12 「撃て」
──信じてるからね、ハルト。
リリスは祈るような気持ちで彼を見つめていた。
先ほど、彼から受けた説明を頭の中で何度も繰り返す。
まず、セフィリアは治癒魔法を応用した独自の魔法を操るということ。
傷を治す力を逆方向に作用させ、その傷を悪化させることができるのだ。
それを続ければ、わずかな傷でも致命傷へと至り、相手は死ぬ──。
そして、もう一つはハルトの防御魔法のことだ。
一日に一度だけ、彼は時間をわずかに巻き戻して、受けたダメージをゼロにできるのだという。
にわかには信じがたい話だった。
時間の操作──それはいわば神の摂理をねじ曲げること。
因果律そのものに干渉するレベルの大魔法。
歴史上、そんな魔法を操った人間は一人もいない。
いや、もはや魔法の範疇すら超えている。
神の領域といってもよかった。
だが、ハルトが嘘をつくとは思えない。
だから、信じた。
恋しい少年の言葉を、純粋に。
ハルトから授けられた作戦をもう一度思い返す。
『いいか、リリス。俺はセフィリアの攻撃で瀕死の傷を負うはずだ』
『その後で時間が巻き戻る──』
『戻ったタイミングで俺が合図を送る』
あたしは、それに合わせて彼女を撃つ──。
※
「な、なぜ……!?」
セフィリアが呆然と俺を見ている。
一瞬前まで瀕死の重傷を負っていたはずの俺を。
いや、すでに『一瞬前』じゃない。
第六のスキル形態──『時空反転』。
一日に一度だけ使える『時間を巻き戻す防御』によって、俺は無傷の状態だった時間まで戻ってきた。
そして──俺が狙っていたのはこのタイミング。
セフィリアの意識がスキル発動に向けられた瞬間だ。
人間は、同時に二つの物事に意識を向けられない。
だから──、
「撃て、リリス!」
叫ぶ。
ほぼ同時に、
「雷光弾!」
リリスが無数の光弾を生み出し、放った。
セフィリアの意識が自身のスキル『葬送の超速再生』の発動から、リリスの攻撃魔法へと向く。
が、それに対する反応は一瞬だが──遅れた。
俺の狙い通りに。
「きゃあぁ、ああっ……ぁぁっ……!」
直撃を受けてセフィリアは吹っ飛んだ。
リリスはなおも光弾を次々に生み出し、連打する。
「こ、このっ……あうっ、ううっ……!」
矢継ぎ早に光弾を食らい、セフィリアは集中を妨げられていた。
攻撃を受けた端から肉体を修復しているものの、傷の痛みまでは消えないからだ。
「隙は与えないっ」
リリスはさらに数百、数千という光弾を放った。
魔法能力なら、魔将の魔力を受け継いだリリスの方が、ランクC冒険者に過ぎないセフィリアを圧倒している。
単純な力押しで攻めこみ、セフィリアに何もさせない。
「癒しの大地」
その間に、アリスが治癒魔法で自分自身とリリスの傷を治した。
傷自体がなくなってしまえば、もはや『修復』の逆回転は使えない。
新たな傷をつけられない限り。
「アリス、仕上げだ」
「はい、ハルトさん──水晶封棺!」
アリスが唱えた呪文が青白く透き通った輝きを生み出し、セフィリアの周囲を囲んだ。
「な、何、これ……きゃあっ!?」
悲鳴とともに──その体が巨大な水晶の棺に閉じこめられる。
「窒息死でもさせる気……?」
水晶の中からセフィリアが眉を寄せた。
訝しむように俺を見つめる。
「でも無駄だよ? あたしはどんな傷も自動的に『修復』する。誰もあたしを殺せない」
「ああ、確かに殺せないな」
俺は水晶の中にいるセフィリアを見つめた。
どんな物理攻撃でも、魔法攻撃でも、セフィリアを殺すことはできないだろう。
「だから、殺さない」
──第二の形態、不可侵領域。
──第四の形態、虚空への封印。
俺は二種のスキルを水晶内の彼女にかけた。
魔法発動能力を封じ、さらに物理的な破壊力をも封印する。
「お前の『破壊力』はすべて封じた。魔法でも物理でも、水晶の棺は砕けない」
「っ……!」
セフィリアが息を飲むのが分かった。
「ほんのわずかでも傷があれば、それを広げて破壊できるんだろうけどな──その傷はつけさせない。氷の棺自体を俺のスキルで保護して、絶対にダメージを受けないようにしておいた」
そう、これでもう彼女には脱出手段がない。
ずっと棺の中に閉じこめられたままだ。
「お前の楽しみのために──誰かが傷つくことは、もうない。お前はこの中に封印されるんだ。永遠に」
次回から第20章「終わりゆく世界」になります。
5月下旬~6月上旬から更新再開予定です。
ちょっと他の作業との兼ね合いで、きちんとしたスケジュールを確定させられない感じなので、再開時期が近くなりましたら、あらためて活動報告及びあらすじの一行目にて告知予定です。
少し間が空きますが、気長にお待ちいただけましたら幸いです<(_ _)>
【5/11追記】
書き下ろしラノベ「ガチャ運ゼロの最強勇者」1巻が5月28日に発売予定です。「愛弟子~」ともども、こちらもよろしくお願いいたします(*´∀`*)
詳しくは5月1日付けの活動報告をご参照ください。
公式ページはこちら↓
http://bravenovel.com/paper_book/760/








