表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】ほんわか令嬢、優しくはない  作者: 秋色mai @コミカライズ企画進行中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/61

36. お掃除しましょう


 ドリスが例外だったのだ。元軍人であり、メイドとしては少しそそっかしい彼女に対し、他の使用人は基本的に冷淡に仕事をしていた。

 ……しかしフローラの地獄耳には裏側の会話も聞こえてくる。


『あんな世間知らずそうで、負傷者でも見たら卒倒しちゃいそう』

『旦那様も人がいいから、騙されてるんじゃないかしら』

『なんにせよ、警戒しておくに越したことはないわ』


 きっと優秀な軍人だったのだろう。ドリスも聞こえているようで、眉を少し動かした。

 いつもならまだほんわかしているが、ドリスなら、大丈夫だろう。

 フローラはそう判断した。


「ねぇ、ドリス。フロスト領では特有の訛りのようなものはあるかしら?」


 それは、一見するとただの世間知らずな発言だった。いじめなど知らぬ、無垢な令嬢のように。朗らかに、穏やかに。

 たったその一言で、ドリスは全てを理解した。自分の直感に間違いはなく、フローラこそが主君なのだと。


「いいえ。特有の言葉などはありますが、発音は王都と変わらないかと」

「……そう」


 徐々に言葉は鋭さを帯びてゆき、立ち振る舞いは変化してゆく。圧倒的強者の風格にドリスは気の昂りを抑えられなかった。


「では、まだ正式な婚礼を挙げていない主人には、挨拶を返してはいけないというしきたりは?」

「ございません」


 一歩一歩、優雅にヒールを響かせて、フローラは使用人の元へ向かう。メイドたちはその恐怖から、本能的に足を引き、後退した。


「初めまして。ごきげんよう」

「……ヒッ!」


 自分たちがどれだけ馬鹿なことをしたか、メイドたちはようやく気づいた。領主を軽んじ、出過ぎた真似を犯す。それはメイドの質の低さを表している。……だが、気づいたところでもう遅い。

 フローラは、馬鹿なメイドなど求めていないのだ。有能な者以外は、フローラの足手纏いになるだけ。


「これから、よろしくお願いしますね」


 口元は笑っていても、目が笑っていない。つい先ほどまで花が舞っていた背景には、今や蛇や蜘蛛、ムカデなどの邪気が放たれている。

 ここまで呪具を愛しているフローラが、不運な事故に遭っていない理由。……それはフローラの強さに呪いが吸収されているからかもしれない。


「「「よ、よろしくお願いいたします」」」


 気圧されたメイドたちは震えた声で直角に頭を下げた。

 フロスト家はスペンサー家とは違う。良くも悪くも実力主義であり、またフローラの立場は変わった。仮面を脱ぐ必要があるのだと、フローラは知った。

 とはいえ今日は初日。これを機に膿を出してしまうのも、悪くはない。


「フロスト家のメイドはとても礼儀正しいのね」

「……よく教育されているはずですから」

「そうなのね。素敵だわ!」


 くるりとドリスの方を向き、無邪気に驚くフローラの姿を見て、メイドたちは腰を抜かした。その音に気づいているはずのフローラは見向きもせず、ドリスと共に去ってゆく。その後ろ姿にまた花を纏って。


「……フローラ様、大変申し訳ありません」

「謝らないでちょうだい。仕方のないことなのだから」

「しかしっ!」


 ドリスは自分の力不足を感じた。主君を守れなかった自分が、許せなかった。その様子に、フローラは仕方ないわね、とでも言うように曖昧な笑みを浮かべる。


「ドリス。貴女はきっと、綺麗にお掃除してくれるのでしょうね。私は綺麗好きだから、想像するだけで嬉しいの」

「……ええ、お任せください」


 不届者の処理など、フローラにとっては服に留まった羽虫を潰すようなものだ。しかし、フローラはドリスに仕事を与えた。

 これは、忠誠を誓うドリスへの褒美であり、ただあのメイドたちに自ら手を下すほどの価値がないだけだった。


「私ね、夕食も楽しみなの。雪国のお料理って食べたことがないから」

「基本的に、保存のために香辛料が多く使われています。フローラ様のお口に合うとよろしいのですが」

「まぁ!」


 フローラは期待に胸を躍らせた。余所者への敵意なんてもの、利用ができてありがたいくらいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ↓次に読むのがなければ是非! 普段はこういうグルメコメディを書いています
【コミカライズ進行中】魔王城の絶品社食、作っているのは生贄です!
― 新着の感想 ―
お掃除(粛清) フローレンシア…ゲフンゲフンならぬ、フローラの猟犬の誕生である。
作品、所見でここまで読ませていただきました。 面白くて、一気読みしました。 先が楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ