8 「単なるゲームだって」
「ね、デートしよ?」
「いきなり何言ってるんだ……」
にこやかに笑うセフィリアに俺は困惑していた。
ただ、バネッサさんやエレクトラが死んだ、というさっきの言葉が気になる。
もう少し詳しく聞く必要があるだろう。
「ち、ちょっと、デートってどういうこと!?」
「その方はどなたですか、ハルトさん!?」
廊下の向こうからリリスとアリスが駆け寄ってきた。
二人とも息が荒い。
顔が真っ赤だし、やけに鋭い視線でセフィリアを見ている。
「えへへ、ハルトくんはあたしにメロメロなんだよ~」
セフィリアが邪気のない笑みを浮かべ、俺の腕にしがみついてきた。
むにゅっ、と意外に豊かな胸の弾力が二の腕に押しつけられる。
正直、ドキッとしてしまった。
「……なんかデレデレしてない、ハルト?」
「……ハルトさん、けっこうだらしないんですね」
リリスとアリスが一気に不機嫌な顔をする。
「いや、その……えっと、二人で話したいことがあって」
「「二人で話したいこと!?」」
しまった、よけいにツッコまれるような言い回しをしてしまった。
「ふーん……?」
二人がそろって俺に顔を近づける。
ジト目×2の視線が突き刺さるようだ。
……まずいぞ、これは。
とはいえ、二人を巻きこみたくないしな。
セフィリアがどこまで信用できるのか、分からない。
彼女とは俺が二人だけで話したいところだ。
「ごめん、リリス、アリス。でも俺はセフィリアと行くから」
俺は真剣なまなざしで二人を見つめた。
しばらくの、沈黙。
「……事情があるんだね。分かった」
「……ハルトさんがそう言うなら」
二人はちょっと拗ねた顔だったけど、それでも矛を収めてくれた。
「あ、これかわいー、あ、これもかわいー。っていうか、全部かわいー」
雑貨屋に入ったセフィリアは嬉しそうにはしゃいでいた。
綺麗な刺繍がされたハンカチやら、花飾りのついたポーチやら、可愛らしい猫のぬいぐるみやらを目を輝かせて見ている。
とても何か企みがあるようには見えなかった。
「……本当にただデートしたかっただけなのか?」
「ねーねー、プレゼントしてよー。ハルトくん、ランクA冒険者でしょ。お金いっぱい持ってるよね?」
「お前だって冒険者だろ」
「あたしはランクCだもん。っていうか、男の子は女の子にプレゼントするものでしょ」
「うーむ……」
セフィリアはますます目をキラキラさせ、俺を見つめる。
むむ……断りづらい雰囲気だ。
しょうがない、買うか。
「じゃあ、このハンカチとポーチとぬいぐるみちょーだい」
「全部買うのかよ」
せめて一つにしてくれ。
「えー、けち」
ぶーっと口を尖らせるセフィリア。
拗ねた様子だ。
「バネッサたちの計画のこと、教えてあげないよー?」
「むむむ……」
さっきから俺のペースは乱されっぱなしだった。
「いいのかなー? んん、どうするの、ハルトくん?」
しょうがない、全部買うか……。
「ふふ、こういうのって初めて。男の子とデートするのって、憧れてたんだよねー」
レモンティーを飲みながら、嬉しそうにはにかむセフィリア。
雑貨屋の次は喫茶店だった。
こうして見ると、普通の女の子にしか見えないな。
「もう、さっきからあたしのことジロジロ見てばっかり。もしかして──惚れちゃった?」
「目的はなんだ」
俺はコーヒーを一口飲み、セフィリアを見つめた。
「怖い顔しないで。本当に、ちょっとお話したかっただけだから」
セフィリアは俺を見つめ返す。
つぶらな瞳に浮かぶ光は、どこか濁った印象を受けた。
「話か。それなら、いくつか聞きたいことがある」
俺は身を乗り出し、
「まず……バネッサさんやエレクトラが死んだっていうのは、本当なのか」
「そだよ」
平然とうなずくセフィリア。
「神さまを怒らせちゃったみたいだねー」
「神さまを……?」
「うん、地と風の王神ちゃんから聞いたの」
セフィリアが笑った。
「あたし、神さまの声が聞こえるんだ。いちおう僧侶だからね」
神の声なら、俺も聞いたことはある。
正確には俺のスキルに宿った、女神さまの意志であって、女神さまそのものじゃないらしいけど──。
「色々と聞いたの。あたしたちがなぜスキルを与えられたのか。神さまの目的はなんなのか。これからどうするつもりなのか。何が起きるのか──」
セフィリアの言葉に俺は耳を傾けた。
「俺たちがスキルを与えられた理由は……?」
ごくりと息を飲み、俺は緊張気味にたずねた。
胸の鼓動が高鳴る。
半ば無意識に全身をこわばらせ、彼女の答えを待つ。
「うん、単なるゲームだって」
セフィリアがあっけらかんと答えた。
「ゲーム……?」
「あたしたちがスキルを使って何をするのか、人間の社会にどう影響を与えるのか──それをただ見守る遊び。神さまにとっては暇つぶしなのかなー? それともあたしたちを見てるだけで楽しいのかな?」
「暇つぶし……」
「あるいはその裏に、もっと違う思惑があるのかもしれないねー。アーダ・エルちゃんははっきり言わなかったけど、なんとなく雰囲気で分かったの。もしかしたら、神や魔、竜以上の存在に──」
「えっ」
「ううん、これ以上はいいや」
微笑み、首を振るセフィリア。
──あなたの魂は特別製なのです。したがって今回の『死』をキャンセルし、もう一度生きるチャンスを与えられることになります。
──魂には製造番号のようなものがあり、特定の番号には『やり直し』のチャンスを与えています。
──その際に、あなたは強大無比な力を宿すことになります。先ほど申し上げたように、どんな攻撃でも絶対にダメージ受けない体になるのです。使いようによっては、世界を一変させることもできるでしょう。
俺が一度死んだ際、女神イルファリアから告げられた言葉を思い出す。
あのときは、単なる幸運や偶然なんだと思っていた。
生き返れることも。
スキルをもらったことも。
だけど、神々の思惑は別にあった。
ゲーム──俺たちを駒か何かだと思っているのか。
あるいは演劇の役者でも見るような気持ちなのか。
分からない。
なんだか、嫌な気分だった。
イルファリアに対しては、特別な悪感情はないんだけれど……。
600万PVを突破していました。
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