第六話
人々が固唾を呑んで見守る中、大きな帽子の船は、ダリルの手招きでゆっくりと岸辺に近づいてきた。帽子が着岸すると、サムは子猫をしっかりと抱えて帽子から這い出てきた。
「サム!」
エリーはサムの元に走り寄り、両手でしっかりと小さな弟を抱きしめた。
「死ぬほど心配したんだから!なんで川に落ちるのよ…」
エリーはサムの頭に顔を押しつけて泣いた。
「ごめんなさい!およぐのはとくいだから、こねこをたすけられるとおもった」
サムもエリーの胸の中で泣き出した。サムの腕の中では、子猫がミャァミャァと小さく鳴いている。
「サムも子猫もずぶ濡れだな。風邪をひくといけない」
そばで様子を見守っていたダリルは、帽子の船に向かってもう一度呪文を唱えた。と、帽子はふわりと宙に浮かび、くるくると回転し始めた。大きな帽子から強い風が起こり、見る見るサムと子猫の体を乾かしていく。帽子から吹いてくる風は暖かかったが、竜巻のような強風は人々を飛ばしそうな程の威力があった。サムもエリーも回りの人々も、必死で体を踏ん張らないといけなかった。
やがて、帽子自体も雫を飛ばして乾くと、ゆっくりと回転を止め段々小さくなっていった。そして、元の大きさに戻るとふわふわと揺れながら、ダリルの頭の上に帰って行った。
全てが元に戻り、ひと騒動が終わると、人々の間からざわめきが起こり始めた。人々の関心は、サムからダリルへ移っていた。サムを救ったダリルなのだが、人々は恐ろしいものでも見るような眼差しで、ダリルを見つめていた。
「あれは魔法じゃないのか?…」
「あの人は魔法使いなの?」
「魔法使いがこの国へ来た…」
ざわめきは、段々と大きくなっていく。
「さて、そろそろ帰ろうか」
当のダリルは周りのことなど気にするそぶりもなく、空をあおいだ。上空ではカラスが飛んでいる。ダリルがカラスに向かって指笛を吹いた時、コツコツと一頭の白馬がダリルの前に歩み出た。白馬の上からはジョージが複雑な表情でダリルを見下ろしていた。




