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絶対にダメージを受けないスキルをもらったので、冒険者として無双してみる  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第11章 古竜の神殿

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9 「私たちも、あなたの側で」

 唇には、まだ柔らかくて蕩けるような感触が残っていた。


 もう少しサロメとのキスの余韻に浸りたいところだけど、今はそうも言っていられない。

 目の前には、最強の代名詞たる黄金の古竜がいるんだから。


「いくぞ、少年」


「……ああ」


 ──俺とグリード本体(オリジナル)との戦いは、そんな短いやり取りから再開された。


 七つの口から放たれるブレスが周囲を色とりどりの爆光に染める。

 俺は、異空間で分身体と戦ったときみたいに反響万華鏡カレイドスコープシフトでブレスを撃ち返す戦法を取った。


 だけど、今度はさっきのようにはいかなかった。


 何十発もの反射ブレスを受けてなお、グリードはビクともしない。

 多少のダメージは受けているんだろうけど、まったく気にせずに次々と攻撃を仕掛けてくるのだ。


 周囲の壁や天井があっという間に爆砕し、無数の瓦礫が降ってくる。

 防御スキルを張っていなければ、俺も、ルカやサロメも、とっくに押し潰されて死んでいるだろう。


 なおもグリードがブレスを放ち、俺はそれを弾く──そんな攻防が繰り返された。


 七種のブレスが撃たれるたびに、撃ち返す。

 反射したブレスが周囲を薙ぎ払う。


「どれだけでも跳ね返してみろ! いずれお前の防御に隙ができるそのときまで──俺は撃ち続けるだけだ。千でも、万でも、億でもな!」


 いくら傷を受けても──いや、受けるほどに闘志を燃やしブレスを乱れ撃ちしてくる古竜。


「攻撃を反射させて、あいつを倒すのは無理か……」


 だけど、守り一辺倒でどうにかなるのか。


 グリードは本来、この世界では戦えないと言っていた。

 今、こうして俺と戦っているのは、新月にだけ使える竜魔法(ドラゴンズロア)の力だ、と。


 なら、時間を稼げば効果が切れるんだろうか。

 いや、その前にまた二人を転移させられたら防ぎきれない。


 さっきの異空間での攻防で、俺は複数のスキルを操るすべを身に付けた。

 だけど、あくまでも一つ一つ順番に発動しているだけだ。

『同時に』複数のスキルを出すことはできない。


 そのタイムラグをなんとかしないかぎり、グリードに対抗することは難しいだろう。


「……どうするかな」


 俺はうめいた。


 奴に俺たちの力を示し、敗北を認めさせる──。


 戦いを終わらせるには、たぶんそれしかない。


 仮に降参したところで納得するような雰囲気じゃなかった。

 下手をすれば、文字通りの逆鱗に触れて二人を殺されるかもしれない。


 そう思わせるだけの闘志を、グリードは放っていた。


「力を、示すんだ」


 俺は覚悟を決める。


「屈服させてみせる、あいつを──」


「ならば、私たちも」


 俺の隣にルカが並んだ。

 さらに反対側ではサロメが微笑んでいる。


「そうそう、ハルトくん一人で気負い過ぎ」


「ハルトが私たちを守ってくれる──その気持ちは嬉しい」


 ルカが剣を構える。


「だけど一人だけで抱えこまないでほしい。私たちも、あなたの側で」


 と、穏やかな笑みを浮かべて俺を見つめた。


「あなたを守らせてほしい」


「そうそう、ボクたちだってハルトくんのこと、大切に想ってるんだからねっ」


 サロメがナイフを抜き放つ。


「……じゃなきゃ、大切なファーストキスをあげるわけないでしょ」


 俺を見て、照れくさそうにつぶやいた。


 ──そうだな、二人とも。

 気負い、張り詰めていた気持ちが不思議なくらいに軽くなっていくのを感じる。


 俺たちは作戦会議に入った。


「ハルトくんの防御魔法って何カ所も守れるんだよね? じゃあ全員を防御してもらって、ボクとルカでグリードに攻撃すればどうかな?」


「けど、さっきグリードのドラゴンブレスをそのまま跳ね返したけどビクともしなかったぞ。あいつに生半可な攻撃は通じない──」


 言いかけたとき、俺はあることに気づいた。


 俺はいつでも防御スキルを飛ばせるように、周囲に七つの光球を浮かべている。

 それらが不思議な明滅を繰り返しているのだ。


 ん? 待てよ──。


 ふいに、閃いたことがあった。


 理屈じゃなく、感覚で分かる。

 これなら、あるいは古竜に通じるかもしれない──。


 少なくとも、他に有効な手段がないなら試してみる価値はある。


「どうかしたの、ハルト?」


 ルカが怪訝そうにたずねた。


 俺は二人に顔を寄せ、さっき思いついたことを告げた。




 ──そして、数分後。


「作戦会議は終わったのか?」


 グリードが俺たちを見下ろす。


 どうやら、わざと攻撃せずにこっちの打ち合わせが終わるまで待ってくれたらしい。


 余裕か、それとも俺たちを侮っているのか。

 いや、純粋に戦いを楽しもうとしているんだろう。


「ああ、お前を打ち倒すための、な」


 うなずき、俺は後方に下がった。


 ルカが一番前に、その斜め後ろにサロメが構える。


「まず私が仕掛けるわ。サロメは隙を狙って。ハルトはその間に『準備』を」


「……無理するなよ」


 さっき打ち合わせたこととはいえ、やっぱり心配だ。


「相手は最強の竜種だ。いくらルカでも正面から立ち向かうのは──」


「大丈夫」


 振り返ったルカが微笑んだ。


「できたのは一度だけ。上手く使えるかは分からないけれど」


 ルカが長剣を構える。


「あなたの力を──もう一つの形を、解き放って」


 自らの剣にそう呼びかける。

 ガシャンと音を立てて、長剣が分割された。


「あれは──」


 戦神竜覇剣(フォルスグリード)が双剣モードに変形できることを俺は知っている。


 だけど、今回の変形は違った。

 分割した刃が組み合わさり、より幅広の刀身へと変わる。


 その剣は、長剣というよりも大剣のような形状になっていた。


戦神竜覇剣(フォルスグリード)炎刃剛滅形態(ブレイジングフォーム)──」


 赤い燐光を発する大剣をだらりと下げて、ルカが告げる。


「気を付けろよ、ルカ」


「大丈夫。あなたにあなたの戦う理由があるように、私にも私の理由があるから」


 ルカが一歩前に出る。


「だから、私は──私自身の戦いをするだけ」


 笑っていた。


 こんな大ピンチなのに。

 絶体絶命といってもいい状況なのに。


 無邪気に。

 楽しそうに。


 戦いに生き、戦場でこそ生の充実を感じられる──。


 そんな、笑顔。


戦神(ヴィム・フォルス)の力を使う気か。先ほど異空間で戦ったときのように──いいだろう、使いこなしてみせろ、ルカ!」


「ええ、あなたに教わった力で──あなたを退ける」


 ルカは地を蹴り、赤光をまとった剣を振り回す。

 刀身が発する衝撃波がドラゴンブレスを弾き、散らす。


「ほう、大したパワーだ。先ほどよりもさらに──」


 グリードがうなった。


「だが、どこまで凌げるかな」


 七つの頭が次々とブレスを放つ。


 さすがに手数が多い。


 ルカは『因子』を全開にして超速で動き回っているけど、それでも避けきれない。


 たぶん以前の形態ほどスピードがないんだろう。

 あの形態の剣を使うルカは、残像を生むほどの速度で動いていたから。


 ただスピードが減った分、別の何かが強化されているはずだ。


 それはおそらく──攻撃の威力。

 ドラゴンブレスを弾き散らすほどの強烈な斬撃。


 ルカは避けられるだけ避けつつ、避けられない分は大剣で弾き、少しずつグリードに近づいていく。


 必殺の、間合いへと。


「俺の懐まで入ったか──やるな!」


「もっと速く──いえ」


 ルカが唇を噛みしめてうめく。


 動きが徐々に鈍ってきた。


 もともと『因子』によって運動能力を引き上げるのは時間制限がある。

 人を越えた力に、人の体は長く耐えられない。


 その限界が近いんだろう。


 苦しげなルカは、それでもさらに古竜へと近づき、


「お願い、戦神竜覇剣(フォルスグリード)。もっと──強く。そして、重く!」


 振りかぶった剣がひときわまぶしい赤光を放った。


「これは!? 先ほどとは違う──」


 古竜の、驚愕の声。


「絶技、戦天殺(フォルスブレイク)!」


 ルカの放った赤い斬撃が、グリードの体を深々と切り裂いた。

明日の更新はお休みです。

明後日の朝7時から第10話を投稿します。

その翌日投稿分の第11話でこの章は終わりです<(_ _)>

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