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【なろう限定版】三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! ~幼な妻のたった一度の反撃~  作者: 紫月 由良
終幕後02 伯爵夫人ブリトニーの流儀

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01. 夫の浮気騒動とやっかいな幼馴染

主人公:ブリトニー=エレンディア

伯爵夫人であり、番外編中の年齢は十九歳。

婚家であるエレンディア家は領地で宝飾品の工房と、数軒の宝石店を所有している。

気が強く、この時代に珍しい夫を尻に引く妻。

しかし実際は夫にべた惚れしていて、二人の時はよく甘えている。


注)家名をオルコットからエレンディアに変更しました

「旦那様、一体これはどういうことでしょう?」


 バタンと大きな音を立てて無理やり扉を開けたのも、大声を上げたのも伯爵夫人としては失格かもしれない。


 だがブリトニーは一切気にせず、服をはだけさせて寝台で女と密着している夫を見下ろした。


「いや…これはだな」


「あら、夫に飽きられた女が、何をいきり立っているのかしら?」


 しどろもどろな夫とは裏腹に、余裕たっぷりの女が喧嘩を売ってくる。


「いつもそんな風に夫を締め付けているから、他所に潤いをもとめているのじゃあないかしら?」


「その潤いは、妻をダシにしなければ近寄る気も起きない泥水ですけれどね」


「……何をっ!」


「知っていますのよ? 私が疲れて休んでいると、こちらの家の使用人に銀貨を掴ませて頼んだことくらい」


 女はブリトニーが独身時代から不仲で有名な女だ。名をメリーアと言う。実家の領地の隣に位置する伯爵家の出身だ。同じ高位貴族とはいえ、港を有するブリトニーの実家とは違い、街道から外れた領地は貧乏で、爵位に見合う体面を取り繕うのがやっとのこと、贅沢などできない家庭だった。


 そのせいで子供時代からやけに敵視されてきた。


 成人になるのとほぼ同時に領地が隣のエレンディア伯爵家の嫡男に嫁ぎ、メリーアも同じように実家に隣接する領地を持つウィーティス子爵家の嫡男に嫁いだ。


 ブリトニーの一人目の婚約者が商人上がりの男爵だったことから、自身の勝ちを確信して一足先に嫁いだというのに、蓋を開ければ婚約者はいつの間にか伯爵家の嫡男に替わっていたのが、メリーアにはどうしても許せなかった。


 どこまでいってもブリトニーの方が上を行くことに我慢がならず、どうにかして鼻を明かしてやりたいと思ってコトに挑んだのだろう。


 既成事実を作れば勝てたと思ったのだろうが、浅はかなことだった。


 だが怒らせるだけで、妬心を煽ることにはならず、みじめな思いをするだけの結果だった。


 ブリトニーは新婚時代から何かと夫を誘惑する幼馴染に、いい加減我慢がならなかった。


「いつまでたってもあなたと言う人は、私の物を欲しがってばかりね。そんなに羨ましいのかしら?」


 この機会に二度と立ち向かえないようにしてやろうかしらという気持ちが湧き上がっていた。


 物心ついたころからの付き合いではあるが、決して友人ではないメリーア。


 鬱陶しいことこの上ない存在だ。


「アーサー、私が夜会で気分が悪くなるような女じゃないって知っているでしょう?」


「ああ、だから余程のことだと思って慌ててしまって……。すまない」


「主催者の使用人からだったから、つい騙されてしまったのね?」


「迂闊だった」


「ウィーティス子爵夫人のお知り合いだったら、絶対についていかなかったのね?」


「勿論だとも!」


「だそうよ、メリーア。あなたなんかに近寄る価値はないの。私が待っていると思わなければ部屋に来ることはなかったわ。判ったのなら下がりなさいな、これ以上みじめな思いをしたくなければね」


 勝ち誇った顔で言ってやれば、ブリトニーの幼馴染は悔しそうに顔を歪ませた。



「全く、あなたときたら……。何か言われたら、次からは部屋の場所だけ聞いて、その次に私を会場で探してくださいな。もしみつからなければ、私の友人に尋ねてください」


「ごめん、僕は君の足を引っ張ってばかりだ」


 気弱な夫は、妻の尻に敷かれた軟弱者と評判だ。


「でも私を心配してくれたことは嬉しいわ。きっとアーサー以外は私が倒れたと言っても一笑に付して、誰も信用しないと思うわ」


「そんなことはない。君は女性にしては体力があるけれど、それでも守られるべき存在だよ」


「嬉しいわ。私の騎士はあなただけね」


 実際、弱みを見せたくないブリトニーは、何があっても強気で堂々としている。それが祟ってつらいことがあったときに誰にも甘えることができなかった。


 例えそれが母の葬儀のときであっても。


 必死で涙を堪えていたブリトニーを慰め、胸を貸したのはアーサー以外、誰もいなかった。実の父や兄でさえ彼女の張り裂けそうな胸の内に気づかなかったのだ。


「でも浮気をされた妻としては、言葉だけでなく誠意を見せてもらいたいわ」


 甘えから一転して、挑むような眼で夫を見上げる。


「私、大きな紅玉が欲しいの。首飾りと耳飾りを合わせて。それと大きな紅玉の周りを、小さな紅玉で取り巻きたいわ」


「それはまた随分と高そうだね」


「ええ、夜会用のドレス一年分くらいかしら? でも大丈夫よ、石は押さえてあるの。加工は領地でできるでしょう? 普通に買うよりはずっと安上がりよ」


「その石はリプセット商会かな?」


「ええ、勿論」


 リプセット商会は妹の嫁ぎ先で、ブリトニーの実家の領地の中に店を構えている商会だ。


 ブリトニー自身が夫の仕事を手伝い、実績を上げることで報酬を受け取っているため、他の夫人よりも金回りが良いのだ。だから少々どころではなく値の張る買い物も簡単だ。もっとも今回の宝石の代金は、後から夫に請求する気満々だったが。


「大丈夫よ、お抱えの工房に作らせれば安くできるし宣伝にもなるわ。石と工賃の代金はあなたが売ってきっちり回収できると思うの、頑張ってね」


 エレンディア家の商売は宝飾品加工と販売だ。ブリトニーとアーサーの結婚は一応は恋愛結婚だったが、形としては政略になる。


 気の弱そうな見た目から、強気な女性に迫られて逃げること数回、女性関係には振り回されっぱなしのアーサーだが、商売や領主としての能力は非常に高い。ブリトニーと結婚してからの収入は右肩上がりだった。


 だから少しばかり値の張るおねだりもなんとかなるのだが、それにしてもドレス一年分は高額だ。


 しかも妻の要求は常に過小評価で、実際にはそれ以上なことばかりだ。今回も伯爵家の支出一年分程度に出費が膨らむだろう。


 アーサーは大きく溜息をついた。


 馬車馬のように働かなくては、その費用を捻出するのは難しそうだった。


「……頑張るよ」


 力なくこたえる夫と嬉しそうな妻を乗せて、馬車はエレンディア伯爵家の街屋敷へと帰っていく。

恋愛カテゴリーらしい番外編です。(多分)


本編で二番目に好きなキャラです。

自分からぐいぐいと動くタイプなので、書くのがとても楽でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 強い女性は大好きです 男は尻に敷かれてナンボよ
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