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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第六章:(´・ω・`)魔王の国内で無双ターン

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魔王は人手不足の解消に挑む


 ガリウスは手にした紙面を睨みつけている。

 都に居を移した自宅のリビング。ソファーに腰かけ、ローテーブルには山のように冊子が積まれていた。


 冊子は報告書を束ねたものだ。

 国を豊かにし、人族と対等以上に渡り合う。

 その目標に向けて何ができるか、彼なりに考えをまとめようとしていた、のだが。

 問題は目の前の冊子のように山積みだった。

 

「ちょっと休憩したら?」


 ワゴンにティーセットを乗せ、リリアネアがやってきた。

 眉間にぐぐっとしわを作り、「こーんな顔してるわよ?」とすぐさま優しい笑みに変える。


 顔どころから体中をガチガチにこわばらせていたようで、ガリウスは肩の力を抜いた。

 

「覚悟はしていたつもりだが、具体的な数字で現実を突きつけられるとため息しか出ないな」


 実際にため息を吐きだすも、差し出されたカップから香しい匂いが体にしみこんできた。

 リリアネアはガリウスの横に腰かけ、二人並んでお茶をすする。熱い液体の刺激に頭が冴え、続けて芳醇な香りに落ち着いた。

 

「ま、気持ちはわかるわ。あたしも報告書をまとめてるとき、ため息ばかり出てたもの」


「君がまとめてくれた資料はよくできているよ。問題点も明確だ。助かる」


「そう? お兄様の手伝いでよくやってたから慣れてるのよね。ま、あたしはこのくらいしかできないけどね」


 リリアネアは謙遜するが、資料はポイントを押さえていて読みやすい。参照先も明確で、詳しく知りたければすぐに詳細な報告書にたどり着けた。

 

「俺だけだったら報告書を眺めているうちに頭がこんがらがっていたよ」


「そうかしら? ガリウスってかなり頭がいいと思うわ。今までだって、あたしたちじゃ考えつかないことばかりやってきたし。相手の心や未来が見えてるんじゃないかってくらい」

 

「俺はどうも、結果を焦り過ぎるタイプのようだ。長期的な施策は苦手らしい」


 戦場を渡り歩いていた勇者時代は、目先の勝利のため頭を使っていた。日々刻々と状況が変化する戦場では、臨機応変に立ち回らなければならない。

 少ない情報を瞬時に分析し、経験と照らし合わせて即断即決でもって行動する。

 膨大な情報を元に数年先を見据えた国家施策とは質がまったく異なるのだ。


「意外だわ。ガリウスにも苦手なことってあるのね。あ、乗馬とか水泳はそうだっけ? でもまあ、その辺りはジズル様や中央議会のみんなに任せればいいんじゃないの?」


「もちろん彼らの助けは必要だが、国家代表になった以上、丸投げにはできない。まずは勉強がてら、俺にできることから手を付けようと思う」


 ガリウスは資料を持ち上げた。リリアネアが肩を寄せて覗きこんでくる。

 

「リムルレスタの現状をひと言で表すなら、『何もかもが足りない』に尽きる」


「身もふたもないけど、正しいのよね……」


 食べ物がない。物資がない。人手が足りない。ないない尽くしに気が滅入る。


「このところ入り用だったしなあ」


 都市国家群から囚われの亜人たちを解放してから、王都の強襲や帝国の迎撃で食料や物資がカツカツだ。

 

「でも、そのおかげで少なからず人手は増えたわけだし、空飛ぶ船も手に入れたじゃない。それにほら、通信網だって。あれで情報のやり取りが劇的に早くなったから、ジズル様もみんなも喜んでるわよ?」


「そうだったな。消費に見合う以上の結果は残せたのだから、嘆くのは筋違いだった」


 励まされ、前向きになる一方、現実にも目を向けなければならない。

 

「ひとまず直近の課題としては、これかな」


 ガリウスは資料を指差した。

 

「人手不足の、解消……? え、でもこれって、ほら、ねえ……?」


 リリアネアが頬を赤らめ、モジモジする。

 

「すぐどうこうできるものでもないし、それこそ食べるに困らないとか、環境がよくなるとか、そういうのを整えてからのほうが、みんなも励むんじゃないかなーって……」


 ちらちらと横目で窺う彼女が何を考えているかは明らかだが、ガリウスの意図は別にあった。

 

「……そっちはそっちで何かしらの手は打たないとだな。ただ、他にも効果的な手がある」


「うーん……移民とか?」


「現状、王国内には隠れ住んでいるとしても少数だろう。実のところ『人手』と呼ぶには語弊がある」


 首をひねりながらも期待に満ちた瞳に、ガリウスは告げた。

 

「知能の高い獣たちに協力してもらうんだよ」


 人族が魔物と呼ぶ、力と知能を兼ね備えた獣たち。

 

「精霊獣ファヴニールに従う飛竜やグリフォンなどは、人の言葉を解し、自ら条件を提示して力を貸してくれることもある。熊や狼を飼い慣らすのは手間だが、彼らなら精霊獣を通せば様々な作業に従事してもらえると思う」


「今のところ精霊獣はみんな協力を惜しまないって言ってるけど……」


「ああ。それはあくまで有事に際して、だ。畑仕事や狩り、輸送など日常の作業をお願いするには、別で交渉が必要だろう」


 彼らとは良好な共存関係を築いているが、生活圏はほぼ重なっていない。互いが相手の領域を侵すことなく、人族の侵攻といった有事には協力する、との取り決めがなされているだけだ。


 もし彼らが日常生活でも共生できるなら、少数でも劇的な変化が期待できる。

 飛竜やグリフォンのような飛行種。

 オークよりも力のある熊の上位種。

 狩りが得意な狼の上位種。

 他にも特殊な魔法や特技を持つ獣は多い。

 

「とはいえ、交渉は難しいだろうな。彼らにしてみれば、場合によっては今の棲み処を離れて亜人の生活圏に移らなければならない。彼らが魅力に感じる何かを提示できればいいのだが……」


 食料の安定供給、種の存続にかかわる環境づくりは必須。飛竜たちも、ブラッシングすればいい話ではないだろう。

 

「あ、そういえば」


 リリアネアが報告書の山を漁り始めた。

 

亜人あたしたちの領分じゃないから、資料には入れなかったんだけど……これ」


 冊子の中からひとつを見つけ、ガリウスに開いて見せる。


「悪霊が、増加しつつある……?」


「精霊獣たちが口々に言ってたの。そっちは彼らが解決する問題だから、あたしたちには『気に留めておく程度で』って感じだったみたい」


「ふむ。悪霊獣とやら自体が増えているのではなさそうだな。『今後注視が必要』と精霊獣たちは考えているのか」


 ところで、とガリウスが素朴な疑問を口にする。

 

「そもそも悪霊とはなんだ?」


 以前、巨大熊に憑りついた悪霊と戦ったことがある。黒い霧のようなもので、獣が精霊獣並みに強くなっていた。

 王国では精霊獣ともども存在すら認知されていない。今のところ最果ての森でしか発生しないらしいのだ。

 

「あたしもよくわかんないけど…………あ、これかな?」


 リリアネアは別の報告書を広げた。

 

「精霊獣の話では、『悪意が淀みに集まって発生する』らしいわね」


「悪意……いや、誰であれ少なからず悪意は持っているだろうが、最果ての森には少ないんじゃないか? むしろ人族の領域にこそ充満していそうだぞ」


「なのよね……あたしもそう思うんだけど、なんでだろ?」


 二人して首をひねる。

 

「その辺りも含めて、精霊獣たちと話をしてみるか。原因がわかれば、悪霊の発生を抑えることができるかもしれない」


 そうすれば、彼らの仕事が減る。余った労働力を、共生関係に回してもらえると期待できた。


「展望が開けてきたわね。でも、あまり無理はしないでよ? 息抜きなり気分転換なり、ちゃんとやらないと」


「気分転換、か……。そういえば――」


 ガリウスは山積みになった冊子の下を掘り起こす。

 

「人手不足の対策は、別の側面からも行える。人手を増やすのではなく、手間を減らすんだ」


「けっきょく仕事の話じゃないの」


「いやいや、気分転換にはなるさ。アイテムの開発は何度かやってきた。俺が貢献できる分野だ。便利アイテムを作って、作業効率を上げるんだよ」


 麦刈り用に開発した魔法具は、秋の収穫で絶大な威力を発揮している。

 かかりきりになる作業から解放されれば、空いた時間を他の作業に回せるのは実証済みだった。

 

「……っと、あった」


 ガリウスは折りたたまれた紙を引っこ抜く。

 広げると、殴り書きのような絵や文字が踊っていた。

 

「飛空戦艦で見つけたものだ。やたら豪華な部屋だったから、ユルトゥスの居室だと思う」


「字が汚くて読みづらいわね……」


「それこそ気分転換に解読していたのだが、どうやら飛空戦艦の設備を図解しているもののようだ。それはまあ、どうでもよいのだが……これを見てくれ」


 ガリウスは紙面の端っこに描かれた絵を指差す。

 

「なにこれ? 杖、かな……?」


 長い棒の先がぐにゃりと短く曲がっている。ガリウスも最初は杖だと思った。

 

「だがよく見ると、持ち手らしきとは逆側の先に、穴が開いている。おそらくだが、筒状になっているんじゃないだろうか」


「曲がってるとこの内側にも、変な突起みたいなのがあるわね」


「字が擦れて説明部分が読み取れないな。指を引っ掛けるようだが、頑張れば解読できそうな気がする」


 興奮ぎみのガリウスに対し、リリアネアの反応は困惑に近かった。

 

「どうして、これがそんなに気になるの?」


「おそらくこの資料は、ケラがユルトゥスに説明したときに作られたものだろう。飛空戦艦に関するものばかりの中で、これだけ浮いている」


 彼らはリムルレスタに攻めこむ最中、この資料を使って何かしら話し合っていた。

 となれば、ここで図示されている奇妙なモノは――。

 

「武器、ではないだろうか」


 ケラは三百年を生きた、〝世界を記録する者〟だ。その知識から新たな武器を考案したとガリウスは考えた。

 

「人手不足の解消には直接貢献しないかもしれないが、何かに転用できる可能性もある。ま、これはあくまで俺の趣味みたいなものだ。他にも面白いものがないか漁ってみるよ」

 

「ふふ、なんか楽しそうね。ま、根を詰めすぎるより、好きなことをやって気分転換になるならいいんじゃない?」







 はてさて。

 久しぶりに語り部がお話しいたしますと。

 

 お気楽に笑い合う二人が語っていた武器は、『銃』と呼ばれる小火器だそうです。大雑把に言えば大砲を小型化したもので、いまだ実用化には至っておりません。

 考案したケラは肉体を入れ替えたばかりで潜伏中であるため、開発は頓挫していました。

 

 しかしガリウスは半年と経たず、息抜きがてらで試作品の完成に至ります。

 魔法が使えなくとも、非力であっても弓以上の威力と射程を誇る武器。さらに魔法効果を付与した改良型を開発し、いずれリムルレスタは少数で圧倒的な殲滅力を誇る部隊を築き上げるのですが、それはもうすこし先のお話。

 

 冬将軍を前にして、ガリウスは精力的に動いていきます。

 聖武具の封印を完全に解くことも、速やかに行ってほしいものですが――。

 


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