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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第三章:(´・ω・`)勇者は魔王ですか?

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勇者は国宝級の武具を作る


 ウーズァ鋼は、最果ての森のとある山で採掘できる稀少金属素材だ。

 十分に鍛えれば凄まじい切れ味を発揮する一方、ゴムのような弾性を備えているので折れにくい特徴がある。

 

 ウーズァ鋼を熱で溶かし、小指の先ほどの闇水晶を投入する。さらに火の魔石を加え、型に流しこんだ。

 形が定まったところで、鍛冶の精の金槌(ドヴェル・ハンマー)を打ちつける。

 

 ガリウスは流れる汗を拭きもせず、一心不乱に鎚を振るう。

 都にあるドワーフの大工房に金属音が響き渡った。

 

 周囲で作業していたドワーフたちは手を止め、彼の手際の良さにため息をついている。

 

 最後に水に浸すと、じゅわっと水蒸気が立ち昇り、銀色の刀身に赤い炎のような模様が浮かび上がった。

 

 風の精霊の短剣(シルフィード・ダガー)に比べて刀身が長く、細い。両端を持って力を入れると、ぐにゃりと刀身が歪曲したものの、離せばすぐ元に戻った。

 

 あらかじめ準備していた柄に取り付け、これで全工程を終了して完成、したのだが。

 

(できて、しまったぞ……)


 本人は心底驚いている。

 彼が作ったのは『炎の精霊の短剣(サラマンダー・ナイフ)』。

 シルフィード・ダガーに並ぶ国宝級の短剣だ。

 

 以前、特殊効果付きのクワを作ったときは完成品が手元にあり、それを【アイテム・マスター】で調べ上げてからの作業だったので、そっくり同じものを作ることができた。

 

 しかし今回は、ジズルが持っていた古い文献を読み解いての試み。

 稀少素材を無駄にはできないが、ドワーフたちの助言を受けつつ、実物にある程度近くて使い物になればよい、くらいの気持ちだった。


 なのに、できた。

 できてしまった。

 手に持っただけでわかる。シルフィード・ダガーと属性は異なるが遜色ない性能を有している、と。


 ドワーフたちが集まってきた。

 

「すげえな、ほんとにできちまった」

「なんつーか、オーラが違うよな」

「なあ、試してみようぜ」


「いや、さすがにここでは……」


 ガリウスは躊躇ったものの、ドワーフの一人が「いいからいいから」と鋼の棒を持ってきた。

 

 仕方なく、短剣を手に馴染ませ、軽く斬りつけた。

 ほとんど抵抗なく、スパッと鋼の棒が両断される。切り口が赤く染まり、どろりと溶けた。

 

 おおっ、とどよめきが起こる。

 

「さすがに火属性だけあって、破壊力はシルフィード・ダガー以上だな」とガリウスも驚く。


「こいつはすげえや」

「量産できねえかな?」

「素材自体はあるからなあ」


 どうだい? と工房長のドワーフが尋ねてくる。

 

「威力は申し分ないが、使った感触からは、少々クセがあって扱いが難しそうだ」


 中距離攻撃用の特殊効果は広い範囲に火炎を放つもの。乱戦や街中での使用には難がある。

 

「火の魔石の代わりに風の魔石を用いれば、シルフィード・ダガーに近い武器が作れると思う。そちらを試してみて、うまくできたならちょうど風属性主体の部隊がいるから、彼ら用にいくつか作っておこう」


「ん、了解だ。ひとまず文献の情報だけでガリウスならなんでも作れそうなのはわかった。時間もねえし、今後の方針を決めとくか」


 促され、ガリウスは工房長と一緒にいったん工房を出た。

 別室に入り、テーブルの上に広げた古い文献を眺め、指で示す。

 

「これと、これは素材にも限りがあるから、俺が担当しよう。こっちの『快速ブーツ』は手間がかかるな。俺が試作品を作るから、それを参考にしてくれ」


「数はどのくらいだ?」


「百は欲しいな。ワーキャットやワーウルフといった獣人系の種族に持たせたい。同じく『快速の蹄』をケンタウロス用に作っておきたいな」


「闇水晶は足りっかなあ?」


「使う量はごくごく少量だ。なんとかなる」


「分量の管理はガリウスに任せていいよな?」


「ああ。それから、『爆裂のやじり』は俺が用意するので、矢の本体はそちらで頼む」


「爆裂の鏃……って、こいつを使うのか?」


 工房長はテーブルに立てかけていた長い棒状のものを持ち上げた。先端が鋭く尖った、獣の角だ。

 

 ユニコーン・フェンリルの角である。

 

 アオのものだが、今回のために切ったのではない。彼らは成長過程で何度か角が自然に取れ、生え変わる。今までに二本、ガリウスは大切に保管しておいた。

 

「このまんまでもなんかに使えそうだよなあ」


「残念ながら文献にあるのはそれだけなのでね。ま、こちらは一本だけ使えば事足りる」


 その後も扱う種族を想定した武具やアイテムの作成方針をおおよそ固め、二人は工房のドワーフたちに伝えた。みな、リムルレスタ国内から集められたとびきりの職人たちだ。

 気合を入れて作業に没頭する。

 

 ガリウスも自身が担当する武具の作成を行った――。

 

 

 

 数日が経ち、ガリウスは都を出て草原地帯へ赴いた。

 広い場所で作成した武具やアイテムを試すのが目的だ。そして、もうひとつ――。

 

「君たちも本作戦の参加に志願したと聞いた」


 ガリウスが振り向くと、強張った表情でうなずく二人。リッピとリリアネアだ。

 

「ここまで来てお留守番なんてしてられないよ」


「そうそう。だから、止めても無駄よ」


「別に止めはしない。君たちの実力は俺もよく知っている。そのうえで、君たちにふさわしい武具を渡そうと思ってね」


 ガリウスは担いできた袋の中から短剣を取り出す。

 

「サラマンダー・ナイフだ。リリアネア、火の精霊とも契約している君なら上手く扱えるはずだ」


「ナイフ……? ありがたいんだけど、アタシ接近戦はそれほど得意じゃないわよ? 別にふさわしい人がいるんじゃ……」


 受け取ったものの、リリアネアは困惑したように眉尻を下げた。

 

「それ自体が中距離攻撃用としても使えるし、魔法攻撃を補助する効果もある。敵に接近されたときは護身用に使えばいい」


「そう、なんだ。じゃあ、使わせてもらおうかな」


 リリアネアが笑顔になる。

 それを見届けて、ガリウスは袋の中を漁った。

 

「リッピ、君にはこの二つだ。『癒しの羽剣』と『快速ブーツ』という」


「ブーツはわかるけど、こっちは……剣なの?」


 白く大きな羽が十枚、木の枝に括りつけられている。柄の部分は細い縄でぐるぐる巻きにされていた。


「千年樹の枝にペガサスの羽を貼りつけ、ケルピーのたてがみで固定してある。柄の縄には同じくケルピーのたてがみと、闇水晶を埋めこんだ」


 ケルピー絡みの素材を用いているので、回復魔法と同じ効果を発揮できる。しかも精霊獣イシュケのもの。効果はかなり高い。ちなみに『鱗は痛いから勘弁』と、たてがみをすこし切ってわけてもらった。

 また風属性を併せ持ち、振れば風刃が生まれ、離れた相手を切り刻める。


「魔力をこめて撫でるだけでも剣として機能する。やってみるといい」


 リッピは足元に転がっていたこぶし大の石を羽剣で撫でてみた。スパッと真っ二つになる。

 

「すごいっ!」


「使い方はシルフィード・ダガーとそう変わらない。威力は落ちるが、回復効果がある分、使い勝手はいいはずだ」


「ありがとうガリウス! でも、ボクなんかがもらっちゃっていいのかな?」


「君は特殊効果を持つアイテムの扱いに長けているからな。水と風の属性を持っているし、問題はないよ」


 そっか、とリッピは快速ブーツも履き、そこらをビュンビュン駆け回った。


「ちょっとリッピ、こっちには来ないでよ」


 リリアネアも短剣をあれこれ試している。

 

 二人の様子を眺めながら、ガリウスは思う。

 

(俺は、やはり国の代表などには向いていないな……)


 国を束ね、みなを導く者はときに、非情に徹する必要がある。

 最大効率を追求し、合理的に判断する姿勢が求められるのだ。


 彼女らに渡した武具は、他に探せばもっと上手く扱える者がいるだろう。

 

 けれど、二人にこそ使ってほしかった。

 前線で命を落とす危険を、すこしでも減らしたくて。

 

 えこひいき。自己満足。そう謗られても仕方のない行いだ。

 だからこそ――。

 

(責任は果たす。囚われの亜人たちは、全員確実に助け出す!)


 我がままを通す以上、それ以外で妥協は許されない。たとえ脳が焼き切れ、四肢が千切れようとも――。


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