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第九話

 その日の夜更け。

 サムは子猫をしっかりと抱いてベッドで眠っていた。お腹のいっぱいになった子猫も安心しきってサムの胸の中で眠っている。窓から降りそそぐ月明かりの中で、サムと子猫のあどけない寝顔を見て、エリーは微笑みを浮かべた。この日始めて笑った気がした。慌ただしく過ぎ去った一日、やっとほっと安心出来た。しかし、叔母の言葉を思い出すと、エリーの笑みは消えていく。

 叔母夫婦は多少きついところはあるけれど、両親の亡くなったエリーとサムを引き取って育ててくれた。今では本当の両親のように思っている。その叔母に、魔法使いに関われば家を出て行くようにと言われた事は、ショックだった。

 エリーは軽くため息をつくと、サムのベッドから離れ窓辺にたたずんだ。空にはいつもと変わらない月が浮かび、星が瞬いている。月明かりに照らされた街並みは、静かに眠りについている。何もかも平和そのものだった。

(ダリルはどうしてるかしら?…)

 エリーの胸に不安がよぎる。本当なら既にこの国を去っていたはずだった。ダリルとの別れは辛いが、今となってはもっと早くダリルに去ってもらえば良かったと後悔している。

(どうしたらいいの?…私に何が出来る?…)

 夜空に問いかけてみる。

(このまま魔法のことは忘れてしまう?ダリルのことを見殺しにするの?…)

 星達は何も言わず、優しく瞬いていた。

(そんなこと出来ない)

 例えここを出ていくことになっても、国王に罰せられることになっても、何もせず見過ごすことは出来ない。誰一人味方になってはくれなくても、ダリルを助けたい。夜空の星々に、エリーは強く誓った。

 と、空の遠くからカラスの鳴き声が聞こえてきた。

「ダリルのカラス?」

 カラスはダリルが捕らえられた後、ずっと姿を消していた。主人を失ったカラスは、一人宿屋へと戻ってきた。部屋の窓辺に舞い降りてきたカラスを、エリーは中に入れる。カラスはかぁと小さく鳴くと、羽ばたきながら椅子の背に止まった。

「ダリルが戻ってくるまで、この部屋にいるといいわ」

 不気味だったカラスも、今では愛おしく感じるようになっていた。ダリルの分身であるカラスが戻ってきたことで、エリーは幾分心強くなった。

「待ってて、あなたの好きなミルクを入れて来るから」

 エリーは微笑むと部屋を出ていった。 

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