第八話
ダリルが魔法使いだという噂は、あっという間に国中に広まった。今やそのことを知らない人々はいない。魔法使いが国に侵入すれば死刑になる。やや退屈なくらい平和に過ごして来た人々には、刺激的な話題だった。見慣れぬ「魔法使い」の恐怖と興味が入り混じり、皆の話題はダリルのことで持ちきりだった。
「あのお客が魔法使いだったとはな…」
「来た時から気味が悪かったのよ。全身真っ黒な服着てカラスを連れてるなんて」
「もし魔法使いを泊めていることが知れたら、罰せられるとこだったな」
「本当に…今日宿代もらったけど、本物のお金かどうかあやしいもんだわ」
疲れ切ったエリーとサムが宿屋に戻って来ると、叔父と叔母もダリルのことを話していた。
「エリー、サム!無事だったかい?話は聞いたよ。大変な目に遭ったんだってね」
「魔法使いは捕まって、お城に連れて行かれたそうだな」
「良かったね。これで安心だ、魔法使いなんて君が悪い」
「…ダリルは、川に落ちたサムを助けてくれたのよ。ダリルがいなければサムはどうなってたか…」
エリーに肩を抱かれたサムは、うつむいたまま肩を震わせている。
「ぼくのせいでダリルがつれていかれた…ダリルはころされるの?…」
「サムのせいじゃないわ。ダリルは大丈夫だから…今度は私たちでダリルを助けてあげましょう」
「エリー!何言ってるの!?相手は魔法使いなんだよ」
「そうさ、魔法使いを知っていたというだけでも罪になるんだ!馬鹿なこと言うんじゃない!」
叔父と叔母はエリーの発言に驚きを表す。
「まほうつかいはどうしてわるいの?まほうはどうしていけないの?」
サムは泣きそうな顔をして、叔父と叔母を見上げる。
「お前はまだ知らないだけさ!魔法は人を殺すことだって出来るんだからね」
「ダリルはそんな事しないわ。叔父さんも叔母さんも知らないだけよ。魔法を使うことは悪くないわ!」
「エリー!」
と、サムの腕の中の子猫がミャァミャァと鳴いて、サムの腕から飛び降りた。お腹を空かせた子猫は、厨房から漂ってくる良い香りに引きつけられていた。
「こら!ダメだよ、中に入っちゃ!」
叔母の怒鳴り声も気にせず、子猫は厨房の中に駆けていった。
「おなかがすいてるんだ。なにかたべさせてあげて」
そう言って、サムは子猫の後を追いかけた。
「エリー、いいかい、魔法使いに関わることは許さないよ。そんなことをしたら、ここを出ていってもらわないと…」
後について行こうとしたエリーに、叔母は声をかけた。
「……」
エリーはその言葉をかみしめ、黙って歩いて行った。




