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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第八章:(´・ω・`)魔王は神殿で無双ターン

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魔王を訪ねた老剣士


 雪解け間近のころ。

 屈強ながらみすぼらしい格好をした人族の老人が最果ての森に入った。

 

 そんな一報を受けてガリウスが赴いたところ、その人物は入り口の町で住民と酒を酌み交わしていた。座敷は宴会場と化している。


「おおっ、ガリウス殿。久しぶりだな」


 老人は、ガリウスのよく知る人物。教国の聖騎士ダニオだった。

 

「グラウスタでやたら元気な老人が働いていると報告があったが……やはり貴方だったのか」


「ほう、さすがに情報が早いな。それでいて放置してくれていたのか」


「偽名を使っている者の事情を考慮したまでだ。気持ちの整理は付いたのか?」


「……雪が融けるように、とはいかぬがな。だからと言って、先の短い余生を迷い続けるのは性に合わぬ」


 ダニオは正座すると、両手をついた。

 

「ガリウス殿、ワシをこの国で働かせていただきたく、伏してお願い申し上げます。貴公に、我があるじとなってもらいたいのです」


「この国に好意的な者を拒みはしない。だが俺は貴方の主になるつもりはないよ。俺は今たまたま代表者の地位にいるだけで、俺を含めて国民は国のためにあるのだからな」


 だから丁寧な話し方も必要ない、とガリウスは続けた。

 ダニオはにっと屈託ない笑みを作り、体を起こす。


「ふむ。国に、か。ワシも亜人には浅からぬ縁がある。国に尽くすのもまた、騎士の誉れと言えような」


「……貴方は教国にいたころから、亜人に対して一般の人族とは違う感情を持っていたようだが?」


「なに、大して面白くもない話だ。若いころ亜人に世話になってな」


 ダニオは多くを語らなかった。しかし表情にはどこか哀愁が見て取れる。

 

「ともあれ、剣を振るうしか能のない老人だが、こき使ってもらって構わんよ。ああ、他には土木作業か。この数ヵ月でいろいろ学んだよ」


「俺もアイテムを扱う以外に能はないから偉そうなことは言えないが……そうだな、近々大きな作戦をやろうと考えている。貴方にはそれを担当してもらうかもしれない」


 世界に散らばる、神殿の攻略。

 この世界の秘密に迫ることができれば、亜人への偏見を拭い去れるかもしれない。

 

「騎士の貴方に冒険者の真似事をさせるようで心苦しいが……」


「いやいや、宝を貪る連中とは根本が異なる。その大任、謹んで受けさせてもらおう」


 二人はがっしりと握手をする。

 

 そうして、その日はやってきたのだが――。

 

 

 

 

 

 ダニオは砂まみれになってちょっとだけ後悔していた。

 

(いやまあ、任務自体に不満はないのだが、こうも鬱陶しい環境だったとは……)


 口を開けば砂が入ってじゃりじゃりする。目は細めていればどうにか開けていられるが、ゴーグルは必要だろう。

 辟易しているのは彼だけではなく、同行した二人もだった。

 

「ぅぅぅ、ゴーグルに砂がくっついて前が見えないっす……」


 ゴーグルをつけて布で口を覆って隠しているので一見するとどこの誰だかわからない。

 大きな荷物を背負った彼女はノエット。オーガ族の血を引く、見た目は人族と変わらぬ少女だ。

 しばらくグラムの街にある『ククルン亭』で従業員兼諜報員をしていたが、都市国家群に亜人が行き来できるようになったため、このメンバーに抜擢された。

 

 そしてもう一人は、頬に傷を持つ青年だ。 

 

「塔を隠すように渦巻く風の影響が強いですね。もうすこし塔に近づけばマシになるのでは?」


 ゴーグルを外して目を細め、そびえ立つ塔を指差す。彼は長らく都市国家群で諜報員をしていたエルフ族のマノス。種族の特徴である尖った耳は、過去に不幸があって切られてしまっている。


 砂漠の神殿〝アカディア〟に派遣されたのは、この三人だった。

 

 三人は風から逃れるように塔へ近づいた。顔に当たる砂粒の量が明らかに減る。塔のすぐ側は無風に近かった。

 見上げると、最上階は砂煙で霞んで見えない。昼間なのに薄暗かった。

 

 ダニオは正面――塔の入り口を見据える。

 

(なるほど。ガリウス殿の予想通り(・・・・)だったな) 


 服の中からペンダントを引っ張り出した。楕円をした水晶のようなものが取り付けられている。

 スライムのピュウイを転移させる小型の転移装置だ。

 

 ピュウイを介するので、相手とスムーズに会話はできない。だが遥か遠方の地とリアルタイムで意思の伝達ができるのはとても便利だった。

 

 やり取りをつなげて会話風にすると。

 

「貴公の予想通りだ。塔の入り口は開いていた(・・・・・)


『やはりか。となると、砂漠の民とやらが挑んでいる可能性が高いな』


 対話の相手、ガリウスは淡々と告げる。

 

 仮に誰かが他の神殿の攻略を終えていたなら、転移装置で〝イルア〟や〝イビディリア〟に転移し、攻略しようとする者がいるはずだ。

 ルビアレス教国にある神殿も同様の理由で、いまだ完全攻略はなされていないとガリウスは考えている。

 

 しかし他の神殿が誰にどの程度攻略されているかを知る術は今のところなかった。

 

 今回のアカディア神殿のように、『他者が攻略中』の可能性をガリウスは考慮していたのだ。

 

 ケラの情報によれば、砂漠を移動して暮らす人族の集団が、塔を神聖視してよそ者を近づけさせないよう監視しているらしい。

 はたしてアカディアを攻略中なのは彼らなのか、別の者なのか? その目的は?

 

『それらを探るには接触が一番だが……。誰かに会った、あるいは周囲に何か痕跡はあるかな?』

 

「まだ誰にも会っていない。今のところ誰かがここに来た痕跡は入り口が開いていることくらいか。とはいえ、ワシたちも来てからさほど時間が経っていないのでね。塔に入れば出くわす可能性もあるが?」


 ガリウスはしばらくあごに手を添え考える。

 

『そうだな。では塔の攻略がてら、誰かに出会ったら――』


 細かな指示を出した。


 基本は『腕試し』で訪れたことにして、物資が乏しく協力したいとこちらから申し出る。場合によっては神殿の宝をすべて彼らに渡してもいい。

 必要なのは最深部の制御室と、マスター権なのだから。

 

『交渉はなるべく穏便に、下手したてにな』


「話のわかる相手であればよいがな」


 人族と、それと変わらぬ見た目のダニオたちが選抜された理由は、この状況を想定してのものだった。

 相手が人族なら、亜人では信用されないからだ。

 

「ひとまず塔に入るか。誰にも出会わなければ粛々と最深部を目指す」


『頼む。物資は必要に応じて送るから、遠慮なく言ってほしい』


 転移装置を使えば、一方通行ではあるが人だけでなく『物』を送ることはできる。確認済みだ。

 

『そちらの攻略状況によらず、転移先は貴方たちが最初に現れたところだろう。いちいち塔の外に戻る手間をかけて申し訳ない』


「仕組みがそうなのならば従うまでだ。では、行ってくるとしよう」


 会話を終え、ダニオは背に負った大剣を二本、抜いた。

 

 彼の後ろから、仲間が二人付いてくる。

 

「建物内では弓が使いづらいですが、魔法でのサポートはお任せください」


「荷物は、死守します!」


 やる気に満ち溢れる二人は見た目こそ人族だが、亜人の血が濃く流れている。


(因果なものだ。ワシが亜人の国のために働こうとは)


 かつてダニオは、ひとりの亜人に命を救われた。

 しかし亜人の存在を許さない教国内で、ダニオが知らぬ間にその恩人は殺されてしまった。

 

 仕方がない、と当時からつい最近まで自分を納得させていたが、ガリウスに会い、グラウスタでともに街の再建工事に従事して、心境に変化が生まれる。

 

 亜人かれらのために何かしたい。

 それが、恩に報いることなのだ、と。

 

 ダニオは二人に大きくうなずいて、前を向いた。

 一歩、二歩と塔の入り口に近づいていき、大口を開けた扉から足を踏み入れる。

 

 攻略途中なら守護獣が神殿を守っているはずだ。

 相手がなんであれ、長年連れ添った二本の大剣で突き進むのみ。

 

 そう、意気込んで数メートル。

 

「……」


 正面に、うっすらと白い靄のようなものがふよふよ飛んでいた。

 

「ダニオさん、あれって……」


 マノスが声を震わせる。ノエットはごくりとのどを鳴らした。

 

「うむ。どうやらここの守護獣は、ゴースト系らしいな」


「ダニオさん下がってください! 彼らは物理攻撃が通りません。ひとまず私が魔法で――」


 マノスが前に出ようとしたのを、ダニオは大剣で遮った。

 

「たしかに連中に物理攻撃は効かん。だがな――」


 ダニオはにたりと笑うと、もう一方の大剣でゴーストを斬りつけた。

 ふつうなら水を切ったようにすぐ元に戻る相手が、ウォーンと断末魔の叫びのような音を発し、霧散する。

 

「連中は魔力で実体を保っていてな。その中核に『魔力がいっさい流れない』状態を与えてやれば、ああなるのだ」


 地上で最も高い硬度を持ち、魔力をまったく通さない純アダマンタイト製の大剣だから為せる業。

 

「これでも元聖騎士だ。アンデッド系は得意分野でね」


 ドン、と強く床を踏みつけ、

 

「幸運にも、ここはワシ向きの戦場らしい。マノスはノエットの護衛を頼むぞ!」


 ダニオは高らかに吠えると、まっすぐに突き進んだ――。

 


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