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絶対にダメージを受けないスキルをもらったので、冒険者として無双してみる  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第19章 守護者VS修復者

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5 「苦労したんだよ?」

「未来が見える? へえ、そんなヘロヘロでも見えるんだ?」

「……!」


 見透かしたようなセフィリアの笑みに、エレクトラは表情をこわばらせた。


 ──彼女の推察は当たっていた。

 最近では遠未来予知を恒常的に使用しているため、精神力をかなり消耗していた。


 それでも、大量の精神力を使う遠未来予知と違い、近未来予知を使う分には問題ない。

 セフィリアを仕留めるには十分だった。


運命の女神(マニューバ・フ)の鐘が鳴る(ォーチュンベル)


 スキルを発動して数秒先の未来を見通す。

 相手の動きを読み取り、回避も防御も不可能な攻撃を放つために。


「全部お見通し? おっかないし、逃げよっと」


 セフィリアは大きく後ずさった。


「──視えているよ」


 それがフェイントであることをエレクトラは見抜いていた。

 いや、知っていた。


「君がどう動くのか。どう避けるのか」


 ──二秒後、前方斜め三十度の地点に一斉射撃。

 四体の精霊に思念を送る。


「なーんて、ね。攻撃は最大の防御~」


 と、バックステップしたように見せかけて、セフィリアが小剣を抜いて突進してきた。


「それも視えている」


 前方斜め三十度。

 予知で得た映像と寸分たがわず、そこに移動したセフィリアを、精霊たちの攻撃が襲った。


「きゃあっ!?」


 炎が、雷撃が、次々と彼女を直撃する。


「いったー……容赦なしだね、おねーさん」


 全身がズタズタに裂け、僧侶のローブも焼け焦げて消失している。

 セフィリアは血に濡れた裸身をさらしたまま、軽く顔をしかめた。


超速再生(リジェネレーション)


 つぶやきとともに傷がすべて消え、破れた衣服も元通りに再生する。

 血の一滴すら残っていない。


「いくら『修復』できるって言っても、傷を受ければやっぱり痛いんだよねー」

「こいつ……!」


 相手の行動も、こちらの攻撃も、すべては予知の通りだった。


 その先の未来までは一気に視れなかったが──あれだけの傷を一瞬で直してしまうとは。

 信じられないほどの再生スピードだ。


「あたしを殺したいなら即死させるしかないねー。一瞬でも時間があれば、あたしは全回復しちゃうし」

運命の女神の鐘がマニューバ・フォーチュン──」

「おっと、予知なんてさせないよ~」


 予知のために集中しようとしたところで、セフィリアがふたたび突っこんできた。


 防御など考えない、捨て身の突進。

 スキルを発動している時間はない──。


「ならば、これで!」


 エレクトラは精霊たちに迎撃させた。

 頭や心臓を狙った集中攻撃だ。


「無駄だよ~。聖なる加護(ホーリィシェル)


 白く輝く幕のようなものが、セフィリアの全身を覆った。

 僧侶系の防御呪文である。


「無駄なのは君の方だ」


 四体の精霊に思念を送り、攻撃を一点に集中させる。

 ガラスが砕けるような甲高い音とともに、光の幕は粉々に砕け散った。


「予知などなくても、冒険者としての戦闘能力はこちらが圧倒的に上。力押しだけで──何っ!?」


 しかし、砕かれた光幕は瞬時に再生してしまう。


「防御呪文のシールドもノータイムで『修復』できるんだよねー。おねーさんの攻撃は、あたしには通らないよ」


 得意げに胸を張るセフィリア。


「くっ……」

「ほら、どうしたの? もっと攻めてきて。全部出し尽くして。それでもなお通じず、己の無力を思い知って」


 セフィリアの口の端が吊り上がり、歪んだ笑みを形作った。


「そして──絶望する顔をあたしに見せて」

「図に乗るな」


 エレクトラはセフィリアを見据えた。


「確かに君の防御能力は厄介だが、しょせんは守りだけだ」


 かつて、ハルトと戦ったときのことを思いだす。

 あのときは、時間を巻き戻す防御スキルの前に敗れたが、セフィリアの『修復』で似たような真似ができるとは思えない。


 相手が防御しかできない以上、攻め続ければいずれは突破口を開ける。

 なんといっても、こちらは相手の動きをすべて先読みできるのだから。


 ──とはいえ、ここは撤退しておくべきか。


 先ほどの予知が気になる。

 純粋な戦闘でセフィリアに負ける気はしないが、彼女も神の力を授かったスキル保持者(ホルダー)である。

 どんな奥の手を隠し持っているかは分からないのだ。


(まずは攻撃で圧倒する。それから隙を見て、この場を離脱するとしよう)


聖なる散弾(ホーリィバレット)


 セフィリアが攻撃呪文を放った。

 エネルギーの弾丸を十数発まとめて放つ僧侶系魔法だ。


「無駄なあがきを。君の攻撃能力などたかが知れている」


 小さな光弾群が精霊たちを襲うものの、文字通りかすり傷だった。


「そうだね。あたしじゃ大した傷はつけられない」


 セフィリアはにっこりとした笑みを深めた。


「でも、十分なの。かすり傷で、ね」


 口の端が大きく歪むほどの、禍々しい笑み。


 セフィリアは左手をまっすぐに突き出す。

 開いた手のひらに、輝く紋様が浮かび上がった。


 同時に、絶叫が響く。


「これは──!?」


 精霊たちが苦悶の表情で体をくねらせた。

 先ほどの攻撃で受けたかすり傷がどんどん広がり、魔力で構成された体が崩れていく。


「な、何が起きているんだ……!?」

「あたしのスキルは『修復』」


 セフィリアがエレクトラを見つめた。


「これはその力を逆転させた現象。傷を治すエネルギーを逆方向に作用させた──つまり」


 断末魔とともに、四体の精霊は消滅した。


「小さな傷はどこまでも広がり、やがて対象を破壊する。どう、けっこう苦労したんだよ? この技を身に着けるのって」


 ──そういえば、彼女と初めて会ったとき、周囲にミイラ化した死体があったことを思いだす。


(まさか、あれも……)


 今セフィリアがしてみせたのと同じ術。

 冒険者たちにかすり傷を負わせ、修復の逆回転をかけて、ミイラにした──。


 確信はない。

 あくまでも想像だが──ゾッとする。


「ちっ、精霊召喚(エルガゲート)!」


 エレクトラは、ふたたび精霊を呼び出すために呪文を唱えた。

 前方の空間に裂け目が──この世界と精霊のいる幻想世界をつなぐ亜空間通路が出現する。


 その瞬間、


「もうやらせないよ~、超速再生(リジェネレーション)!」


 セフィリアが明るく叫んだ。

 同時に、裂け目が完全に塞がってしまう。


「召喚できない……!?」


 エレクトラがうめいた。


「召喚用の亜空間通路まで『修復』で──」


「そ、空間に開いた穴自体を直したの。精霊を呼び出せなければ、おねーさんに攻撃手段はないよね。次はどうする? また未来を読んで、あたしの弱点でも探してみる?」

「──運命の女神(マニューバ・フ)の鐘が鳴る(ォーチュンベル)

超速再生(リジェネレーション)


 数秒先の未来を読もうとしたところで、その映像が消失した。


「っ……!?」


 エレクトラは愕然と立ち尽くす。


「な、何をしたんだ……スキルが、使えない……!?」

「おねーさんの力って、時空間に干渉して未来の映像を見てるんでしょう? 言い換えれば時の流れをねじ曲げて、その先を視る──だから、あたしは」


 セフィリアは楽しげだった。

 まるでおもちゃを自慢する子どものように、楽しげで無邪気だった。


 その笑顔が底知れぬ恐ろしさを感じさせた。


「ねじ曲がった時空間を『修復』した。頼りの予知も、あたしの前では使えない」

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