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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第五章:(´・ω・`)魔王のずっと帝国に無双ターン

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魔王は準備を怠らない


 ガリウスは王都への強襲を決断した。

 実行は迅速に、しかし事前の準備は入念に。

 帝国皇帝ユルトゥスの動向を探りつつ、ガリウスは着々と準備を進めていた。

  

 今回の作戦では、『魔樹の呪槍』で樹木化した多くの者たちを元に戻すことになる。だが長期間の呪いで衰弱は必至。まともな精神状態でない可能性も極めて高かった。

 

 彼らの治癒は最優先課題だ。

 ところが、並大抵の回復方法では追いつかない。

 

 そこで注目したのは、『フェニクスの鎧』だ。

 

 装備した者の魔力を消費して自動回復させるもので、魔力の供給装置として無理に魔力を生成し続けてきた者たちにそのまま使うのは酷だろう。

 だからガリウスは鎧を一度バラして、回復に特化したアイテムに作り替えようと考えた。

 

 胸部の鋼板を剥がし、形を整える。火の魔石と、相克する水の魔石を加えて鍛え直した。見た目は赤塗りの仮面だ。


 自分の顔に合わせてみて、感触を確かめる。

 使い方はこのように、対象者の顔にくっつけて、術者側が魔力を消費して治癒を行う。

 種族によってはぴったり顔にくっつけられないが、額なり首なり顔付近にあてがえば問題なかった。

 

 ただし、高位の回復魔法と同等の効果があるとはいえ、極度に衰弱した者を完全回復させる力はない。それに近い状態にするにも、術者側でかなりの魔力を消費してしまう。

 これはあくまで、比較的症状が軽い対象者にガリウスが使う場合を想定したもの。つまりは補助だ。

 

「うむ。なかなかいい感じだな」


 都にあるドワーフの大工房。その片隅で作業していたガリウスは、赤く煌びやかな装飾品を持ち上げて自賛した。

 

 蝶が羽を広げたような形をした板状の装飾品。いくつか細いチェーンが伸びている。

 ガリウスが首から下げれば胸がすっぽり隠れるほどの大きさだ。当然、人が身につけるものではない。


「すてきです! きっとアオさんも喜びます!」


 側で見学していたククルが飛び跳ねる。

 ガリウスは装飾品を持って、彼女と一緒に外へ出た。

 

 

 往来で昼寝していたのはユニコーン・フェンリルのアオだ。薄目を開けてガリウスたちをちらりと見るも、そのまま目を閉じた。

 体勢的にはちょうどいい。

 

 ガリウスは装飾品をアオの額にあてがった。チェーンのひとつを角に引っ掛け、長いチェーンを耳の後ろに通して固定する。

 

 元は自動回復効果のある鎧だったが、こちらは純粋に魔法力の向上――魔法の効果をアップさせるものだ。アオは精霊獣リュナテアの半身として生まれ、いくつか魔法も扱えた。

 中でも回復魔法は突出しており、その効果をアップすれば瀕死の者も全快できる。

 

「どうだ? 妙な感じがしたら言ってくれ」


 言葉を話せないアオではあるが、ガリウスの言葉は理解でき、嫌なら『取ってよ』と顔を押しつけてくるだろう。が、アオは特に反応もせず、目を閉じたまますまし顔だった。

 

「アオさん、とてもよく似合ってますよ」


 ククルが嬉しそうに言うと、アオはぴくりと耳を動かした。ちょっとニヤついているようにも見える。気に入ってくれたようだ。

 

「む? 何をやっておるのじゃ?」


「おじいさま! お帰りなさい」


 ちょうどそこへ、ジズルがやってきた。巨躯を引きずるように歩み寄る。

 

「精霊獣たちの反応はどうだった? やはり怒っていただろうか?」


 ジズルは事情説明のため、十二いる精霊獣たちの下を訪れて回っていた。

 

 人族社会に建国を宣言する。それは最果ての森に人族たちが侵攻してくる危険を伴う。

 生活圏の秩序と安全を重んじる精霊獣たちにしてみれば、許し難い蛮行だろう。だから誠心誠意、事の経緯と今後の不安を取り除くべく、ジズルは駆け回ってくれていた、のだが。

 

「いんや。こっちが話す前からいろいろ察してくれてのう。同情すらされたわい」


 人族を脅威に感じているのは精霊獣も同じ。

 仮に亜人たちが入植してこなかったとしても、いずれ最果ての森にまで彼らは進出してくると常に警戒していた。

 

 早いか遅いかで言えばずいぶんと早まってはしまったが、亜人たちが防衛のため動いてくれるなら、それへの協力は惜しまない、というのが精霊獣たちの一致した考えらしい。

 

「というわけで、飛竜部隊も用意できそうじゃが?」


「それは助かるな。およそ二百名を王都から移送するにはありがたい」


 ペネレイの故郷にはそれくらいのオーガ族が暮らしていた。仮に全員が樹木化され、王都に連れ込まれたとしたら、徒歩で最果ての森まで移動するのは困難を極めるだろう。

 

 立ち話もなんなので、ガリウスは二人と大工房内の一室に入った。テーブルには古い文献が広げられている。

 ジズルは太い尻尾を気にしながらも、大きな椅子に腰かけた。ククルもちょこんと席に着く。


「飛竜部隊が使えれば、最悪の場合は石化したゾルトを運ぶこともできるが、どうするかのう?」


「そうだな。現地で石化を解除するのがベストだが、それが無理なら解放したオーガ族とともに一度ここまで運んでこよう」


 ただ、その可能性は低いとガリウスは考えていた。

 オーガ族の戦士ゾルトの人となりは知らない。何を考え、どうして自ら聖武具を抱えて石化したのか、まったく想像できない。

 が、聖武具の精霊エルザナードならば、簡単にその思考が読み取れた。

 

(あの精霊もどきがゾルトに願うとすれば、『自分をガリウスに渡してほしい』に間違いない。となれば――)


 石化解除のカギは、ガリウス本人である可能性が高かった。


(ま、あの精霊もどきは抜けているところがあるから、俺の名を告げない愚を犯している危険もなくはないが……)


 どのみち、石化したゾルトのところへ行けば解除条件は明らかとなる。

 ガリウスの【アイテム・マスター】は触れたアイテムの特性を瞬時に詳らかにする。生物をアイテムとは認識しないが、石化状態ならその限りではなかった。

 

「そういえば、ペネレイがグラムから離れたと報告があったな」


「王都へ向かったか、東の拠点ガルブルグか……どっちじゃろうな?」


「道中で聞き込みをして探るしかないな。後者だといろいろ面倒だが」


 ガリウスは王国の地図を持ってきて考え始める。

 その様子を眺めていたジズルが、低い声で尋ねた。

 

「しかしお前さん、本当に一人で(・・・)やるつもりか?」


「作戦の特性上、亜人たちが大挙して王都に攻め入るのはマズいからな。厳密にはクロとアオもいるが、それ以外の戦力は現地で調達する(・・・・・・・)


「いや、うん……今さらなんじゃが、うまくいくかのう? ペネレイや他のオーガ族はよいとしても――」


 ジズルは困ったようにため息交じりに言った。


王国民を扇動する(・・・・・・・・)というのは……」 

 

 ガリウスはしれっと答える。

 

「さて、都合よく地下抵抗組織(レジスタンス)でもいてくれれば確実だが、ま、それがいなくとも適当に煽れば局所的な戦闘には発展してくれるさ」


 自分は淡々とロイを倒し、オーガ族を元に戻し、帝国兵を薙ぎ払う。そのついでに王国民のプライドなりを刺激してやるのだ。

 

「民衆とは常に、英雄を求めるものだからな」


 情報がほとんどない中で、いちおうは人族の男が帝国兵を打ち負かしていけば、彼らは勝手に盛り上がり、自ら武器を手にして後に続いてくれるのだ。

 

 王都強襲作戦では、王国と帝国との対立を再燃させることも主目的のひとつであった――。



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