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第13章 死神の刃、巨人の鉄槌

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2 「シンプルでいい」

「また会ったな……ハルト」


 青黒い甲冑を思わせる外殻。

 狼を思わせる仮面。

 腰から伸びた長大な尾。


「ジャックさん……!?」


 突然現れた獣騎士に、俺は驚きの声を上げた。


 以前、王都を襲った六魔将ディアルヴァを相手に共闘した、神のスキル保持者(ホルダー)だ。


 あらゆるものを『強化』できる能力者──。

 その力を攻撃に転化すれば、圧倒的な破壊力を発揮することができる。


 これ以上ないほど頼もしい味方だった。


「どうしてここに……?」


「気配を感じたんだ。だから、来た」


 ジャックさんの返答はシンプルだった。


「奴らを倒す……殺す……そのために」


 ……ん?


 俺はわずかな違和感を覚えた。


 ジャックさんの雰囲気が、以前とは微妙に違う。


 獣騎士の姿は一見凶悪だけど、ジャックさんの人柄なのか、どこか温かい雰囲気があったはずだ。

 なのに今は、異様なほど禍々しく見える。


 まるで、俺の前にいる魔将たち以上に──。


「どうかしたか、ハルト?」


 ジャックさんが怪訝そうにたずねた。


 狼の赤い双眸には、柔らかな光が浮かんでいる。

 禍々しい気配がいつのまにか消えていた。


 ……気のせいだったのかな。


「なんでもありません」


 俺は首を左右に振った。


「あいつらも王都を狙ってきたのか?」


 たずねるジャックさん。


「いえ、どうやら神の力を持つ者を倒しに来たみたいです」


「……つまり俺やお前の敵、か」


 ジャックさんがどう猛に吠える。


「だったら──滅ぼすしかないな」


「っ……!」


 また、さっきの禍々しい気配がにじみ出した。

 思わず息が詰まるほどのプレッシャー。


 ……やっぱり様子が変だ。

 だけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


 ジャックさんは味方なんだ。

 連携して、どうにかこの状況を乗り越えないと。


 俺はあらためて魔将たちと向かい合う。


「どうする、ハルト?」


「前にディアルヴァと戦ったときと同じで、ジャックさんが攻撃。俺が防御とそのサポート──それがベストの布陣だと思います」


 ジャックさんの問いに、俺は答えた。


「だな。シンプルでいい」


 うなずくジャックさん。


「君も神の力を持つ者か──だが、そこの少年のような絶対的な防御力はあるまい」


 ビクティムが静かに俺たちを見下ろす。


「潰れて消えよ、矮小な人間たちよ──鉄槌の拳撃(ハンマーブラスト)


 巨大な岩の拳を振り下ろした。

 緑の燐光をまとった拳が、大気を粉砕しながら迫る。


 俺はジャックさんをスキルで守ろうとするが──、


「問題ない」


 言って、獣騎士は無造作に拳を振り上げた。


 巨人とジャックさんの拳がぶつかり合う。

 がいんっ、と金属同士がぶつかるような重厚な音が響く。


「むうっ……!?」


 二十メティルを超えるビクティムの巨体が揺らいだ。

 ジャックさんと拳をぶつけ合い、パワー負けしたのだ。


 これだけの体格差があってなお、膂力で勝る──『強化』の力は圧倒的だった。




 一方で、リリスたちは──。


「メリエルさん、やめてください!」


「ねえ、嘘だって言ってよ!」


「……この期に及んで、本当に甘いですわね」


 悲痛なアリスとリリスに、メリエルは苦々しい表情を浮かべている。


「そういうのウザいんですけどぉ」


 ザレアがへらへらと笑いながら、無数の鎌を放った。


「とりあえず殺してもいいですか~? ふひひひ」


 だけど、無駄だ。


 俺が張った防御スキルの前では──。


天翼転移(フィオルート)


 つぶやいたのは、ビクティムだった。


 こいつ、魔法も使うのか!?


「えっ……!?」


 リリスとアリスの驚きの声。

 同時に、二人の姿が消えた。


「違う、これは──」


 瞬間移動の魔法か!?

 以前に戦った魔族『空間食らい(Dイーター)』と同系統の術だろう。


 一瞬にして転移させられた二人は、俺の防御スキルの範囲外に出てしまう。

 そこへ、


「ナイスアシストです、ビクティム。ほら、死んで~」


 ザレアが鎌の群れを放った。

 魔将をも切り裂く鎌が数百単位で二人を襲う。


 くっ、間に合うか──。


 俺は虹色の光球を生み出し、リリスとアリスの元へと飛ばす。


 が、それよりも一瞬早く。


「がっ……!」


 鮮血が、散った。


 青い鮮血が。


「えっ……?」


 リリスとアリスの、そして俺の──呆けたような声。


 二人をかばうように立ちはだかる人影があった。


「さっさと……逃げて、くださ……い……」


 無数の鎌に切り裂かれ、倒れたのは──。


 メリエルだ。


 どうして、彼女が二人をかばったんだ──。

 俺は驚いて魔将の少女を見つめた。


「はあ、はあ、はあ……」


 そのメリエルは、黒いドレスを青い血に染めながら立っている。

 斜めに切り裂かれた衣装から白い肌が露出していた。


「メリエルさん!?」


「メリエル!」


 アリスとリリスの悲痛な声に、


「心配は……いりませんわ」


 答えたメリエルの頭上で一本の杖が明滅する。


 何かの魔法を使ったのか、衣装も肌もすぐに元通りに戻った。


 とはいえ、ダメージまで元通りというわけではないらしい。

 メリエルは苦しげな表情のままだ。


 足元には青い血だまりができていた。

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