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絶対にダメージを受けないスキルをもらったので、冒険者として無双してみる  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第17章 封絶の世界

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8 「人が誰しも持つ、その本能に」

「向こうの攻撃が通じないなら、あたしたちで──」


「ジャックさんの動きを封じましょう」


 リリスとアリスが杖を構えた。


「全員で一斉攻撃を」


「了解よ」


 ルカとサロメが目配せをする。


 四人は同時に動いた。


 ルカとサロメが二方向から襲いかかる。

 リリスとアリスの魔法が続けざまに叩きこまれる。


「無駄だ……」


 だけど、そのすべてが当たらない。

 かすりさえ、しない。


 確かに俺のスキルで守られているから、リリスたちがダメージを負うことはない。

 ただ、ジャックさんの超速の前には四人の攻撃は当たらない。


 互いに決定打を与えられない状況だ。


「自らの意志にかかわらず、完全自動で発動する防御……とはね」


 バネッサさんが俺の側に寄った。


「スキル保持者(ホルダー)が反応や知覚できない攻撃を放っても、すべてを封殺し、絶対にダメージを受けない空間──なるほど、まさに『封絶の世界(エリュシオンゲート)』ね。この空間内であなたを傷つけられる者はいない」


「いえ、少し違います」


 俺は首を振る。


「俺が護ろうとする者──護りたい者すべてに対する攻撃を封殺する空間です」


 そう、これ以上リリスたちに危害を加えることはできない。

 俺が『封絶の世界(エリュシオンゲート)』を展開した範囲内では、もう誰も傷つけさせない。


「お前がすべてを護るというなら……俺はすべてを破壊する……!」


 ジャックさんがどう猛にうなった。


「魔の気配を持つ杖を、それを持つ者を、それを護る者を──すべてを……!」


 全身の甲冑の亀裂から漏れ出る赤光が、さらに輝きを増す。


 ぐるるる……おおおおお……ぉぉぉぉぉぉぉぉ……んっ!


 竜そのものの咆哮が響く。


 無限に強化されていく竜戦士の攻撃が、再開された。


 無数の拳が、蹴りが、牙や爪、尾が──。

 赤い流星のような軌跡を描いて叩きこまれる。


 俺だけじゃなく、リリスたちも含めて、無差別に。

 竜戦士の打撃は黄金の障壁とぶつかり合い、美しいきらめきを周囲に生み出した。


 黄金の空間がなければ、周辺は塵も残さず消滅するのでは、と思わせるほどの膨大な破壊力──。


「壊せない……!?」


「もう、終わりだ。ジャックさん」


 俺は竜戦士を見据えた。


「頼む、止まってくれっ」


 言って、俺はジャックさんに突進する。


 攻撃──ではない。

 正面から羽交い絞めにして、ジャックさんに呼びかける。


 俺に攻撃手段はない。

 声を届けることしかできないから──届け続ける。


「こんなことはもう……終わりにしよう」


「離れろ……俺は……」


 ジャックさんが苦々しい声でうめく。


 ふいに──。

 竜戦士の頭部に輝く紋様が浮かび上がった。


 翼を広げた竜のような意匠。

『支配』の紋様か。


「……見つけたわ、打開策を」


 ふいに、バネッサさんがつぶやいた。


「ハルトさん、跳ぶわよ」


「えっ、跳ぶ?」


「備えて」


 告げて、バネッサさんが呪言を唱えた。


天翼転移(フィオルート)




 一瞬の後、周囲は純白の空間に変わっていた。


 俺の側にはバネッサさんが、そして前方にはジャックさんがいる。


「ここは──」


 もしかして、意識内の世界(インナースペース)……?

 バネッサさんの『移送』の力で俺たち全員が異空間に移動したのか。


「くっ……うう……頭が、割れる……ぐうぅぅぅぅっ……!」


 ジャックさんは両手で頭を抱え、苦悶の声をもらした。

 額に、ふたたび竜のような紋様が浮かんでいる。


「あなたがジャックさんに最大限まで力を使わせたおかげで、はっきりと浮かび上がってきたようね。今その姿を映し出してあげる──」


 バネッサさんが竜戦士の紋様を見据え、人差し指で指し示した。


異相転写(フィオラーグ)


「ぐあ……ぁぁぁっ……!」


 ジャックさんの苦悶の声が一際大きくなった。


 同時に、その背後にすらりとしたシルエットが浮かび上がる。


 流麗な黒髪に、紅玉を思わせる紅の瞳をした美しい少年。

 年齢は俺と同じくらいだろうか。


「君たちは──そうか、護りと移送の力を持つ者、だね」


 少年が俺とバネッサさんを見て薄く笑った。


「現世で相まみえることはなかったけど、僕の名前はレヴィン・エクトール。初めまして、ハルト・リーヴァくん、バネッサ・ミレット公爵夫人」


「……『支配』のスキル保持者(ホルダー)か」


 俺はレヴィンをまっすぐに見据えた。


「ああ、ひどい話だよ。僕の遠大なる野望を、彼はすべて打ち砕いた」


「……お前が、俺の周囲に手を出したからだ」


 肩をすくめるレヴィンを、ジャックさんがにらむ。


「僕は君と仲間になりたかっただけさ」


「仲間? 支配し、されるだけの関係を仲間とは呼ばない」


 竜戦士がうなる。


「俺の大切な者にまで侵食してくる奴は許せん……破壊する……!」


 ジャックさんの拳がレヴィンに叩きつけられた。


 だけど、しょせんは映像。

 超音速の拳は空しくレヴィンの姿を通過する。


「随分攻撃的だね。まあ、いいさ。僕が最後に残した呪いは君を蝕んでいる。せいせいするよ」


 と、支配を司る美少年はほくそ笑んだ。


「どうして、こんなことをする──」


 俺は苛立ちを隠せずに問いかけた。


「彼に支配の呪いを残したことかい? それとも僕が世界のすべてを支配しようしていたこと?」


 レヴィンが俺に向き直る。


「どちらも理由は一つ。本能だよ」


「本能……?」


「それが、僕らの持つ力の意味。他者より恵まれたい。他者に優越したい。他者を貪りたい。他者を支配したい──僕はその本能に従い、神から与えられた力を振るっただけさ。人が誰しも持つ、その本能に従ってね」


 何が、本能だ。

 傲岸に笑う美少年を見て、苦々しい思いが込み上げた。


 今は、ジャックさんと戦っている場合じゃないのに。


 他の区域では、冒険者たちが魔の者との決戦に臨んでいる。

 俺たちも加勢しなきゃいけないのに──。


「僕はただの残留思念。レヴィン・エクトールが最後に残した憎悪、憤怒、無念、そして──絶望」


 レヴィンが凄惨な笑みを浮かべた。


「すべての原因を作ったジャック・ジャーセが破滅するまで、この思念が晴れることは決してない」

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