第五話
ビュンビュンと風を切り、空を飛ぶような速度で駆けてきた馬は、ダリルとエリーを乗せてサムの元に到着した。あまりにも足の速い馬に驚く人々の間をぬって、エリーは川縁に進み出た。
「サムーッ!!」
今にも川に沈みそうなサムの姿を見て、エリーは悲鳴に近い声を上げた。
「エリー…」
馬に乗ったジョージがエリーの元に現れた。
「ジョージ…」
ジョージの姿を見て緊張の糸が切れたエリーは、ワァッと手で顔を覆って泣いた。
「助けて…お願い…助けて」
「…ロープだ。誰かロープを持っていないか?!」
ジョージは兵士達の方に向き直り叫んだ。
「これがあります!」
兵士の一人が巻き付けたロープを手にして進み出た。
「それでは間に合わない」
その様子を見ていたダリルは、皆の前に歩み出た。川の中で必死に泳いでいるサムは、浮き沈みしている。ダリルは被っていた黒い帽子を脱ぐと、目をつむって呪文を唱え始めた。
「…ダリル!」
エリーは、はっとして目を見張った。
(ダメ!みんなの前で魔法を使っちゃダメ…)
ダリルの銀色の髪が光りに反射してキラキラ光る。眠っている時でさえ帽子は脱がなかったから、ダリルの髪をまともに見たのは初めてだった。この国では見たことのない銀色の髪の毛…。
ダリルは呪文を唱え終わると、帽子を川に放り投げた。大きく円を描くように飛んでいく帽子。その帽子は見る見る大きくなっていった。人々は驚いて呆然としている。
(サム!帽子の船に乗るんだ)
サムの元に飛んでいった帽子は、小舟のように大きくなって川に浮かんだ。ぷかぷかと川に浮かぶ帽子の船にサムはビックリした。
(さあ早く!その船は絶対沈まないよ)
ダリルの心の声を聞いて、サムは恐る恐る帽子の縁につかまりよじ登った。そして子猫と一緒にストンと帽子の底に転がった。中はふわふわしたソファのように柔らかだった。サムは子猫をしっかりと抱きかかえて立ち上がると、帽子の中から顔を覗かせた。
「ダリルありがとう!」
笑顔で手を振るサムの姿を見て、ダリルは微笑んだ。
読んで下さってありがとうございます。ダリルの髪は銀色だったんですね(今更かも)…(^^;)




