第二十六話 「復縁」
正式な婚約発表を終わらせた後。
私たちは純粋に祝賀会を楽しんだ。
豪勢な食事と上流階級の人たちとの交流。
婚約発表に対する祝福の言葉と、開拓作戦の成功を賞賛する声も直接もらうことができた。
楽しくてそれでいて有意義な時間を過ごすことができて、改めてこの祝賀会に来てよかったと思った。
それからあっという間に時間は過ぎていき、祝賀会も終了の時刻が迫ってくる。
観客たちもまばらに帰り始めていて、私たちもタイミングを見て王宮の方へ戻ろうということになった。
そんな時……
「あっ、ローズマリー様」
「……?」
不意に見知らぬ男性に声を掛けられる。
燕尾服に身を包んだ淡黄色の髪の青年。
見覚えのない人だったので、私はつい眉を寄せてしまう。
どうして声を掛けられたのか疑問に思っていると、青年は心配するような顔で言った。
「先ほど手巾を落としませんでしたか?」
「えっ?」
「レースをあしらった青色のものが、休憩室の方へ届けられていました。あなたがそれと似ている手巾を先ほど使っていましたので、一応声を掛けておこうと」
言われて懐を確かめてみる。
すると確かに持っていたはずの手巾が無くなっていた。
「ありがとうございます。たぶんそれ私のです」
「そうですか。お伝えしておいてよかったです」
青年はそう言うと、「それでは失礼いたします」と続けて立ち去っていった。
そして今の会話を横で聞いていたディルが、親切に言ってくれる。
「取りに行っておいでよ。僕はここで帰っていくお客たちに挨拶をしておくから。それでローズマリーが戻ってきたら王宮へ帰ろう」
「うん、わかった」
私は青年が言っていた通り、王宮劇場の休憩室へ向かった。
劇場には控え室があり、パーティー時はそこが休憩室の代わりとして開放されている。
しかし祝賀会の終わり際ということで廊下には人がおらず、休憩室からも人気はまるで感じない。
中に入ってみると、すでに灯りも消されていて、窓から差す月明かりだけが卓上にある私の手巾を照らしていた。
手巾が自分の持ち物であることを確かめると、それを取って会場の方へ戻ろうとする。
けれど、手巾に手を伸ばそうとした寸前……
「久しいな、ローズマリー」
「えっ?」
不意に後ろから声を掛けられた。
先ほど青年に話しかけられた時以上に、私は驚愕しながら振り返る。
なぜならその声に、強烈な聞き覚えがあったから。
聞いた覚えがあって、何より聞きたくなかった声……
「マーシュ、様……?」
休憩室の扉を背に立っていたのは、青髪と翠玉色の瞳が特徴的な長身の男性。
私の元婚約者の、マーシュ・ウィザーだった。
思わぬ人物が目の前に現れて、私は呆然と立ち尽くす。
彼はいつも以上に豪勢なフロックコートに身を包み、多くの装飾品を着けて着飾っていた。
どうして彼がここにいるのか。そして私の前に姿を現したのか。
それらの疑問を解消するべく、私は声を震わせながらも問いかける。
「祝賀会に、参加していたのですか?」
「あぁ、父の伝手で招待状をもらってな」
マーシュ様は懐から一通の封筒を取り出す。
それをすぐに仕舞うと、彼は私の頭から足先まで視線を動かして、唐突に微笑んだ。
「そのドレス、とても似合っているじゃないか。まるで見違えたよ」
「…………」
耳を疑う言葉を聞かされて絶句する。
マーシュ様の口から出たとは思えない台詞だった。
今までそんなこと、ただの一度も言ってくれたことがないのに。
彼のこんな微笑みを見たのもこれが初めてだし、この人はいったいここに何をしに来たんだろう。
「……なんのご用でしょうか?」
募るばかりの警戒心を表に出すように、顔をしかめながら再び問いかける。
明らかに私に対して用事があるように、この休憩室に入ってきた。
これで警戒するなと言う方が無理である。
するとマーシュ様は、優しげな微笑みをそのままに、信じがたいことを告げてきた。
「ローズマリー……俺たち、やり直さないか?」
「はっ?」




