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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第三章:(´・ω・`)勇者は魔王ですか?

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勇者はお土産を買う


 リムルレスタの都では、連日いくつもの協議が行われていた。

 

 急であったため新たに千の同胞を受け入れる準備はまだ完全とはいえず、今後の暮らしも定まってはいない。

 二週間近い救出作戦により多くの人員と資材が投入された。それによる経済的な損失と停滞も問題となっている。

 また、人族の都市国家群にはいまだ多くの亜人たちが囚われていて、その救出方法も重要な議題のひとつだ。


 だが、悲観している者は少ない。そういった者たちも含め、みなが困難に立ち向かおうとしていた。

 

 

 長々とした話が終わり、ガリウスは大会議室から出て、廊下で伸びをした。

 ちょこちょこと女の子――竜人族のハーフ、ククルが彼を追って駆けてくる。

 

「ガリウスさん、お疲れさまでした。というか、連日の会議で、本当にお疲れではないですか?」


「そうだな。だがどちらかといえばずっと座りっぱなしだから、体を動かしたい」


 飛竜に乗ってあちこち動き回っていた数日前からこの落差。

 しかしそれも、今しがたの会議でひと段落だ。

 これまで話し合った内容を専門の者たちが吟味し、その結果は日を改めて議論される。

 それまでガリウスは、ボルダルの町に戻って静養することになっていた。

 

「でしたら、市中を見て回りませんか?」


 都に来ても会議堂にこもってばかり。まともに市中を歩いたことがなかった。


「そうだな。せっかくだし、きちんと都を見ておくのもいいか」

 

 ククルはにぱっと笑みを咲かせると、ガリウスの手を引っ張っていった――。

 

 

 大通りはさすが都と言えるほどの賑わいだ。

 しかし、街の風景はどこか素朴に思えた。

 土がむき出しの道。馬車が通れば土ぼこりが舞う。木や土でできた低層の建物は雨風によるものか古びて見えた。

 

 人族の街フラッタスは雑然としてながらも真新しく、近代的だった。それに比べるとみすぼらしい印象は拭えない。

 それでも行き交う亜人たちは活力に満ち、商店や露店からは威勢のいい声が響いていた。

 

「どこか行ってみたいところはないですか?」


「いや、特にこれといった目的はない」


「それでしたら、リッピさんやリリアネアさんへのお土産を選ぶのはどうでしょう?」


 二人はボルダルの町で彼の帰りを待っている。遊びに来たわけではないが、日ごろから世話になっているみなにお土産を持って帰るのはいい案だ。

 フラッタスへ赴いた際は、奴隷となった亜人たちの救出でそれどころではなかったし。

 

「しかし、何を土産にすればいいかな? 贈り物を考えるのは苦手でね」

 

「わたくしにお任せを、ですよっ」


 ククルはきらりと瞳を光らせると、小さな商店へ突撃していった。

 

 小物や雑貨を扱う店だ。

 すれ違うのにも苦労する窮屈な店内をあっちこっち物色する。

 

「ガリウスさん、これをリッピさんにどうでしょうか?」


 高々と掲げたのは、びっしりと毛が敷き詰まったブラシだ。

 

「うん、なかなかよさそうだな」


 ただ、リッピは長い毛がもふもふしている。

 

「こちらの隙間が大きい、毛玉をほぐせるタイプもよいだろうか」


「なるほど。ガリウスさんは詳しいですね」


「以前、一緒にブラシを注文しに行ったことがあってね。あれこれ話しているのを横で聞いていた」


「えっ、すでに持っているのであれば、ブラシをお土産にしても……」


「それなりに前の話だ。ブラシは何種類も欲しいと言っていたし、喜ばれるとは思うぞ?」


 そうですか、とククルはホッと胸を撫で下ろした。

 ちょうど店主がワーキャットだったので、相談してひとつを選んだ。リリアネアにも長い髪を梳かす櫛をひとつ購入する。

 

 続いてはアクセサリーなどを扱う店に入った。

 

「女物はそれほど必要ないぞ?」


「リッピさんとリリアネアさんは特別ですから」


 ククルはさっき以上に目を輝かせて、あっちこっち動き回っていた。

 一方ガリウスは手持ち無沙汰だ。女性用の装飾品なんて、何を選んでいいかさっぱりわからない。

 

「ガリウスさん、これなんてどうでしょうかっ」


 きらきら光る大きな玉が二つ、紐のようなもので繋がっている。

 

「……それはなんだ?」


「髪留めですよ?」


 玉はひとつがククルのこぶしと同じくらいの大きさだ。

 想像してみた。

 リッピは予想外にしっくりくるが、リリアネアは何かが違う気がする。

 

「しかし、リッピがその手のアクセサリーを身に着けているのを見たことはないぞ?」


「ワーキャットのみなさんは、キラキラした装飾品が大好きなのです。今のご時世、着飾る方はあまりいらっしゃいませんけど」


 そう、以前リッピに聞いたとククル。


「リリアネアさんはどうしましょう? エルフ族は人族に容姿が近いですし、ガリウスさんにお任せします」


 そういうククルも角と尻尾を除けば人と似た容姿をしている。黒髪と銀髪の違いこそあれ、さらさらのロングヘアーは参考になるだろう。

 そこでガリウスは、ククルに髪留めをあてがって選ぶことにした。


 赤い花を模した髪留めを、ククルにサイドテールにしてもらってつけてみた。

 黒髪では暗めな印象。銀髪だときつく感じてしまうかもしれない。

 

「色違いは……紫と白がありますね」


「銀髪だから紫だな。さほど濃い色ではないし、ちょうどよいと思う」


「では、こちらを――?」


 ガリウスは紫と白、二つの花の髪留めを手に取った。

 

「黒髪に白い花は映えると思うのだが……」


 ククルは目をぱちくりさせている。

 

「わたくしに、ですか……?」


「ああ。そのつもりだったのだが、すまない。色違いでも同じものは嫌だったか」


「い、いえ……いいえ! 嬉しいです! リリアネアさんとお揃いなら、なおさらですね♪」


「そうか。ならばこれにしよう」

 

「ガリウスさん、ありがとうございました!」


 ククルはさっそく角のそばに白い花を咲かせ、ニコニコと満足げ。足取りも軽い。

 

 ゼパルには酒用の大きな盃を。

 書類仕事の多い町長まちおさテリオスには、体格に合った大きなペンを。

 他にも日ごろ世話になっている町の者たちに、と買いそろえていたら、抱えきれないほどになった。

 

 二人で荷物を分け、会議堂へ戻る道すがら。

 

 ククルが思い出したように尋ねた。

 

「そういえばガリウスさん、おじいさまのお話は、やはりお受けにならないのですか?」


「ジズルの話?」


 一瞬なんのことかわからなかったが、最後の会議でジズルから言われた話を思い出した。

 

 突拍子もなく、国家を揺るがす重大な話。

 

 だというのにジズルは実にお気楽に、ガリウスに言ったのだ。

 

 

 ――お前さん、この国の代表にならんか?



 むろん、即座に断った。


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