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絶対にダメージを受けないスキルをもらったので、冒険者として無双してみる  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第17章 封絶の世界

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5 「差し出しなさい」

 轟音が、響く。


 ジャックさんがいきなり真下に拳を叩きつけたのだ。

 床に亀裂が走り、陥没する。


「一体何を──!?」


 訝り、俺はすぐに気づいた。


「まさか、ジャックさん……」


「沈め……!」


 ジャックさんが、床に向かってさらに拳の連打を浴びせる。


 石造りの床は爆裂するように砕け散り、その下の地面が露出する。

 なおも拳の連打は続き、地面をどんどん掘削していく──。


「地の底まで落として生き埋めにする。それでも生きていられるか……?」


 青黒い竜戦士が俺を見据えた。


 ゾッとする。


 俺にはあらゆる攻撃が通じない。

 だけど地面の底に埋められれば、やがて空気が尽きて死ぬだろう。


「さあ、沈め」


「無理だよ、ジャックさん」


 俺は静かに告げた。


 さっきから待っていたのは、このタイミングだ。

 ジャックさんが動きを止め、俺たち以外のものに攻撃の意識を向けた──この一瞬を。




 ──形態変化(アルター)


 ──虚空への封印(ヴォイドシール)




 俺は防御スキルの種類を切り替えた。

 自分たちを囲む防壁を解除し、代わりにジャックさんに『破壊エネルギー無効』のスキルをかける。


 竜戦士の全身が虹色のオーラで覆われた。


「……むっ!?」


 ジャックさんの動きが止まった。


 地面に拳を叩きつけても掘れなくなったのだ。

 対象の破壊力をゼロにするスキル──虚空への封印(ヴォイドシール)


「これでもう、あんたは何も壊せない」


 今まではジャックさんの動きが速すぎて、なかなかこのスキルを仕掛けるタイミングをつかめなかった。

 地面の掘削にジャックさんが意識を向けた一瞬は、俺にとって千載一遇の好機だった。


「なるほど……お前のスキルにはこういう使い方もあるのか」


 ジャックさんがうなる。


「もうやめてくれ、こんなことは」


「俺は……すべてを破壊する……」


 俺の言葉を拒絶するように、竜戦士は全身を震わせた。


 装甲の亀裂からまばゆい赤光がほとばしる。

 破壊衝動の高まりを示すかのように。


「ジャックさんは、前に俺と一緒に戦ってくれた。人を守るために。なのにどうして今、人を傷付けようとする!?」


「俺の中で何かが言っている……すべてを壊せ、滅ぼせと……」


「何を……言って……!?」


 つぶやいたところで、ハッと気づく。


『支配』のスキルを持つというレヴィンが残した呪い。

 セフィリアが治したって言っていたけど、やっぱり解除できていないみたいだ。


 それがジャックさんを蝕み、暴走させている──?


「お前の防御は鉄壁……だけど、いくつかの『使用制限』があるはずだ」


 どう猛な竜の顔が俺を見据えた。


 俺の力を見透かすように。

 どこかに弱点がないかと探るように。


「以前に魔将と戦ったときも、そうだったな……あらゆる場所を完全に防げるわけじゃない……なら、それを打ち破る手立てはあるはずだ……」


「俺たちが戦ってどうするんだよ。目を覚ましてくれ」


「とっくに目覚めている……」


 ジャックさんは重々しい声で告げた。


「……魔の気配を持つ者はすべて滅ぼす……それを邪魔する奴もすべて……」


 一種の洗脳状態なのか。

 レヴィンが残した『支配』はそれだけ強力なのか。


 言葉で、ジャックさんを止めることは不可能なのかもしれない。


 なら、どうする──。




「そこまでよ、二人とも」




 ふいに声が響いた。


 前方の空間に黒い染みのようなものが広がっていく。


 まさか、これは……!?


 そこからにじみ出るように現れる、人影。

 薔薇色の豪奢なドレスをまとった、金髪の美女。


『移送』のスキルを持つ能力者、バネッサ・ミレット──。


「この前の女か……一緒にいたセフィリアという女はどうした?」


 ジャックさんがバネッサさんをにらむ。


「俺のこの落ち着かない感じは……あいつの仕業じゃないのか」


「あたしにとっても予想外だったわ。セフィリアさんのやったことは」


 バネッサさんは気品のある美貌を苦々しく歪めた。


「くだらない気まぐれや遊び心で、あたしの計画を狂わせた──でも、あの子の始末は後でいい。今はあなたを止める」


「邪魔をするなら、お前も破壊するだけだ」


 竜の視線が俺からバネッサさんへと向き直る。


「あなたと正面切って戦うつもりはないわ。あたしの能力は戦闘向きじゃないもの」


 艶然と微笑むバネッサさん。


 一見冷静だけど、その頬にはうっすらと汗がにじんでいた。

 それだけの威圧感を、目の前の竜戦士は放っているんだ。


「ここに来る前に見ていたわ。あなたの目的は魔の気配を持つ者を倒すこと。そして、それは──彼女たち二人のことよね?」


 と、バネッサさんがリリスとアリスを指差す。


「あたしたちが……」


 リリスが唇を噛んだ。


「トリガーはその二人でしょう? ならば差し出しなさい」


「えっ」


 平然と告げた彼女を、俺は呆然と見つめた。


「彼女たちを殺せば、ジャックさんの衝動が収まるかもしれない」


「そ、そんなことできるわけないでしょう!」


 俺は思わず叫んだ。


 ふざけるな。

 胸の奥が煮えたぎるような怒りが込み上げる。


「でなければ、彼は止まらないわよ。あなたのスキルで防ぐことはできても、止めることや、最悪の場合は──殺すこともできないでしょう」


「殺す? 冗談じゃない」


 俺は猛然と反発した。


 バネッサさんはあいかわらず笑みを浮かべたまま。

 だけど、その目は恐ろしく冷たい。


 人の情みたいなものが感じられないんだ。


「俺が、あの人を止めればいいだけだ」


 女神さまから授かった力の、すべてを懸けて。


 必ず──止めてみせる。

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