放課後とお礼(前編)
色々と疲れた高校生活2日目も終わり、教室内を賑やかさが包む。
しかし俺は机に突っ伏し、どんよりとしていた。
「おーい西川? 生きてるかぁ?」
楽しそうに肩口をつつくのは新道。
「一応生きてるが、なんか用か?」
首だけ動かして答える。
貰ったサンドイッチだけではやはりもの足りず、今の俺はすごく空腹状態で歩く気力も失っていた。
「連絡先も交換した事だし、放課後に遊ぼうかと思ってな」
連絡先を交換したことと放課後に遊ぶことは全く関係ないと思うのだが、断る気力もなくなっている俺は無言のまま動かないでいた。
机に突っ伏し起き上がるためのエネルギーを捻り出そうと試みる。
「おーい! もしもーし聞こえてるか?」
「どうしたの新道君?」
「西川と遊ぼうって話してるんだけど、動かなくて」
エネルギーをひねり出すために黙っていると、桜井が寄ってきたらしい。
「えぇ!? そうなんだ。どこ行くの?」
桜井はやはり新道に気があるのか、自然に会話を始めた。
俺と新道で何がそんなに違うんだろう。
クラス内での立ち位置はお互い中間層なはずだ。
にも関わらず義妹を持ち、彼女らしき幼馴染まではべらせて、さらに今新たに美少女に好かれている。
そう思うとなんだか怒りが湧き上がってくる。
「それを今話し合ってた所なんだ。なのにこいつ机に突っ伏してさぁ」
耳に届く楽しそうな会話は、空腹で動かない身体を怒りで満たし強制的に動かす。
「あぁ? 誰が突っ伏してるって?」
会話への入り方がよく分からなかったので、勢いよく立ち上がって見たが、変に注目を浴びて恥ずかしくなったのでそっと座り直した。
「おぉ、復活したか。それでどこで遊ぶ?」
突然復活した俺に驚いたのか桜井は1歩下がり、逆に新道は、嬉しそうに1歩前に出てきた。
新道は期待に満ちた目で俺をみて、返答を今か今かと待っている。
俺は腹が減っているので、どうにかファミレスに誘導したいわけだが、中学時代まともに同級生と遊んで来なかった弊害で、自然な誘導の仕方が分からない。
どうすべきか思案していると教室のドアから邪悪な気配を放ちこちらをガン見している存在と目が合ってしまった。
新道の幼馴染のユイって名前の少女だ。
どう見ても浮気現場に居合わせた彼女にしか見えない。
もしかしてこれ新道と遊ぼうものなら修羅場に巻き込まれるんじゃね?
不幸にも新道の近くにはクラス内でも屈指の美少女である桜井いる。
見る人が見れば新道に気があるのはわかるだろう。
というか彼女なら分からないわけがない。
さすがラノベ主人公だ。
短期間で既にハーレムが出来上がりつつある。
恐ろしい。
となるとここは一旦断るしかないよな。
「スマンが新道、俺は今からファミレスに行こうと思ってるんだ。だからお前とは遊べない。他を当たってくれ」
完璧だ。
遊びに誘われて飯に行くからと断る。
変に家の用事とか言ってボロがでる心配もないし、遊びたい新道は着いてくる心配もないだろう。
「あー、そうだよな。西川今日お昼サンドイッチだけだからそりゃ腹も減るかぁ。なら先になんか食ってから遊ぼぜ! それならいいだろ?」
あっ。
完璧に思えた作戦はものの一手で崩壊し、むしろ断れない流れが出来上がってしまう。
「西川君と新道君私も付いてっていい? 限定スイーツが出てたと思うんだけどなかなか食べる機会なくて」
「それなら西川に奢って貰えば? サンドイッチあげたお礼にさ、さすがに何も返さないのは男として不味いぞ西川」
断ろうと言葉を探している隙に桜井が参加を表明し、新道がさらに断りにくい追い討ちを仕掛けて来た。
確かにサンドイッチのお礼はしておくべきだろう。
貰ったもので助かったのだからお礼は人として当然。
それがスイーツを奢るだけで済むなら悪くない。
「じゃーあたしユウマに奢って貰う!!」
不幸は続くもので、揃って欲しくない最後のピース自ら飛び込んで来てしまった。
新道と桜井の間に入り威嚇するように睨むユイ。
一触即発の空気が教室を包んだ。
「こら、ユイ。勝手に教室入ってくるなって言っただろ?」
「えー、別にいいじゃん放課後なんだしぃー。ちゃんと人が少なくなるまで待ったんだから」
「えっと、新道君この娘は誰?」
「おれの幼馴染の一条ユイ。見ての通りのちんちくりんだ」
「ちんちくりんじゃありませーんちゃんと大人ですぅーだっ」
そう言って一条さんは、唯一の大きな部分を逸らして強調してアピール。
桜井さんは凄いっと静かに呟き自分の胸に手を当て一条さんの胸と交互に比較し落ち込みだした。
考えている間に状況はどんどん進む。
くそっ。空腹で頭が上手く回らねぇ。
「新道、なんか修羅場そうだから先いくわ」
結果俺は考えることを放棄し、先に行く選択をとることにした。
「いやどう考えても一緒に行く流れだろ」
肩を掴まれ教室から出るのを妨害され動きが止まる。
高校生は現地集合とかあまりしないのか。
「そうだよ西川君! こういうのは喋りながら行くのが楽しいんだから」
「あたしもそれは同意。さすがに1人だけ先いくのは引くわー」
「ユイ。頼むからやめてくれ。これ以上おれから友達を奪わないでくれ」
なんだか闇深い会話だなぁ。
少しだけ新道に興味がわいたがそれよりも今は空腹の解消が重要だ。
ようやく話がまとまり、俺たちは駅前のファミレスに移動を開始することになった。
「ねぇ」
「……」
「ねぇってば」
「あぁ俺か?」
「他に誰がいんのさ」
「んで何?」
歩き始めて5分程たった頃俺の前を歩く新道と桜井は2人で楽しそうに会話を始めた。
何やら共通の趣味があったのか会話が弾んでいる。
その輪から溢れた一条がなくなく俺の元に来たようだ。
一応言っておくと俺が会話に混ざらないのは空腹で喋る気力がないのと、歩くので精一杯だからで女子と何を話していいのか分からないという訳では無い。
「あの桜井って女、なんでユウマとあんなに仲良いの?」
「知らん。今日の昼にいきなり話しかけて来たんだよ」
「つかえないわね」
「うるせぇ」
そう言われても知らないものは知らないのだから困る。
思い返してもお昼に誘われて、お昼持ってき忘れたショックでなんで話しかけられたらかも思い出せないし。
「ユイと西川が喋ってる…もしかして仲良くなったのか?」
話がひと段落したのか振り返る新道は何故か子供の成長を見た親のように感動した瞳で俺たちを見ていた。
「そんなわけないじゃない」
「あぁ全くだ」
2人同時に否定が入る。
「息ぴったりじゃんか」
「なんだ新道、自分の彼女と他の男が仲良さそうにして喜ぶってお前変な癖なのか?」
「だからユイはただの幼馴染でそういう関係じゃねぇ!!」
「なんか4月恒例行事よね。これ」
大袈裟に否定する新道とそれをなんかほっこりした表情で拍手する一条。
どうやら学年が変わる度に勘違いされているらしいな。
可愛い幼馴染がいると、この手の疑いはよくあることだよなぁ。
自分がそうじゃなくなって忘れてたよ。
この後変に気まずくなるからやめてくれって思ってたもんな。
「なんかすまん。変な誤解をしていたらしい」
「おっ、おう」
「なんだその変な顔」
「西川って素直に謝らないタイプだと思ってたからなんかびっくりした」
「2人とも見えてきたよ」
ファミレス行き修羅場道もようやく終わりが見えて来た。
まだ着いてもいないのに疲労感が凄い。
店の前についた時には、俺の精神はもう限界寸前だった。




