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第14章 邂逅と予兆

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7 「格が違うみたいね」

「さあ、勝負よ! ラフィール姉妹!」


 エルフたちがリリスとアリスをびしっと指差した。


「勝負って言われても……」


「ですぅ……」


 リリスもアリスも困惑しているみたいだ。

 まあ、それはそうだよな。


「血気盛んでいいじゃないか。冒険者はこうでなくてはな」


 伯爵は鷹揚に笑っていた。


 だけど、その目は冷たい。


 まるで自分の娘の評判などどうでもいいと言わんばかりに。

 あるいは──自分の娘の力を見定めようとでもしているかのように。


 肉親の温かみがまるで感じられないその目に、俺は違和感と嫌悪感を抑えられなかった。


「伯爵の許しも得たということで!」


「いくわよ、ラフィール姉妹!」


「ただいま絶賛売出し中! ランクS昇格間近と話題沸騰!」


「ランクA上位の『二輪の花(フローラルツイン)』! エルフ姉妹のエフィラとラフィラとは、あたしたちのことよ!」


 姉妹が口上とともにポーズをつける。


「ランクSの方々、よろしければ次のクエストでご一緒してください!」


「してください!」


 いちいち自己アピールが過剰だなぁ……。


「いざ尋常に勝負っ」


口叫んで、剣士風のエルフが突進した。


 細剣(レイピア)をまっすぐに突き出す。

 その背後からは魔法使い風のエルフが風の攻撃呪文を放つ。


金色天鋼殻(ヘヴンズシェル)!」


 アリスの生み出した金色の防御フィールドが、相手の剣と魔法をまとめて跳ね返した。


「なっ……防御系の最上級呪文!?」


 驚きの声を上げるエルフ姉妹。


「ならば、これで──精霊召喚(エルガゲート)!」


 と、二人は精霊を召喚した。

 その数は全部で五体。


 いっせいに襲いかかる精霊たちは、しかし、


烈皇雷撃破ライトニングストライク!」


 リリスの放った雷撃によって一瞬で消し飛ばされる。


「雷撃系の最上級呪文──そんな!?」


 呆然と立ち尽くすエルフ姉妹。

 すべての攻撃を瞬時に完封され、思考停止状態なんだろう。


 一方のリリスとアリスは涼しい顔だ。


 相手もランクAとはいえ、リリスたちは格が違う。

 違いすぎる──。


「……ぐぬぬ、格が違うみたいね」


「……うぐぐ、降参よ」


 さすがに実力の違いを悟ったらしく、エルフ姉妹は唇を噛みしめてうなった。


「名を上げるチャンスだったのに……」


「のに……」


 さっきまでの威勢もどこへやら、すごすごと引き上げていく。


「あ、でも気が向いたら、あたしたちをクエストに誘ってくださいね、ランクSの方々!」


 ……最後まで自己アピールは忘れないらしい。

 めげないエルフたちだ。

 と、


「ち、ちょっと君たち、こんなに強かったの!?」


 驚いたようなアリィさんがリリスとアリスの元に駆け寄った。


「なるほど、ランクA相応の──いや、それ以上の力を持っているわけだな」


「確かに強い……! どうやら君らを偏見で見ていたようだ」


 剣士のバルーガさんと魔法使いのフェイルさんが素直に頭を下げる。


「さっきも言ったが、大規模クエストの際には共闘することもあり得る。どうかよろしく頼む」


 二人が声をそろえて告げる。


「いえ、あたしたちはそんな」


「ですぅ。お気になさらずに」


 リリスとアリスは恐縮しているようだ。


「強くて美人で、おまけに実力も兼ね備えているなんて最高ねっ。せっかく知り合えたんだし、これからも仲良くしましょっ」


 はしゃぐアリィさん。


「そ、そんな、美人だなんて……アリィさんこそ」


「ええ、素敵です」


「え、ホント? ふふ、大人の女っぽい感じ、出てるかなー? アレイシアの帝都で流行ってるメイクなの」


 微笑むアリィさんとリリスたちの間で、たちまち女子トークが始まる。

 女性同士ということもあってか、打ち解けているようだ。


「伝説の六魔将と戦ったんだろ? しかも二度も。どんな戦いだったんだよ?」


「公式記録には詳しく書かれてなかったが、噂じゃ二回とも活躍したそうじゃないか。興味深い……俺もぜひ聞きたいな」


 俺は俺で、バルーガさんやフェイルさんに質問攻めだ。


「ふむ、神のご加護を受けているのかもしれんな」


 僧侶らしい台詞をつぶやくレットさん。


 まあ、実際に神の加護を受けているといえば、いえる……のかな?

 ともあれ、俺たちはそれぞれ友好的な雰囲気で歓談を続ける。


「盛り上がっているようだね。君を呼んでよかったよ、ハルトくん」


 ラフィール伯爵が嬉しそうに笑った。


「彼はいずれランクSまで上がる人材だろう。アリスもリリスも支えてやってくれ。頼むぞ」


「はい、お父様」


 二人はどこか硬い口調でうなずいた。


「では──すまないが、少しハルトくんをお借りしてもいいかな?」


 伯爵の笑みが深まった。


 一見、友好的な笑顔だけど──何か違う。

 背筋がゾクリとするような雰囲気があった。


 一瞬だけど、俺は見たんだ。


 友好的な笑みを浮かべる前に見せた──口の端を歪めるような、含みのある笑みを。


 いかにも何かを企んでいそうな、目の光を。

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