立ち代わり対面の席に女子が来た。
色々話したよ。
将来の夢について聞かれることが多かった。
民間警備会社ってなに? とか。
どうして軍に入りたいの? とか。
俺は広義な意味での警備会社を作りたいからな。
んま、警備員以上傭兵未満って感じか。
出来たらってノリだけど。
どっちの話も結局は止めに入られたんだけどね。
いいじゃん、俺の将来なんだから。
やたらと主夫を勧めてきたのが気になった。
今はなんか、タイムアウト? みたいな時間。
みんなゆったりと過ごしている。
そんな中、一人の女子が立ち上がった。
「あ、あの! と、とと冬夜くん! 私、相場咲樹、歌います!! 上手だったら褒めてもらえますか!?」
いきなり(笑)
いいけどな(笑)
「ああ、いいよ? 咲樹、歌得意なの?」
この対面二者面談で、全員敬称なしで呼ぶことになったのだ。
「は、はい! 私、小学校の頃友達いなくて、歌うことが唯一と言ってもいいくらいの楽しみでした……中学になって、こっちに引っ越して来てからは友達は沢山出来ましたが!」
重いよ話が。
寂しい6年間、歌を歌って過ごしてましたって。
(笑)とか言ってごめんな?
「そ、そうか。うん。俺も友達だからな? それじゃ、聞かせて頂戴よ」
「は、はい!」
そう言って、咲樹は胸に手を当てて大きく息を吸った。
「歌います」
Amazing grace. How sweet the sound.
That saved a wretch like me.
I once was lost, but now I am found;
Was blind, but now I see.
'Twas grace that taught my heart to fear,
And grace my fears relieved;
How precious did that grace appear.
The hour I first believed.
Through many dangers, toils, and snares,
I have already come;
'Tis grace hath brought me safe thus far,
And grace will lead me home.
Amazing grace! how sweet the sound
That saved a wretch like me
I once was lost, but now I am found
Was blind, but now I see.
……。
…………。
………………。
ウマッ!!!
激ウマ!!!
くっそうめえなおい!!
みんな泣いてるじゃねえか。
俺もうるってしちまったよ。
そしてもう1ついいかな?
あのさ。
こっちにも『アメージンググレイス』あるのね。
日本語だと、我をも救いしって題だ。
讃美歌 第二編 167番だったと思う。
ビックリ。
ま、いいよね。
歴史の流れは、向こうと似たり寄ったりだしな。
文明の発展て言うのは、どこか必然的なものなのかね?
どうでもいいがな。
「咲樹、スゴいよ。感動した。また今度、聞かせてよ」
素直に称賛の言葉が出てくる。
ホントにスゴかった。
もう褒めるよ褒める。
めっちゃ褒める。
「ご静聴、ありがとうございました! 冬夜くん、ありがとう!」
ああ~ご褒美をやろう。いや、むしろ下さい。
「姫、大変素晴らしゅうございました。私の最大の賛辞、お受け取りください」
スッと近付き、サッと手をとる。
そして手の甲にチュッと少し大きめの音をたてて唇を落とす。
「…………はえ?」
おい、咲樹。
ご尊顔が茹で上がってるでござる。
おっと、周囲がヤバイな。
さっきまで咲樹の歌でしっぽりしてたのに。
今はもう臨戦態勢。
何で冬華まで目が血走ってる?
怖いよ。
次は誰がキスもらう? みたいな?
殺気まで漏れる始末だ。
あ、これ『さっき』と『殺気』のギャグな!
……。
…………。
ははは!
クラス会まだ終わる気配はねえな!!
逃げたろって……しょうがねえだろ、スベっちゃったんだから(小声




