表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対にダメージを受けないスキルをもらったので、冒険者として無双してみる  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第13章 死神の刃、巨人の鉄槌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/224

1 「戦いたいのか?」

 窓から差しこむ朝日が目にまぶしい。


 隣には、静かな寝息を立てて眠るハンナの姿があった。


 ジャックが働く運送会社の事務員を務める二十代半ばの女性だ。

 最近は同僚から恋仲と呼べる関係にまで進展していた。


「ん……」


 かすかな吐息とともに、ハンナが身を起こした。


「あ、もう。寝顔を見てたんですか」


 照れたようにはにかむ彼女に愛おしさを覚えた。

 四十三年間の人生でこんな感情を覚えるのは初めてのことだ。


「悪い、つい……」


 照れてしまい、ジャックは言葉が上手く出てこない。


「これからも……その、よろしくな」


「なんですか、今さら。他人行儀です」


 ハンナがくすりと微笑む。

 その笑顔は、窓からの陽光に照らされていつも以上に美しく見えた。


 垂れ目がちで垢抜けない顔は、他人から見れば人並みの容姿かもしれない。

 だがジャックにとって、彼女は世界一の美女だった。


「こちらこそ、よろしくお願いしますね」


 ハンナは嬉しそうに言って、ジャックに顔を寄せた。


 軽く唇が触れあう。


 ずっとこんな時間が続けばいいのに、と思う。


 平和で、穏やかで。

 幸せで、温かくて。


 ──先日のレヴィンとの戦いから、すでに一週間以上が過ぎていた。


 彼の元まで行く際に、ジャックは大勢の兵士を薙ぎ倒した。

 さらにランクS冒険者四人をも打ち倒したため、かなりの騒ぎになっているようだ。


 ジャックはあの後、すぐに逃げ出したため、それが彼の仕業だと感づいている者は今のところいない。

 今のところは──。


 レヴィンやミランダを手にかけたことは、今でも心に重くのしかかっている。

 多くの人間の意志を奪い、支配する──彼らがやってきた非道を考えれば、あるいは自業自得なのかもしれない。


 それでもジャックが人を殺したことは事実だ。

 割り切れない感情のわだかまりは残っていた。


 だからこそ、ハンナとの温もりが心を癒してくれる。


 ──と、そのときだった。




 ぞくり、と。


「っ……!?」


 全身が総毛立つような感覚が走り抜けた。




「これ……は……!?」


 どこかに禍々しい気配が生じたのを感じる。


『強化』の力を持つジャックだからこそ感じ取れる、微弱な──ごく微弱な気配。


 何かが、いる。

 遠く離れた場所に。


 嫌な気配を放つ、何かが。

 放ってはおけない、何かが。


 ──どく……んっ!


 異様なほどに心音が高まった。


 不思議な感覚だった。


 闘争心が爆発的に燃え上がるような。

 胸の中で炎が燃え盛り、弾けそうな。


「……行かないと」


 半ば無意識につぶやく。

 ベッドから降りて、衣服を身に付け始めた。


「ジャックさん……?」


 ハンナがこちらを怪訝そうに見る。


「……悪い。ちょっと行く場所ができた」


 ジャックは決まり悪げに顔を伏せた。


 せっかく彼女と初めて迎えた朝だというのに。

 そう思いつつも、一方では『行かなければ』という衝動が耐えがたいまでに湧き上がっていた。


 なぜ行かなければならないのかは分からない。


 それでも──。




 ジャックは強化した脚力で王都を走り抜けた。


 禍々しい気配が漂ってくるのは、王都の外れに広がる荒野だ。


 王都から出て、しばらく進んだところで、ジャックは立ち止まった。


「……ここか」


 前方には何もない。


 だが、いる。

 何かがいるのを感じる。


 今、はっきりと分かった。

 ここに来なければならないという不思議な衝動は、ここにいる何かと対峙するためだったのだ、と。


「『黒幻操界(フィオレーガ)』だな」


 突然、心の中で声が響いた。


 荘厳な雰囲気を備えた男の声。

 ジャックに力を授けた戦神──ヴィム・フォルスだ。


「なんだ、それは?」


天翼の女神(ガ・ゼガリア・フィオ)が編み出した異空間を操作する術式だ。それを応用して魔族が特殊空間を作り出したんだろう」


 ヴィム・フォルスが応える。


「この気配はやっぱり魔族か」


 ぎりっと奥歯を噛みしめる。


 ふつふつと湧いてくる闘争心が体を燃やす。

 自分でも不思議なほど気持ちが高ぶっていた。


「中にいるんだな?」


「なんだ、戦いたいのか?」


 戦神が意外そうな様子でたずね返した。


「放っておけば、人に危害を加えるかもしれない」


 ハンナにも危険が及ぶかも知れない。


 内心でつぶやき、ジャックは大きく深呼吸をした。


 全身を強化するイメージ。

 皮膚を鋼に。

 四肢に力を。


 獣のごときしなやかさを。

 獣のごとき強靭さを。

 獣のごとき闘争心を。


 念じるとともに、ジャックの姿が変わっていく。


 狼の仮面をつけた騎士。

 青黒い獣騎士へと。


獣騎士形態(コードビースト)か。ふん、いつの間にか随分と好戦的になったものだ」


 ヴィム・フォルスが笑う。


「先日のあの少年の影響か……いずれ、さらなる段階へ……」


 つぶやいた言葉の意味は、ジャックには分からなかった。


 ただ、特殊空間にいる魔族に対しては強烈な敵意を感じていた。


 自分の大切なものを、決して傷付けさせはしない。

 その可能性があるものは、絶対に排除する。


「──砕けろっ」


 燃えるような闘志とともに、ジャックは前方に拳を叩きつける。

 強化の力を全開にした拳打を。


 重厚な金属同士がぶつかったような轟音が響く。

 何もない空間に亀裂が走る。


 そして、破砕音ともに前方の景色が揺らぎ、砕けた。


 ジャックはその向こう側に足を踏み入れた。


「これは──」


 先ほどまでの荒野が、薄青いモヤに包まれた平野に変わっている。


 前方には全長二十メティルを超える巨人と、黒ずくめの少年が。

 中空にはゴスロリドレスをまとい、翼を備えた少女が。


 そして、それと相対している三つの人影がある。


 見覚えのある少年と少女たちだった。

 そう、以前に王都を襲った魔将ディアルヴァと戦ったときに──。


「また会ったな……ハルト」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して

★★★★★にしていただけると作者への応援となります!


執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!




▼こちらの新作もよろしくです!▼



▼新作です! こちらもよろしくです~!▼
「攻撃されたら俺の勝ち!」悪役転生特典でスキルポイント9999を【カウンター】に極振り→あらゆる攻撃を跳ね返すチートスキルに超進化したので、反射無双します。

冴えないおっさん、雑魚ジョブ【荷物持ち】からEXジョブ【上位存在】に覚醒して最強になる。神も魔王も俺には逆らえない。俺を追放した美少女勇者パーティも土下座して謝ってきた。




▼書籍版全3巻発売中です! 画像をクリックすると紹介ページに飛べます!▼

5z61fbre6pmc14799ub49gi9abtx_112e_1d1_1xp_n464.jpg 97vvkze3cpsah98pb0fociarjk3q_48b_go_np_cmbv hkcbaxyk25ln7ijwcxc7e95vli4e_1e1o_1d0_1xq_rlkw

漫画版全3巻発売中です! 画像クリックで公式ページに飛びます。
8jyvem3h3hraippl7arljgsoic6m_15xf_qm_bx_d8k6
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ