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絶対にダメージを受けないスキルをもらったので、冒険者として無双してみる  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第18章 神と魔と、人の大戦

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7 「消滅するのみ」

「この付近の魔の者は全員片づけたみたいだな」


 俺は周囲を見回した。


「次のところに向かうか──」


 言ったところで、リリスたちが荒い息をついているのに気づく。

 全員、魔将との戦いでかなり消耗しているみたいだ。


「やっぱり、少し休もう。このまま行くのは危険だ」


「だ、大丈夫よ。他の場所でもみんなが苦戦してるかもしれないし……」


 気丈に言ったのは、リリスだ。


「それに、もしかしたら残り二人の魔将も攻めてきているかもしれません」


「私たちも、加勢に」


「休んでられないよね」


 アリス、ルカ、サロメが告げる。


 とはいえ、全員、疲労の色が濃い。

 万全なのは俺だけだった。


 スキルは基本的に精神力をエネルギーの源としている。

 だから、連発すると疲労感を覚えたりするんだけど、今はそういう感じもない。

 体力は十分だし、まだまだスキルを使えそうだ。


 いっそ俺一人だけでも、他の現場に向かうか。


 俺自身に攻撃力はほとんどない。

 でも、現場にいるランクSやAの冒険者と連携すれば──。


 思案していたそのときだった。


「見て、空が……!」


 リリスが驚いた様子で空を指差す。


 俺や他のみんなも空を見上げた。


「っ……!?」


 驚きに息を飲む。


 上空の一点に金色の光が灯った。

 その光は、まるで水面に移る波紋のように空一面に広がっていく。


 空が、黄金の輝きに染まっていく──。


 幻想的な光景に、俺たちは誰ひとり言葉を発することもできない。


 次の瞬間、激しい震動が辺りを襲った。


 地震──!?


 一瞬そう思ったけど、違う。

 まるで空間そのものが震えているような感じだ。


 光が、ひときわ強まった。

 空全体が太陽になったような、鮮烈な輝き。


 俺はまぶしさに目を細めた。


「あれは──?」


 金色の空から、何かが湧き出す。


 人に似たシルエットだった。

 数は全部で三十……いや、四十近くか?


「天使……?」


 俺は呆然とつぶやいた。


 遠目だからサイズは正確に分からないけど、たぶん全長三メティルくらいだろう。

 光り輝く純白の人型である。


 頭上に浮かぶ光輪や、背から伸びる輝く翼が、圧倒的な神性を感じさせた。


「神のしもべ、聖天使……!」


「おとぎ話でしか、見たことがないです……!」


 リリスとアリスがうめく。


 その天使たちは光の流星と化して、四方に落ちていった。


 ほどなくして、落下点からいくつもの光の柱が立ち上る。

 腹の底に響くような爆音が連続して轟いた。


 激しい戦闘を思わせる、音。


「もしかして、魔の者と戦ってる……」


 俺はハッと気づいた。




「その通りです」




 すぐ近くで声が聞こえた。


 いつの間にか、俺たちの前方に輝くシルエットが一体、降り立っていた。


 仮面のような造形の顔。

 甲冑を思わせる硬質な皮膚。

 背から伸びた光の翼と、頭頂に輝く光輪。


 その全身から漂う厳かなオーラに、自然と畏怖の感情が湧き上がった。


 直感で分かる。

 俺たちの目の前にいるのは、神聖な存在だと──。


「我ら天使は、魔の者に引き寄せられる。己の意志とはかかわりなく……それが我ら聖なる眷属に課せられた制約。そして──天使と魔の者がぶつかり合えば、互いに消滅するのみ」


「消滅……?」


「備えてください。間もなく戦いの衝撃がすさまじい破壊現象となって、世界を揺るがすでしょう」


 天使が語った。


護りの女神(イルファリア)の力を持つ者よ。あなたは、あなたが護るべきものを護りなさい」


 俺を、知っているのか……?


「人の世界に、幸あらんことを」


 告げて、天使は飛び去っていった。


 その行く先で、また光の柱が立ち上る。

 爆音が鳴り、大気が震える。


 ──備えてください。


 さっき天使が言っていたことを思い返した。




 ──直後、すさまじい爆風が押し寄せた。




 大地に何十何百という亀裂が走り、削れていく。

 地の底から爆裂するように大量の土砂が噴き上がり、無数のクレーターが穿たれる。

 衝撃波が烈風となり、吹き荒れる。


 それは、一体どれほどの破壊力だったんだろうか。


 周囲には黄金の空間──『封絶の世界(エリュシオンゲート)』が自動的に発現したため、俺もリリスたちも全員無事だ。


 だけど他の人たちは──。


    ※


 神の眷属と魔の眷属──相反する属性を持つ二つがぶつかり合えば、互いに消滅は免れない。


 天使が降臨した先は、魔の者の軍勢が襲っている場所だった。


 光り輝く天使と、漆黒の瘴気をまとった魔族や魔獣たち。

 それらが出会った瞬間、双方は一瞬にして消え失せた。


 同時に発生した莫大なエネルギーは、破壊衝撃波となって世界中に荒れ狂った。


 光の柱が何本も立ち上り、天空をまぶしく照らし出す。

 地上を駆け抜けた熱波が、爆風が、人や建物を薙ぎ払う。


 さながら、世界規模の天変地異。


 まるで世界の終わりを示すかのような。


 終わりの──始まりを示すかのような。


    ※


 一週間後、俺たちはアドニス王国に戻ってきた。


 魔の者たちの二度にわたる大侵攻──それを迎撃するための大規模クエストを終えて。

 ギルド本部のレーダーによれば、どうやら魔の者たちの第三波侵攻はなさそうだということだ。


 ──というわけで、全員にいったん解散指示が出て、俺は故郷であるタイラスシティに戻ったのだった。

 リリスやアリス、ルカ、サロメも一緒である。


 町は、あまり変わりない様子だった。

 人通りもいつもと同じくらい多いし、変化といえば、いくつか壊れた建物を見かけた程度だ。


「よかった。みなさん、無事だったんですね」


 ギルド支部に行くと、受付嬢のジネットさんが駆けつけてきた。

 黒髪をシニョンにした生真面目そうな顔立ちには、疲れの色が濃い。


「町は大丈夫なんですか?」


「ええ、この辺りは比較的被害が軽いので。ですが、場所によっては都市一つがなくなったり、地形そのものが変わってしまったり……かなりの被害が出ているようです」


 ジネットさんがため息をつく。


「ラフィール伯爵が復興に向けて陣頭指揮を執っています。避難活動や建物の修理、救援物資など着々と進んでいるようですね」


 と、状況をかいつまんで説明してくれた。


 ラフィール伯爵──リリスとアリスのお父さんか。


「大変なことになってしまいましたけど、私もやれることをやろうと思います」


「そうですね。俺たちも」


 ジネットさんの言葉にうなずく俺。


 天使と魔の者たちが衝突し、吹き荒れた破壊現象──。

 それは世界中を襲い、同時に一つの『変化』をもたらしていた。

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