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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第五章:(´・ω・`)魔王のずっと帝国に無双ターン

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魔王は号令する


 薄暗い地下工房に、紅茶の香しい匂いがたちこめる。

 ムーツォの陣中見舞いに、リリアネアと一緒にガリウスは訪れた。黙々と作業する彼を見かねて無理やり休憩を取らせたのだ。

 

 丸テーブルと椅子を持ってきて、差し向かいに座る。

 

「一昨日俺が帰ってから、ずっと作業していたのではないだろうな?」


「いやあ、ここにいると時間の感覚がなくなりまして。もうそんなに経ちましたか?」


「……食事と睡眠はきちんと取ってくれ。倒れられたら困る」


 すみません、とムーツォはしゅんとするも、紅茶を口に含んで幸せそうに目を細めた。

 

「落ち着きますねえ。私にもこんなおいしいお茶を淹れてくれるお嫁さんがいてくれたら、と思いますよ」


「君の場合、生活習慣を改善する意味でもパートナーは必須な気がする」


「相手がいませんからねえ」


「せめてメイドでも雇うべきではないか?」


 ムーツォは「考えておきます」と紅茶をすするが、こちらで準備しておくべきだとガリウスは心に決める。

 それはそれとして。

 

「へえ、これが聖武具なのね……」


 リリアネアは初めて見る聖剣と聖鎧に興味津々の様子。作業台の上に置かれた金ぴかの武具をしげしげと眺めていた。

 

『お久しぶりです、リリアネア』


「わっ、なんか聞こえた!」


『こうしてお話しするのは初めてですね。しかし、わたくしは何度もあなたを見ていましたよ?』


「そ、そう、なの……?」


『ええ。いずれ結ばれるとは思っていましたが、ガリウスをもらっていただき、ありがとうございます。末永く支えてやってください』


「は、はあ……。えっと、はい」


「おい。母親面して妙なことを言うな」


『ふふ。照れなくてもよいではないですか。わたくしはあなたが十三のころから見守ってきたのです。母親気分にもなろうというもの』


「へえ、そんな昔から知り合いなんだ」


『何かご質問があれば、事実をありのまま過不足なくお伝えいたしますよ?』


「ホントに!? それじゃあえっと、出会ったころからガリウスって真面目だったの?」


 待て、と止める間もなく、リリアネアが食いついた。

 金色の兜から両の手のひらを出して語り始めたエルザナード。

 べつに聞かれて困るでもなし、ガリウスは無視することにした。

 

「ところでムーツォ。魔法に詳しい君に訊きたいことがある」


 笑いをかみ殺したようなムーツォに、ジト目を向けながら尋ねる。

 皇帝ユルトゥスの防御魔法についてだ。

 

「透明で、球体の防御魔法、ですか……」


 メルドネの言葉をそのまま伝え、ロイの話しぶりからも相当硬い守りだと付け加えた。

 

「水属性の魔法で、似たものがありますね。水で球体を作り、ものすごい勢いで水流を回して壁にするのです。ただ、これだと『硬い』と表現するのは不思議ですね」


 その魔法は攻撃を水流で弾き飛ばして防御するものだ。

 鋭く速い攻撃には弱く、多少軌道は変えられるが貫かれてしまう。貫通力のある攻撃を防ぐには、一般にはロイやジズルが使っていたような防御魔法壁を用いる。

 

「そもそも、その魔法において防御はいち形態にすぎません。『水霊人形ウォーター・パペット』――水を自由自在に操作するのがその魔法の本質で、むしろ水の性質を利用した攻撃にこそ真価を発揮するものですよ」


 それに、とムーツォは続ける。

 

「ウォーター・パペットは水に近しい獣――ケルピーなど高位の存在のみ扱える魔法です。完全に使いこなすには、ジズル様でも難しいでしょう。人族なら魔法特化の恩恵ギフトでどうにかなるかもしれませんが……単純に魔力が高いだけでは無理でしょうね」


「ふむ。では別のものか……」


「空気の圧縮……いや、でもこれは身を包むほどの球体なら突風が生まれますね。下手をすれば真空状態になって身を切ることにもなりかねませんし」


 その後もいくつか列挙されたが、どれもこれもピンとくるものがなかった。

 だが、ガリウスはひとつだけ、引っかかっていた魔法がある。

 最初にムーツォが挙げた、ウォーター・パペットだ。

 

(攻撃が主である魔法を、あえて防御でのみ披露した。奴なら、好んでやりそうな気がする)


 当たって砕けるわけにはいかないが、何が起こるかわからないのが戦闘でもある。

 戦いながら相手の力量を知り、力の秘密を暴くのは常にやってきたことだ。

 今回も自分と、自身の恩恵ギフトを信じるほかない。

 

 などと真剣に考えているというのに。

 

『剣を弾かれ、跪く貴族のお坊ちゃんにガリウスは言いました。〝もっと武器の特徴を深く知ることだ。剣が泣いているぞ〟とね!』


「くぅ~痺れる! かっこいい!」


 自身の昔話をされるのが、これほど顔が熱くなるとは知らなかった。

 もうやめてくれ、との声をかき消すように、快活な声が扉が開かれるとともに響き渡る。

 

「ガリウスさん! 空飛ぶお船が見つかりました!」


 ククルが、ガリウス以上に頬を紅潮させて叫んだのだ――。






 王国領内、ガルブルグ城に巨大な物体が飛来したとの報が、都市国家群に伝わった。

 城の近隣住民の目撃談が、旅の商人によってもたらされたのだ。

 

 都市国家群に潜伏中の諜報員から詳しい報告がリムルレスタの都にも届けられ、ガリウスたちは議事堂の会議室で対策を協議する。

 

「到着からおよそ一週間が経過している。せっかちなユルトゥスならすぐにでも攻めてくると思ったが……まあ、今この瞬間、こちらへ飛んできている可能性もあるがな」


 ガリウスは代表者席でぐるりとメンバーを見渡した。

 ジズルが応じる。

 

「大きさは入手した設計図とほぼ同じじゃのう。しかし、千ほどの兵士しか積めぬのじゃから、陸路で別部隊も向かってくるのではないか?」


「どうかな。リムルレスタを制圧するなら多くの兵が必要だろうが、あの男がやりたいのは鬱憤晴らしだ。俺を叩きのめし、いくつかの町を砲弾の数だけ蹂躙するくらいしか考えていないと思う」


「それはそれで迷惑な話じゃのう……」


 一同はそろってため息をつく。

 

「いちおうこちらも陸上部隊は展開しよう。敵に陸上兵力がないにしても、飛空戦艦を堕としたら中の兵士たちと戦闘になるからな」


「して、堕とす手立ては?」


 一同が見守る中、ガリウスは漆黒の槍を持ち上げた。

 

「これを使う」


「魔樹の呪槍をか? それは生き物にしか特殊効果は発動せぬはずじゃが……」


「呪いをかけるのではなく、解除に使う。設計図には、動力部分の記述が不足していた。あの大質量を浮かせるにはとてつもない魔力が必要になるのだが、その供給源が書いていない。おそらくは――」


 ガリウスの言葉を、末席にいたペネレイが継いだ。

 

「樹木化した誰かを、魔力供給装置にしている……」


「その通りだ。とはいえ、疑問もある。計算上は千人ほど必要なのに、動力室はそれだけの人数が収まる広さではない。設計図と異なるにしても、千人も積めば乗せる兵士を減らさなければならないだろう」


 魔力は一度、蓄積装置に溜められて、そこから必要な分を動力に回す仕組みになっている。

 だから移動先で魔力を補給してもよいのだが、行く先々で魔力供給システムを構築するのは無理があった。飛空戦艦の内部に供給源を置くのが現実的だ。


「まさか、また亜人を……」


 ペネレイがギリと奥歯を噛んだ。

 肉体派に思えるオーガもそうだが、人族を大きく超える魔力を持つ種族は多い。

 

「ペネレイ、南方諸国にはどれほどの亜人がいたか知っているか?」


「……いえ。もともと極少数の種族が、人里を避けてひっそり暮らしていましたから。我らの里に一番近い亜人の集落は、同じオーガ族で、しかも歩いて一週間はかかりました。そことすら、ほとんど交流はありませんでした」


 ガリウスはあごに手を添え、しばらく考えてから口を開いた。

 

「亜人を樹木化して魔力の供給源にするのなら、君たちの一族が最有力候補になっていただろう。にもかかわらず、早い段階で王都へ移送された。となれば、供給源は人でも亜人でもないと考えるべきかもしれない」


 まさか、と方々からのつぶやきに、ガリウスはうなずいて答える。

 

「いわゆる魔物、と呼ばれる獣たちだ。魔法を操れる個体なら、エルフや、それこそ竜人族以上の魔力を持つ場合もあると聞く。ところでペネレイ、君は『精霊獣』を知っているか?」


「ぁ、はい。精霊格を得た獣ですね。この辺りには多く存在するとか」


「南方諸国には、いなかったか?」


 ペネレイはハッとする。

 

「我らの里からいくつも国境を超えた南の高地に、グリフォンの棲息地があります。そこに、ひと際大きなグリフォンがいた、と。噂を伝え聞いた程度なので確証はないのですが……」


「メルドネはグリフォンを使役していた。その棲息地に何かしら帝国が関わった可能性は高い」


 仮に精霊獣がいたとして、それを捕らえ、樹木化していたら。

 グリフォンは魔物の中でもトップクラスの魔力を誇る。一部の竜種を超えるほどだ。その精霊獣ともなれば、一匹でも飛空戦艦の動力を賄えるかもしれない。

 

「俺は飛空戦艦に突入し、動力室を目指す。樹木化を解除して魔力の供給源を断ち、ついでに魔力の蓄積装置も停止する」


 状況次第ではその前にユルトゥスとの対決がある。いずれにせよ、あの男はここで始末する気でいた。

 

「ガリウス殿、私もお供させてください!」


 ペネレイが立ち上がり、真摯な瞳をガリウスに向ける。

 

「君は一族の長として、都に残るべきではないのか?」


 王都で救出したオーガ族は、みな都の外れに簡易住居を構えて過ごしている。

 王都の宝物庫には『疑似神薬(パラ・エリクサー)』と呼ばれる、人が作りし神の秘薬(エリクサー)に迫る超回復薬があった。

 惜しみなくほとんどを使った結果、体は完全回復したものの、多くは呪い状態に長く苦しんだ心の傷が癒えていない。


「仮に連れていくとしても、君の役割は陽動だ。船内の兵士だけを相手してもらう。ユルトゥスと戦うことは許さない」


 ぴしゃりと言い放つも、ペネレイは視線をそらさず、静かに語る。

 

「あの男を憎む気持ちは、たしかにあります。幾度も間違いを犯した、自身を責めてもいます。ですがそれら以上に、私は恩に報いたい。たとえ我が信念に反しようとも、命令には背かないと誓います」


 ガリウスは腕を組み、しばし考えてから、

 

「いいだろう。君はなるべく船内の敵兵を引き付けてくれ。ユルトゥスはもちろん、将軍クラスが現れたら即刻撤退だ。飛竜の扱いにも慣れておいてくれ」


「はい! この身に代えましても!」


「……いやだから、命を粗末にしてもらっては困るぞ?」


「ぁ、はい。今のは言葉の綾といいますか……」


 気恥ずかしそうに席に着いたペネレイに苦笑したのち、ガリウスは細かな作戦を立てる。

 そうして、最後に立ち上がって告げた。


「目標は帝国皇帝ユルトゥスの打倒。我らの平穏を脅かす勢力に、みなの力を見せつけよう!」


 号令に、建物を揺るがすほどの雄叫びが応じた。

 

 

 

 この八日後。

 準備を整えたガリウスたちの耳に、一報が届く。

 

 試運転か、力の誇示か、あるいは両方か。

 

 帝国の飛空戦艦が、都市国家群の街をひとつ、壊滅させたのだ――。



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