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絶対にダメージを受けないスキルをもらったので、冒険者として無双してみる  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第19章 守護者VS修復者

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11 「他に手はない」

 俺はセフィリアを見据えた。


 噛みしめていた唇が破れ、ツーッと血が滴る。


 痛みは感じなかった。

 ただ煮えたぎるような怒りと、リリスやアリスが殺されるかもしれない不安感だけがあった。


「へえ、随分と怖い顔してるね。あたしを殺すの、ハルトくん?」


 セフィリアもまた俺を見ている。

 楽しげな笑みを浮かべたままだ。


「スキルを使うには一瞬の集中が必要だからね。それをさせないほどの速さで殺す──とか?」

「っ……!」


 俺は息を飲んだ。


「ざんねーん。あたしのスキルは任意発動(アクティブ)自動発動(オート)に切り換えられるんだよ。ハルトくんもたぶん同じだよね」


 と、セフィリア。


「自分自身を『修復』するスキルを、常にオートで発動するようにしているの。だから不意打ちだろうとなんだろうと、あたしは殺せない。ダメージを受けた瞬間に、勝手にスキルが発動して『修復』しちゃうからね」


 俺とほぼ同じ状態ってわけか。

 互いに相手を傷付ける決定打は、ない──。


「今度あたしを怒らせたら、そっちのおねーさん二人を殺しちゃおっかな? どうしよっかな?」


 ニヤニヤと笑うセフィリア。


「ほら、もっと絶望してみせて。ね?」


 そうだ、リリスとアリスの命を相手の掌中に握られている以上、俺の方が圧倒的に不利な立場に立たされている──。


「だけど……そうだね。一つ条件を出そっか」


 セフィリアが俺の前で指をぴんと立てた。


「代わりにハルトくんが命を投げ出すなら、彼女は助けてあげる」


 にこやかに提案する。


「なんだと……!?」


 つまり二人を助けるために、俺に『死ね』って言ってるわけか。


「ふふ、いいよいいよー。その顔。絶望と苦悩がいっぱい浮かんだ顔。最高だね」

「なんで、こんなことを……」

「どうしようもなく惹かれるの。他人のそういう顔に」


 セフィリアはチロリと舌で唇を舐めた。


「性癖、ってやつかもしれないねー」


 どうする──。


 いや、もう迷っている時間はない。

 リリスもアリスも、俺にとって大切な仲間だ。


 ──考えろ。


 俺は頭の中をフル回転させる。


 俺もセフィリアもオートでスキル発動ができる。


 決してダメージを受けない俺と。

 どんなダメージを受けても瞬時に再生できるセフィリアと。


 ともに外部からの攻撃で致命傷を受けることはない。

 じゃあ、俺たち二人が戦ったときに、決め手になるものはなんだ?


 スキルの隙をつける方法はあるのか──。


「……そうか」


 俺はハッと気づく。


 一つだけ、可能性がある──。


「いいだろう。俺が命を投げ出す」


 俺はセフィリアをまっすぐに見据えた。


「だからリリスとアリスには手を出すな」




 ──覚悟が、必要だ。


 俺の目論見通りにいけば、勝算はある。


 だが、ことがその通りに進むとは限らない。

 どうしたって不確定要素が出てくるからだ。


 だけど、それでも賭けるしかない。

 俺がやらなきゃ、リリスやアリスが殺される……!


「その前に二人と話していいか?」

「ん?」

「これでお別れになるかもしれないからな」

「『なるかもしれない』じゃなくて、確実になるよ。うん、それじゃあ二人と話してきたら? なんなら、熱いちゅーでもしたら?」


 茶化すセフィリアを無視し、俺は二人に歩み寄った。

 そして──あることを伝える。


「ハルト……」

「ハルトさん……」


 リリスもアリスも不安そうな顔だ。


「あたし、やっぱり嫌だ。危険すぎるよ」

「私もです」


 俺を見つめる二人の瞳には涙が浮かんでいた。


「他に手はない」


 俺は二人に背を向ける。


「大丈夫だ。俺を信じろ。打ち合わせ通りに──頼む」


 言って、俺はセフィリアの元に歩み寄った。


「覚悟はできた?」

「──ああ」


 ごくりと喉を鳴らす。

 不安や恐怖はある。


 だけど、乗り越えてみせる。


「いいよいいよ、決意に満ちた顔だねー。その顔がどう変わるのか……どう歪むのか。楽しみ~」


 セフィリアが満面の笑みで言った。


「じゃあ、始めるね? 絶望と苦痛と憎悪と──とっておきの表情を見せてね、ハルトくん」


 俺に向かって手を伸ばすセフィリア。


「くっ……!」


 背後でリリスとアリスが動く気配があった。


「だめだ、攻撃するな!」


 慌てて警告する。

 セフィリアを刺激したら、二人は殺される──。


「ハルト……」


 信じてくれ、二人とも。


「いいよいいよー、そういう信頼って。でも、ざーんねん。ハルトくんはあたしに殺されちゃうんだよね。おねーさんたちも絶望する顔を見せてね。すっごくそそるから」


 セフィリアが無邪気に笑った。




 融合発動(ユナイト)──再設定開始(リセット)


 自動発動を解除。

 全スキル形態を発動停止。


 再設定完了(コンプリート)──。




 これで、攻撃を受けても俺のスキルは発動しないはずだ。


「──やれ」


 俺は静かに告げた。


「ふふ、これぞショータイム、だね」


 セフィリアが俺に向かって光弾を放った。


「ぐっ……!」


 スキルを解除し、俺はその攻撃をまともに食らった。

 腕を、足を──光弾で撃たれ、血がしぶく。


「うあ、ああぁっ……!」


 鈍い痛みが断続的に走った。

 女神さまからスキルをもらって以来、ほとんど傷らしい傷さえ受けることがなくなっていたから、こんなふうにまともにダメージを受けるのは久しぶりだ。


 これが──痛みか。

 感慨さえ覚える。


「じゃあ、仕上げ──いくよ」


 セフィリアが俺に手をかざした。

 その手のひらに輝く紋様が浮かび上がる。


葬送の超速再生リジェネレーション・レクイエム

「ぐっ……ああぁ……ぁぁぁああああああっ……!」


 腕や足の傷がすさまじい勢いで広がっていく。

 さっきまでとは比べ物にならない量の血が噴き出した。


 激痛で意識が薄れていく。

 目の前がかすむ。


 ──耐えろ。


 俺は自身を叱咤した。


 耐えるんだ。

 必ず勝機が訪れる。


 セフィリアは、おそらく俺を一瞬で殺すことはしない。


 奴自身が言っていたことだ。

 人が死ぬ間際の、絶望の顔が好きだと。


 なら、俺がそんな絶望を浮かべるまでジワジワと殺しにかかるだろう。

 絶対とはいえないが、かなりの確率でそうする、と俺は踏んだ。


 その可能性に賭けた。


「ぐぅ……ぅぅぅ……ぉぉ……ぉ……っ……!」


 俺の意識はさらに薄れていく。


 血が足りない。

 もはや痛みさえ感じない。


 思考が止まり、全身から熱が消え、すーっと冷めていくような感覚。


 そうか、これが──。




 死、か。




 込み上げる圧倒的な絶望。


「あっはははははははは! そうだよ、その顔! あたしが見たかったのは、その絶望だよ! 最高だね、ハルトくん!」


 セフィリアが哄笑する。


 俺の意識が霧散し──。


 俺という存在がすべて無に帰す──。




 次の瞬間、視界が一気に明るくなった。




「えっ……!?」


 驚いたようなセフィリアの顔が見える。


 傷一つない状態で、俺は『生還』していた。

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