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第19章 守護者VS修復者

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1 「支えになれたら、って」

 がるるるぉぉぉぉおおおおおおおおんっ!


 魔獣の咆哮が響き渡る。

 クラスSに位置する竜種が、タイラスシティの上空を旋回していた。


 それを迎え撃つのは俺とリリス、アリスの三人。


 竜の口から吐き出されたブレスが数百単位の氷弾と化し、町中に降り注ぐ。


 直後、俺の体から黄金の輝きがあふれた。

 一瞬にしてタイラスシティ全域を覆った金色のフィールド──『封絶の世界(エリュシオンゲート)』がすべての氷弾を弾き散らす。


 竜種は悔しげに吠え、地面に降り立った。


「──来るぞ」


 俺はリリスとアリスに警告する。

 ……まあ、警告なんて必要ないかもしれないけど、いちおうってことで。



 直後、竜種が動いた。


 ブレスは効かないと悟っているのか、爪や牙、尾などの肉弾攻撃で攻めてくる。

 常人では反応すらできない速度のコンビネーション。


 だが、そのいずれもが俺やリリスたちには届かない。


 俺の反応とは関係なく自動的に発動する防御スキルが、すべての攻撃を遮断したからだ。

 苦しまぎれに放たれたブレスも、同じように黄金の輝きが弾き散らす。


 竜種の攻撃は、完全に無力化されていた。


烈皇雷撃破ライトニングストライク!」


 リリスの雷撃が竜種を一撃で打ち倒す。


 世界最強と称され、これを打ち倒した者には討竜士(ドラゴンスレイヤー)の称号が与えられる──竜。

 その竜すらも、もはや俺たちの前では単なる雑魚モンスターと変わらない。


 魔獣退治はあっさり終了し、俺たちはギルドに戻った。




 ギルドへの報告を済ませた後、俺はリリスに防御スキルのテストに付き合ってもらった。


 ジャックさんとの戦いを通じて会得した第七の──まさに神域ともいえる形態『封絶の世界(エリュシオンゲート)』。


 これは自分の意志で自在に発動できる。

 ──というよりも、何も意識していなくても勝手に発動するみたいだ。


 極端な話、道端で転んだらその瞬間にオートで発現して俺を守ってくれる。

 たとえ誰かに不意打ちで狙われたとしても、もはや俺を傷付けることはできないだろう。


 剣でも、魔法でも。

 あらゆる攻撃が俺には通らない。


「じゃあ、始めるか。毎日付き合わせて悪いな」


 このスキルテストはすでに四日目だった。


「あたしで役に立てるなら、なんでも言ってね」


 リリスは優しいなぁ。


「ありがとう」


 俺はにっこりと礼を言って、テストを始めた。


 基本的に、リリスが攻撃魔法を撃ち、それを俺が防ぐという形でデータを取っていく。


 まず効果時間。


 初めて俺がスキルを身に着けたとき、基本形態である護りの障壁(アーマーフェイズ)の持続時間はおおよそ五分だった。

 だけど、この封絶の世界(エリュシオンゲート)は違う。


 今までは効果時間が切れるときに、『もうすぐ切れる』という感覚が訪れた。

 でも、封絶の世界(エリュシオンゲート)にはそれがない。


 もしかしたら俺が自分の意志で解除しないかぎり、永続的に続くのかもしれない。

 少なくとも数時間で切れることはなかったし、疲労感もまったくなかった。


 次に効果範囲。


 普通に展開すると、だいたい町一つ分くらいを黄金の結界で覆うことができる。

 しかも俺の意志によって、この範囲は広がる。


 昨日、アリスに上空まで魔法で飛んで見てもらったところ、三つ隣の町まで届いていたそうだ。

 たぶん、その気になればもっと先まで届くだろう。


 最大範囲がどれくらいなのか。

 そのテストは少しずつ進めていくつもりだった。


 発動も、効果拡大も、俺自身に疲労感はない。

 むしろスキルを使えば使うほど、不思議な高揚感が湧き上がってくる。


 力がさらに磨かれ、強大化していくような感覚は甘く、心地よかった。

 だけど、心の片隅に違和感みたいなものが澱んでいた。


 何かが、おかしい。


 俺は強くなっているのか?

 それとも──?




『そこへ踏み出せば、あなたはあなたでいられなくなるかもしれません。覚悟は、ありますか?』




封絶の世界(エリュシオンゲート)』を身に着けた際、女神さまから言われたことが脳裏をよぎる。


 ……俺は、俺じゃない何かに変わろうとしているのか?


「ハルト、何か悩みでもあるの?」


 それを見透かしたように、リリスがたずねる。


「俺は──」


 言いかけて、言葉が止まる。

 言葉にできない漠然とした不安感を、俺は結局口にできなかった。


「……なんでもないよ」


 リリスはしばらく無言で俺を見つめていた。


「側にいるからね」


「えっ?」


「あたしはずっとあなたの側にいる。ずっと思ってきたし、これからもずっと思ってる──あなたの支えになれたら、って」


 どこか切なげな微笑を浮かべるリリスに、俺は微笑を返した。


「もう、なってるよ」


 ありがとう、と礼を言って、俺はその日のスキル訓練を終えた。




 数時間に及ぶテストを終えた俺は、リリスやルカに別れを告げてギルド支部までやって来た。


 魔族が頻出する現象は小康状態みたいだけど、いつどうなるかは分からない。

 いざというときの備えに情報を仕入れておきたかった。


 受付に続く廊下を進むと、前方から銀色の髪をした女の子が歩いてきた。


「お疲れさまです、ハルトさん」


 にっこりとほほ笑むアリス。


「今日も防御魔法の訓練ですか?」


「ああ、リリスやルカに手伝ってもらったんだ」


 スキル保持者(ホルダー)以外の人間に神の力を口外することはできない。

 しようとすれば激痛が走るのだ。


 だから防御スキルのことは、みんなには防御魔法ということにしている。


 ──どくんっ!


 ふいに胸が熱く脈動した。


 まただ。

 力があふれ出す感覚。


 意識が高揚し、テンションが際限なく上がっていくような感じ。

 気持ちの高ぶりに合わせて心臓が激しく鼓動を打つ。


「ううっ……」


 胸が痛いくらいで、ちょっと顔をしかめてしまった。


「どうかしましたか、ハルトさん」


 アリスが心配そうな顔をした。


「いや、ちょっと胸が苦しいっていうか、その──」


 どう説明すればいいんだろう?


 体調が悪いってわけじゃない。

 むしろ、好調なくらいだけれど──。


 でも、俺がそれ以上言うより早く、


「今、治癒魔法をかけます。癒しの大地(アーダキュアリー)


 アリスが手をかざした。

 あふれた青い輝きは、だけど俺の体に触れたとたん、


 がいんっ!


 生じた黄金の輝きと金属音によって弾かれてしまう。


 これは──!?


 俺の防御スキルが勝手に発動した……?

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