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絶対にダメージを受けないスキルをもらったので、冒険者として無双してみる  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第18章 神と魔と、人の大戦

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9 「人が新たな道へ進むための」

 天界──。

 一つの星雲に匹敵するほど広大な空間の中心部に、光がまたたく。


 数は全部で七つ。

 等間隔に並んだ七本の光柱が明滅を繰り返す。


 神々が討議しているのだ。


「聖天使が地上に降り立った」


 光柱の一つから最高神ガレーザの声が響いた。


「私が『移送』のスキルを与えた女の仕業だな」


 別の光柱──天翼の女神、ガ・ゼガリア・フィオが忌々しげにうなった。


「人間でありながら神をも畏れぬ所業……おのれ」


「地上には今、魔の者たちが大挙して押し寄せていると聞くが?」


 大地と風を司る神、アーダ・エルがたずねる。


「聖天使たちはどうなったのだ。もしも、魔の者たちと出会えば、彼らは──」


「無論、出会った瞬間に消滅した。天使も魔族も」


 ガレーザが小さく息をついた。


 彼らにとって忠実なしもべであり、天界の尖兵でもある聖天使たち。

 それをことごとく失ってしまったのだ。


「その女の目的は?」


「何やら色々と策動しているようだが……」


「スキル保持者(ホルダー)同士の争いもその一環か。『強化』のスキルを持つ者は暴走の果てに、『防御』と『移送』によって戦闘不能に陥ったようだな」


 神々がざわめく。


「我らの『ゲーム』は『天翼の女神』殿が一歩リード、かな?」


「いや、もはや『ゲーム』などという体裁を取っている場合ではないだろう」


 楽しげに笑う戦神ヴィム・フォルスをガレーザがたしなめた。


「たとえ、あの者に感づかれ、あるいは咎められることになったとしても──これ以上の放置はできぬ」


 七柱の神々はランダムに選んだ七人の死者を蘇生し、それぞれの力を分け与えた。

 後は一切干渉せず、スキルを与えた人間たちの動向を見守ってきた。


 彼らが何を為すのか。

 自らの欲望のために力を使うのか。

 あるいは他者や世界のために懸けるのか。


 そして──最終的に誰がもっとも世界に貢献するのか。


 それを賭ける、他愛もない神々の遊戯(ゲーム)だ。


(ただし、表向きは)


 護りの女神イルファリアは内心でつぶやいた。


 真の目的は別にある。


 遊戯を装わねば、『あの者』が黙っていない。

 最悪の場合、神々とて消滅させられるだろう。


 表向きはゲームに見せつつ、あの者に対抗できるだけの戦型に持っていく。

 たとえ、どれだけの犠牲を払うことになっても。


 だが、よもやゲームの駒に過ぎないと思っていた人間が──スキル保持者(ホルダー)の一人が、神をも畏れぬ所業をしでかすとは。

 計算外というよりは、想像外だった。


「ですが、我らは直接人間に手を下すことはできません」


 淡々とした口調で告げたのは、運命の女神ルーヴ。


「それが『あの者』が定めしこと。抗えぬ制約。背けば、我れとて消滅は免れない」


 と、そのとき光の柱の明滅が激しさを増した。

 その内部にいる神々の体に、まばゆい光がまとわりつく。


「これは──!?」


 驚きの声が上がった。

 同時に、光の柱が一つ消える。


「聖天使のみならず、我らまで──」


 さらに一つ、光の柱が消え去った。


 そしてもう一つ、また一つ。

 次々と光柱が消えていく。


(……移送のスキルね)


 神々が地上に呼び寄せられているのだ。

 人が、天使だけでなく神をも召喚するとは──。


「人間め、天に唾するような真似を……」


 うめいたガレーザは、しかし、すぐに微笑みを浮かべたようだ。


「だが、それでよい……すべては最後の引き金を引くための──」


 つぶやきとともに、至高神のいる光の柱も消え失せる。

 気が付けば、イルファリア以外の神々はすべてその場から去っていた。


「至高の神であるあなたにもこの流れは予測できなかったのですか、ガレーザ」


 イルファリアは、静かにつぶやく。


「──いえ、きっとあなたはすべてを見越した上で決断されたのでしょうね」


 最後のつぶやきが、それを示している。

 ふう、と息をついた。


「我ら神が人を見守る時代は……終わりを迎えるのでしょう」


 イルファリアは七柱の神々の誰よりも『人間』を評価していた。


 彼女が力を与えた少年──ハルト・リーヴァの動向をずっと見守ってきたから。


 人は成長し、変わっていく存在。

 悠久に変わらぬ神々や魔とは違う。


 その変化が、成長が、神のスキルを覚醒させ、あるいは自分たちを脅かすこともあるだろう。


 イルファリアは予感していた。

 いずれ彼らが神である自分たちを──滅ぼすことになるのかもしれない、と。


「そして、それこそが」


 口元に自然と微笑みが浮かんだ。


「人が新たな道へ進むための……」


 つぶやきとともに、イルファリアは他の六神と同じく──天界から消えた。


    ※


 魔界──。

 魔王城の深奥で、魔王と魔将の少女が討議していた。


「神々の気配が地上へ向かったか」


 魔王がうなる。


「何かの策動……? いや、違うな。これは神の力を持つ人間の仕業だ」


「人間の……」


 六魔将の一人にして、魔王の娘でもある少女──イオがつぶやく。

 つぶらな瞳がわずかに見開かれているのは、よほど驚いたのだろう。


(確かに、人間がそれほどの力を持つなどあり得ぬこと)


 内心でつぶやく魔王。


 だが、神のスキルを与えられた人間ならば──そのスキルを極限まで磨き、神に限りなく近い力の領域にまでたどり着けば。

 決して、不可能なことではない。


 それが限りなく奇蹟に近い可能性だとしても……。


「我らはいかに動けば?」


「地上へ向かう」


 たずねるイオに、魔王は重々しく告げた。


「奴らに出会えば、ともに消滅するのみ。だが、これは好機でもある」


 その口元に笑みが浮かんだ。


「大規模な『移送』の影響で、空間が不安定に変動し──人間の世界と天界や魔界のつながりが強まった。今なら、以前よりも多くの魔族を地上へ送りこむことができよう」


「すべては『移送』の力を持つ女のおかげ、ですか」


「人間が神を地上へ召喚するとは、畏れを知らないにもほどがあるな、くく。神にとっては誤算かもしれんが、我らにとっては僥倖だ」


 魔王は喉を鳴らして笑った。

 大胆な行動には驚かされたが、想定内でもあった。


「あの女が短期間に何度も生み出した『黒幻洞(サイレーガ)』によって、すでに天界や魔界、人間界の間の空間は不安定に揺らいでいた。そこへ天使や神々の召喚を行い、今や三つの世界はつながりつつある……」


 半ばイオへの説明、半ば自身に言い聞かせるように、魔王が言った。


 血が湧き立つ。

 これほどの興奮を覚えるのは、いつ以来だろうか。


「傲慢なる人間ども……汝らには汝らの思惑があろうが、我らには好都合」


「では、いよいよ我ら魔の者がすべてを統べるときが──」


 イオの顔が紅潮する。


 魔族にとっての、永き悲願。

 かつての神魔大戦で敗れてから、ずっと望んできた好機。


「魔の者が、すべての世界の盟主となる──その好機が、まさか人間の手によってもたらされるとは、な」


 魔王は感慨に耽り、玉座から立ち上がった。


「本隊の準備をさせよ。我らも地上へ進軍だ」

次回から第19章「守護者VS修復者」になります。

3月5日(月)から更新再開予定です。

更新後は2日おきの投稿ペース(投稿→2日休み→投稿)で、章の終わりまで更新していくと思います。

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