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絶対にダメージを受けないスキルをもらったので、冒険者として無双してみる  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第14章 邂逅と予兆

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3 「神と魔と、人の大戦の」

 いよいよ、始まるのか──。


 エレクトラは地下室への道を歩きながら、内心でつぶやいた。


 神のスキルを持つ者が三人。

 そして冒険者を統べるギルド長と、アドニス王国の実力者。


「『実験』が上手くいけば、我らの計画を次の段階に進められるわけだな」


「かつて、神話の時代に繰り広げられたという神と魔の大戦……その再現かねぇ」


 ラフィールの言葉にテオドラが笑う。


 二人に神のスキルのことを直接話すことは禁じられている。

 話そうとすれば体に激痛が走るのだ。


 あるいは──試したことはないが──死ぬことになるかもしれない。


 スキル保持者(ホルダー)たちに課せられた制約だった。


 だが察しのいい二人は、すでに大半のことは分かっているのだろう。

 太古の遺跡や古文書などから、自分たちの知らない情報まで集めているかもしれない。


 だから、神のスキルのことを直接話せなくても、計画を進めるのに大した支障はなかった。


「いいえ、今度は少し違いますわ」


 バネッサが微笑みを返した。

 気品と色香を兼ね備えた、艶やかな笑顔。


「神と魔と、人の大戦の──第一歩です」


 その下準備として、アドニス王国を起点に『ある実験』をする──。

 今日、彼らが集まったのはそのためだった。


「ここだね」


 テオドラが扉を開く。


 冒険者ギルド本部の地下最深部──。

 そこは巨大な石室になっていた。


 壁には七つの宝玉がはめこまれている。

 そのうちの五つは明滅し、二つは輝きを失っていた。


「……なるほど、スキル保持者(ホルダー)の状態を表わしているのね」


 つぶやくバネッサ。


 集めた情報によると、七人のスキル保持者(ホルダー)のうち、『殺戮』と『支配』の力を持つ者はそれぞれ他の保持者(ホルダー)と戦い、死んだようだ。


 残っているのは、エレクトラを含めて五人──。


「ねーねー、あの石綺麗だね。チカチカして」


 無邪気にたずねたのは、セフィリアだった。

 にっこりと笑いながら、こちらに近づき、


「おねーさんもそう思わない? えいっ」


 むに、むに、とエレクトラの胸元を両手で揉んでくる。


「……ナチュラルにわたしの胸を揉みしだくのはやめてくれないか、セフィリア」


 憮然と彼女をにらむエレクトラ。


「えー、けちー」


「隙あらば触ってくるな、君は……」


「スキンシップだってば、えへへへ」


 笑うセフィリア。


 今一つ、真意の読めない笑顔だった。

 一見して人畜無害に思える。


 だが、その目にはなぜか底知れない闇が潜んでいる気がするのだ。


 何度か予知をしたものの、セフィリアについて多くを知ることはできなかった。


 予知の精度の問題もあるが、もしかしたら神のスキル保持者(ホルダー)に対しては、予知の効力が薄いのかもしれない。


 どちらにせよ、警戒は必要だ。

 セフィリアに対してだけでなく、バネッサに対しても。


 そしてもちろん、残り二人の能力者に対しても──。


「仲良くじゃれ合うのもいいけど、そろそろ始めましょうか」


「別にじゃれ合ってない」


「いいよー」


 ますます憮然とするエレクトラと、朗らかに答えるセフィリア。


「あたしがまず異相空間を出すわ。この術はかなり不安定で崩れやすいので、セフィリアさんは修復や補強をお願い。最初は小規模なものから始めましょうか」


「んー、小難しくいお話はセフィリアよくわかんなーい」


「……あたしが今から出すものを『直し』てくれればいいのよ。後は逐一、指示させてもらうから」


「んー、まだよくわかんないけど、わかったー」


 気楽にうなずくセフィリア。


 ──そして二人のスキルによる『実験』が始まった。

 エレクトラは、この段階では手伝えることがないため、ただ見守るだけだ。


(上手くいくのだろうか。この計画は)


 自問する。


 胸騒ぎが大きくなった。

 不吉な予感が、このところひっきりなしにやってくる。


(わたしの未来は明るいのだろうか。それとも)


 最近は、以前にもまして未来の映像がはっきり見えるようになった。


 もともとエレクトラの予知には二つの種類がある。


 運命の女神(マニューバ・フ)の鐘が鳴る(ォーチュンベル)

 これは、数秒から数日程度の近い未来を見通し、かなりの精度でその情報を知ることができる。


 運命の女神は(マニューバ・ナイ)虚無を夢見る(トメアヴィジョン)

 こちらは、数か月から数年後の未来まで見通せる代わりに、精度は低い。

 見えるのは、基本的に断片的な映像か、あるいはイメージのみ。


 エレクトラが自身の破滅らしきものを予知したのは、後者によるものだ。

 だから、正確にどんな状況で、誰によって彼女が滅ぼされるのかは分からない。


 しかも、その映像が微妙に変化を始めている。


(未来が変わり始めている……? ではこれから先、何が起こるのだ……?)


 エレクトラは自問を続けた。


 もともと未来というのは不確定なものである。

 彼女自身、予知した未来をもとに行動し、その未来を変えてしまうこともある。


 実際、能力に目覚めたときも自身が騙され、ひどい目に遭わされる運命を改変して難を逃れたのだ。


 だが──嫌な予感は消えない。

 予知ではなく、ただの予感だ。


「わたしは……わたしの破滅を逃れるために、世界そのものを危機に陥れようとしている……?」


 気にならないわけではない。

 多くの人間が犠牲になるのは、やはり心が痛む。


 しかし、自身の命には代えられない。


 エレクトラにあるのは強烈な生存欲求だ。


 たとえどれだけの犠牲を払おうとも、わたしは絶対に生き残ってみせる。

 生き延びてみせる──。

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