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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第六章:(´・ω・`)魔王の国内で無双ターン

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魔王はパーティーを組む


 古めかしい巨大な鉄扉が、大地を揺らして開いていく。

 外側に向かってであるため、ガリウスはその場に留まれば押し飛ばされてしまうだろう。

 

「――ッ!?」


 ガリウスは大きく飛び退いた。しかしそれは、扉を避ける意図からではなかった。

 

「何か、いるな……」


 着地し、さらに後退。二十メートルの距離を空けて扉を凝視する。

 

 開きつつある扉の隙間から、小さな光の点がいくつも浮かび上がった。隙間が広がるのに比例して光点は数を増していく。

 

 カチカチ、カチカチッ。

 

 歯を鳴らすような――いや、実際に歯を鳴らす音が聞こえた。金属を擦り、打ちつけるような音も。

 

 やがて扉が開くのを待ちきれないとばかりに、いくつもの影が飛び出してきた。

 

 鎧をまとい、剣を握る集団はみな、肉がない。人の骨がカチカチと歯を鳴らし、鎧を擦らせ、開きかけの扉を互いに押しやってくぐっている。

 

「スケルトンか」


 身長は成人男性とほぼ同じ。武装しているタイプは『ソード・スケルトン』や『スケルトン・ウォリアー』と呼ばれた。

 墓場を徘徊する徒手のスケルトンよりは強いが、魔法を操らないので力押しでどうにでもなる。

 

 ガリウスは聖剣を抜いて構えるも、すぐには突撃しなかった。

 彼らはミスリルゴーレムの精霊獣、タイロスが言うところの『神殿を守護するために作られた存在』だろう。であれば敵対するより、タイロスに説得してもらうのが良策だ。

 

 ところが――。

 

『ぬぅん!』


 タイロスがその大きなこぶしを振るい、スケルトン兵を一体、粉々に砕いた。

 

 その理由を、ガリウスも瞬時に理解した。

 

(悪霊化しているのか)


 スケルトンたちの白い骨に、うっすらとだが黒い靄がまとわりついている。

 

(だが、以前出会ったのと雰囲気が違うな)


 彼らは通常と同じサイズをしているし、力が大きく増しているようにも感じられなかった。


 まだ扉は開ききっていないのに、スケルトン兵はわらわら現れる。

 タイロスは寄ってくる彼らを躊躇なく殴り倒していた。

 

「いいのか? 貴方にしてみれば、同じ目的で生まれた仲間だろう?」


『悪霊化したなら駆逐するのみ。誰であろうと同じことだ。オレは精霊獣でもあるのだからな。ただ、うーん……こいつら、すこし変だな。弱すぎる』


「完全に取り憑かれたわけではない、と考えられないか?」


『だとしても、やることに変わりはない。悪霊に憑りつかれたのなら、もはや手遅れ。〝程度の差〟など些末な問題だ』


 タイロスは静かに、しかし激情を押し殺したように吐き捨てた。

 ああなってはもはや、倒すしかない。せめて苦痛からの解放を。そんな思いを乗せているのか、振るわれる腕は地面を大きくへこませていた。

 

『なに、心配しなくていい。オレたち〝血肉なき者〟は死してもいずれ再生する。まあ、それは元とは〝別者〟ではあるがな』


 ガリウスは迫りくるスケルトン兵を斬り伏せながら、前へ出た。風をまとうと同時に地面を蹴り、跳躍する。すでに百を超える数が出てきた扉に手を触れ、

 

 ――閉じろ。

 

 まだ開きかけだった巨大扉がぴたりと動きを止める。奇妙な異音を発したかと思うと、逆方向へ動きを変えた。

 

 と、スケルトン兵たちの挙動も変わった。来た道を引き返すべく、扉へ殺到し始めたのだ。

 

 ガリウスはいったん扉から離れ、状況を観察する。

 スケルトン兵たちはガリウスやタイロスには目もくれず、我先にと扉の隙間に滑りこんでいった。

 

 やがて扉が完全に閉まった。絶壁に姿を隠すことなく、くすんだ色をいつまでもその場に留めている。

 取り残されたスケルトン兵たちは十数体。入れてくれと懇願しているように、がりがりと扉を引っかいていた。

 

『なぜ閉じた?』とタイロスが問う。


「際限なく現れてはこちらの体力と精神力が持たない。今日は扉を開けるか確認したかっただけだしな」


 探索はいずれあらためて。万全の準備を整えてからだ。

 

「貴方の同胞には、今しばらく我慢してもらうことになって心苦しいが……」


『オマエが気に病むことではない。オレは門番。神殿の中には入れん。あいつらを苦痛から解放するのは、オマエに頼らなければならない。すまんな』


「いや、それこそ気にしないでくれ。俺も益を期待してのことだ」


 ガリウスは聖剣を握り直すと、壁に縋りつくスケルトン兵たちに飛びかかった。タイロスが驚く間に、残るすべてを斬り伏せる。

 

『見事だな。こいつらも浮かばれよう』


 スケルトンたちは装備を含め、さらさらと砂粒になっていった。

 

「では、俺は一度戻る。いろいろ準備しなくてはならないからな」


 ガリウスはそう告げて、踵を返そうとした。しかしタイロスの様子に足を止める。彼はぼんやりと扉を見上げていた。

 

「どうかしたのか?」

 

『いや、精霊獣となってから神代かみよの扉を見たのは初めてでな。うん、こんなことが書いてある(・・・・・)とは驚きだ』


 ガリウスは彼の視線を追う。

 扉には見慣れぬ文様のほかに、文字らしきも描かれていた。しかし大陸共通言語ではなく、ガリウスには読めない。

 

「王国の遺跡でも似たようなのを見た気がする。あれは?」


『神代語、と呼べばよいのか。神々が使っていたものだろう』


「読めるのか?」


『まあな。俺も今この瞬間、初めてその事実を知った。精霊獣になる前に必要だったか疑問だがな』


 タイロスは続けて、扉に書かれた文字を読み上げた。

 

 扉を開く条件。それはガリウスが【アイテム・マスター】で読み取っていたので知っていた。

 それ以外に、もうひとつ。

 

 扉を開けたのち、中に入る条件(・・・・・・)が記されていた。

 これを満たしていなかったがため、スケルトン兵が大挙して襲ってきたらしい。

 

 内容を聞き、ガリウスは眉間にしわを寄せた。

 

「……なんだ、それは?」


『知らん。そう書いてあるのだ』


 ガリウスは腕を組み、いっそう眉間のしわを深くする。

 

「準備には、すこし時間がかかりそうだ」


『そう慌てなくてもいい。オレにできることはやっておこう』


 精霊獣タイロスの協力を得て、ガリウスは急ぎ都へ戻るのだった――。

 

 

 

 

 都でジズルに事情を説明し、他の精霊獣たちにも報告しつつ、ガリウスは神殿探索の準備を進めた。

 装備はもちろん、回復用のアイテムも最高性能の物を用意する。

 飛空戦艦で神殿の扉前にやってくると、

 

「これは……すごいな」


 土や石でできた住居がいくつか立てられ、水場も掘られていた。

 辺りにはストーンゴーレムやアイアンゴーレムといったゴーレム種が数十体、あくせくと働いている。

 

『オレたちにできるのはこれくらいだ。あとは頼む』


 タイロスが頭を下げた。

 

「いや、助かる。十分だ」


 神殿内がどれほどの広さかわからない以上、探索には長い期間を要する可能性があった。もとより扉付近に拠点を構えるつもりだったため、手間が省ける。

 

 顔を上げたタイロスは、ガリウスの後ろに視線を流した。

 

『で、そっちが条件を満たす者たちか』

 

 居並ぶのは、計六名。うち一人は慌てて後ろに下がった。梟の頭をしたムーツォは「私は違いますからね」と必死だ。

 

 残る五名は、リリアネア、リッピ、ククル、ペネレイ、ゾルトだ。

 

 神殿の中に入る条件。

 それは【火】、【水】、【風】、【土】の属性を持つ者を、それぞれ最低一人は入れてそろえること。

 

 よって【火】属性はリリアネア、【土】属性はペネレイ、三属性を持つリッピは【風】の担当とし、光以外すべての属性を持つククルは【水】を担当する。

 ゾルトは【土】で足りているが、純粋な戦力としてガリウスのサポートをしてもらうつもりだ。


「危険なのはわかってるんだけど、ちょっとワクワクするわね」とリリアネア。


「奥方の身はこの命に代えましてもお守りいたします!」とペネレイは鼻息も荒い。


「ボクのこともお願いねー」と不安な様子をまったく見せないリッピに対し、


「わたくしもがんばります!」とククルも小さな胸を張る。


「そんじゃ、オレは壁役は承りますんで、何かあったら背中に隠れてくだせえ」


 ゾルトが言うと、ムーツォがどんと自身の胸を叩いた。


「私は外で皆様のバックアップをいたします」


『なかなか楽しそうな面子だな』


「属性は土に偏っているのだがな。ま、回復はアイテムで賄うとして、攻撃力で押しとおるさ」


 というわけで、とガリウスは巨大な扉を見据える。 

 

「俺を含めた六人パーティーで、神殿探索を行う」

 

 おーっ! と元気良い掛け声に押され、扉に向け進んでいった――。

 

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