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絶対にダメージを受けないスキルをもらったので、冒険者として無双してみる  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第18章 神と魔と、人の大戦

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5 「迷わない」

 サロメのナイフがディアルヴァを切り裂き、鮮血が散った。


「これは……!?」


 だけど、戸惑いの声を上げたのは彼女の方だ。


 ディアルヴァから滴った血が、元の傷口に戻っていく。

 同時にその傷口だけが分離し、サロメに向かっていく──。


 青い血を滴らせた裂け目のような傷口は、なかなかグロテスクな眺めだった。


「我が呪術は因果律すらねじ曲げ、『傷を受けた』という結果自体を敵に跳ね返す。致命の一撃を受けて死ぬのはキミだ」


 哄笑するディアルヴァ。


「──むっ!?」


 その笑みが驚きの声に変わる。


 がきん、と金属質な音がして、傷口がサロメの前方で霧散した。

 オート発動した護りの障壁(アーマーフェイズ)が呪術を防いだのだ。


「ねじ曲げた因果律すらも防ぐか」


 ディアルヴァがうなった。


「ならば、すべてを消し去ってくれよう……歪曲圧搾弾(プレッシャーボム)


 前方の景色がぐにゃりと歪む。

 空間を圧縮し、そこにいるものすべてを押し潰す魔法か。


 だけど、それも無駄だ。


 空間の歪みは俺のスキルに阻まれ、先ほどの呪術と同じくサロメの前方で消滅する。


「効かない……!?」


「サロメ──」


 俺は彼女に視線で合図を送った。

 さっき打ち合わせた作戦だ。


 こくん、と小さくうなずき、走り出すサロメ。


「通じぬか……ならば、これはどうだ……闇滅砲ガ・バル・ガ


 空間が黒く染まり、歪み、無数の弾丸となって飛んでくる。

 その数は優に百は超えているだろう。


 空間歪曲攻撃の乱れ撃ち──。


 黒い魔弾は、だけど俺が展開している黄金の領域に阻まれ、すべて跳ね返された。


「ならば──その防御が発動するタイムラグを突くまで」


 ディアルヴァが枯れ木のような両腕を振り上げる。


 まだ別の術があるのか。

 攻撃バリエーションの豊富さに、つい感心してしまう。


「最強の威力と最大の効果範囲を備えた我が魔法奥義で……闇爆竜(ガ・ベル・ヴァナ)──」


 魔法は、発動しなかった。


「これは……!?」


「封じさせてもらった。魔法の発動自体を」


 俺は戸惑うディアルヴァに告げた。


 本当は、いつでもこうすることができた。


 魔法を防ぐのではなく、発動そのものをさせない防御──第二の形態、不可侵領域(バリアフェイズ)


 最初からこれを使わなかったのは、手の内を見せないため。

 俺の防御パターンがあくまでも『来た攻撃を防ぐ』タイプだと、奴の意識に刷りこみたかった。


「確かに、以前の戦いでもキミはこんな能力を使っていた──だが、これほど一瞬で能力を切り替えるとは……!」


 ディアルヴァがうめく。


「切り替える必要なんてない。あらかじめ意識しておくだけで──後は自動的に発動する」


 それが封絶の世界(エリュシオンゲート)の真価。

 俺の反応を超えて、前もって定めた順番にスキルを発動させる──。


 その間に、サロメはさらに加速し、分身で幻惑しながら間合いを詰めた。


「速い……まったく躊躇なく突っこんでくるか……!」


 慌てて空間を渡って逃げようとするディアルヴァだが、当然その術も俺のスキルによって封じられ、発動しない。

 逃げるすべを失った魔将に、サロメが肉薄した。


「ハルトくんの力を信じてるからね。きっと護ってくれる、って」


 くすりと微笑む暗殺者の少女。


「だから私は──迷わない」


 突き出したナイフがディアルヴァの心臓を貫く。


「がっ……あああ……ぁぁぁぁぁっ……!」


 断末魔とともにディアルヴァは倒れ、その体が黒い粉雪のようになって霧散した──。


    ※


 壮麗な館を背に、三人の女がたたずんでいた。


「この地に神々を召喚する」


 バネッサが荒い息を吐きながら告げる。


 視界がぼんやりと薄れた。

 体中から力が抜けていく。


 ジャックとの戦いで精神力を消耗しすぎたのだ。


(あの子が余計な真似さえしなければ……)


 バネッサは憎々しげな視線をセフィリアに向けた。


「神様の召喚か~。楽しそうだね。あたし、ワクワクしてきちゃう」


 その視線を受けても、あどけない顔をした少女僧侶はにこやかに微笑むのみだ。


 ジャックの異変を助長したのは、自分の楽しみのため──と無邪気に笑ったセフィリアの言葉を思い出す。


 果たして、本当にそうだろうか?


 疑念が消えない。

 むしろ、疑いは強まるばかりだった。


 彼女はバネッサを消耗させるために、わざとジャックとの戦いを仕組んだのではないのか──!?


 いや、考えていても仕方がない。

 今は、計画を遂行するだけだ。


「現れ出でよ、天空の神々……七柱の……」


 イメージをより明確にするために、呪文めいた言葉を唱え、『移送』の力を最大にして発動する──。


「これは──」


 バネッサの表情がこわばった。


「どうした、バネッサ」


「……精神力(エネルギー)が足りないわ」


 たずねるエレクトラに答えるバネッサ。


 やはり、力を使い過ぎたようだ。


 本来なら天界の神々をすべて──一気に地上に召喚するつもりだったのだが。

 さらに魔王を始めとした高位魔族をも。


 だが、とてもエネルギーが足りない。


「お疲れだね~。あたしがすり減った心の力を『修復』してあげよっか?」


「……いえ、平気よ」


 面白半分にジャックの呪いを誘発させたように、今度は自分にも何か細工をしてくるかもしれない。

 とにかくセフィリアを信用するのは危険だ。


「まずは前段階として、聖天使を召喚しましょう。神を呼ぶほどの精神力(エネルギー)は使わずに済むから」


 神のしもべたる三十七の聖天使。

 それを呼ぶべく、バネッサは両手を高々と掲げた。


 空間を変質させる。

 移動のための道を作る。


 彼女に与えられたスキル──『移送』。

 天界や魔界さえも自在に通過できる道を生成する能力。


 ただし、その代償として莫大な精神エネルギーを消耗する。

 力の配分を誤れば、最悪の場合は心が破壊されて廃人となる。


 慎重に、己の精神状態や残存体力を見極めなければならない。


(あたしの心が壊れる限界直前を見極め、このスキルを発動する──)




楽園解放天翼転移(ヘブンズフィオルート)!」




 バネッサは朗々と叫んだ。


 天空の一角に黄金の光が灯る。

 その輝きは水面に映る波紋のように広がっていく。


 ぅおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおんんっ!


 空が──いや、世界そのものが静かな鳴動を始めた。


 本来なら隔絶されている神の世界と人の世界が、つながっていくのが分かる。


 決して人の世界に降り立ってはならない、大いなる存在──神々や天使。

 それがバネッサに宿る神の力を媒介にして、この世界に呼び出されようとしている。


「光、あれ」


 バネッサは厳かに告げた。

 まるで自身が神そのものになったかのように。


 その言葉に応えるように──降臨する。


 空を覆う黄金の波紋から、翼を備えた白い人型の群れが。

 三十七の、聖天使が。


「魔を駆逐し、ともに消え去りなさい。人の世界のために──」


 いよいよ始まるのだ。


 神と魔と、人の大戦が。

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