表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/19

嫌な再会

 放課後になると、浮ついた空気が解放され教室内は軽いお祭り騒ぎ状態だ。

 隣近所で誘い合いこれから近くのファミレスで親睦会を開こうと声をかけ人を集めるもの。

 片っ端から女子の連絡先を聞こうとするもの。

 早々に教室を去るものと様々。

 俺も初日は様子見するつもりなので早々に教室から出る派の1人なのだが……。


 「なぁ……なぁって」


 後ろから新道ユウマに声をかけられどうすべきか考えていた。

 こいつは義妹持ちの世の中の敵だ。

 当然相容れるはずない。

 しかし、入学早々トラブルを起こすというのも彼女作りに影響するだろう。

 不良はモテると噂には聞くが、クラスで浮くのは良くない。

 俺は高校生活を楽しみたいわけだし。

 そんなわけで対応に困っているのだ。

 

 「聞こえてるんだろ? なんか反応してくれよ。もしかして俺のこと好きでなんて返せばいいのか悩んでるのか?」

 「そんなわけあるか」


 カバンにプリント詰め込みながら無視していると名誉を傷つける発言が聞こえ思わず反応してしまった。


 「やっぱり聞こえてるじゃん」

 「入学式終わったしこれからどうする?」

 「なぜ、さも友達かのように話しかけて来てるんだ?」

 「そりゃもう友達だから?」

 

 友達の定義は人それぞれだからコメントは差し控えるとして、俺と新道は友達と言えるだろうか?

 俺はこいつが既にちょっと嫌いだ。

 何度も言うが義妹持ちは世界の敵なわけで、敵と仲良くする趣味はない。

 というか羨ましいので滅べ。

 だがあからさまに敵意を向けるのもそれは違う気がする。

 特に敵意を向けられたわけでもないので露骨に攻撃するのも気が引ける。

 高校生プロゲーマー学校で堂々のいじめというネット記事が脳内に浮かぶ。

 それはかなりまずい。


 「何をするかによる」


 新道のことは滅べと思うが、露骨に態度に出すのは自分の生活が危ない。

 となれば、様子見がてら出方を伺うしかない。


 「あっ、ユウマいた」


 俺が答えてから一瞬遅れ、1人の少女が廊下からこちらに指を指してきた。

 身長が低い小動物のような少女だ。

 茶色い髪をポニーテールにした愛想の良さそうな娘で、特徴的なのは身長には不釣り合いな胸の大きさだろう。

 教室に残る複数の男子がその大きな胸に目を奪われ女子から冷めた目で見られている。

 しかし少女は慣れているのか気にした風もなく、新道の横まで来るとそのまま腕を絡めた。


 「こら、ユイあんまりくっつくなよ」


 新道は恥ずかしいのか迷惑なのか引き剥がそうと腕をよじりながら抜こうとしている。

 その様子はどう見ても抱きつきたい彼女と人前ではあまりベタベタしたくないカップルにしか見えない。

 彼女が来たからには身を引くというのがいいだろう。

 まぁ違っても勘違いをした振りをしてそのまま帰るだが。


 「彼女来たみたいだし俺は帰るわ」

 「ほらぁ。こういう勘違い生むんだから離れろって。……違うぞユイはただの幼馴染でそういうのじゃないから」


 カチン。

 脳内でそんなSEが流れた気がした。

 こいつとは絶対関わるべきじゃない。

 義妹持ちってだけでも許せないのにそのうえどう見ても好かれている幼馴染持ち。

 なんだこのラノベ主人公。

 仲良くしたら不幸な高校生活が目に見えるじゃないか。

 知り合う女の子を片っ端から奪われモブる未来以外見えないだろ。

 こいつはまずい。

 俺の青春に現れた侵略者だ。


 「むーっ。ユウマそんなに否定しなくてもよくなぃ? さすがに傷つくんだけど」

 「でも、ほらこう言う勘違いって早めに訂正しないと大変なことになるだろ? 中学の時だって……」


 2人はそのまま自分だけの世界に入り込み何やらラノベぽいイベントの回想にふけっている。

 俺はこの一瞬の隙をつき教室から離脱することにした。

 青春侵略者と必要以上に仲良くした親友ポジションのキャラは9割近くが彼女できないまま物語を終える。

 そうなっては困るので友達フラグはここでへし折っておくべし。

 これはいじめではなく友人の選別だ。

 より良く充実した高校生活のための。

 脳内で言い訳をしながら廊下にでる。

 姿が完全に見えなくなったところでユイのせいであいついなくなったじゃんと遠くから聞こえてきた気が気のせいだ。


 数日ぶりの実家は静けさに包まれていた。

 世の中の的に14時頃なんて仕事の真っ最中。

 うちは父はサラリーマン、母は昼からパート。

 妹は学校か休みでも友達と遊んでいる可能性が高い。

 1度出直して夕方ぐらいに戻ってくるのもいいが、さすがに往復するのはめんどくさいので、近くのコンビニで昼食を買って母さんが戻って来るまで待たせて貰うことにした。

 こんなときに暇つぶしとしてよく見るのはvtuberの配信。

 

 「あれ? 今日は九条唯華の配信ないのか。ココ最近毎日昼でもやってたのに」

 

 九条唯華は、俺の周りのプロゲーマーたちの間で癒されると話題のvtuberで、他のvtuberはあまり見ないが俺も気がつくとハマって食事中や寝る前に配信やアーカイブを見ている。

 ちなみに唯華はバーチャルJKでゲーム、歌コラボと積極的に活動している娘で、背が低いのがコンプレックスらしい。

 

 「しゃあないまだ見てないアーカイブ漁るか」


 アーカイブを漁り捲り気がつくと夕方を過ぎ部屋に差し込む光がなくなり、薄紫色と紺色が窓いっぱいに広がっていた。

 

 「あっ」


 そろそろ部屋の電気でもつけようかなと思って立ち上がろうと身体を起こすと狙ったかのように電気がついた。


 「うわ、びっくりしたなんだアラタか」


 電気のスイッチに手をかけた妹が驚いて目を見開いた顔でこちらを見ている。


 「兄を呼び捨てにすな。アホリンカ」

 「はぁ? 誰が馬鹿よ? 少なくともアラタのよりは頭いいですぅだ」


 とまあ妹のリンカとは仲がいいとは言えない。

 顔を合わせれば、喧嘩とまでは発展しなくても軽口の応酬になる。

 だから実妹より義妹がいいのだ。

 実妹なんてムカつくだけだし、どれだけ見てくれが良くても付き合うことはありえないし。

 ヒロイン候補にすらならないのだから優しくする必要も無い。


 「というかアラタ、ホームシックになるの早くない? 俺は高校生になったら一人暮らしするとか偉そうに言ってたのにさ。もしそうならちょっとぐらい甘えてもいいよ?」


 優しい言葉と裏腹にその顔は悪い笑みで満ちている。

 

 「ちげぇよ。入学式で貰ったプリントの中に親に書いても貰う必要があるものがあったから来ただけだ」

 「ふーん。そ」

 「そういうお前はニートか?」


 あまり言われてばかりなのも腹立たしいのでこちらも挑発する。

 ゲーマーたるもの負けず嫌いであれ。


 「アラタさぁ、私中2だよ? 始業式は明日。今日は友達と遊んで来たの、ほら」


 見せつけられたのはどっかのブランドの紙袋だろう。

 防御力とスキルがまるでなく、イベントにありがちな見栄えとレアリティだけが良い服みたいなのが何枚か入っている。

 

 「ふーん、なんか防御力なさそうだな」

 「アラタいくらゲーム脳でも現実の服に防御力とか求めるのは引くよ」


 ぐさりと心を刺され返す言葉を失い黙り込む。

 まさか中学生に論破された!?

 

 「アラタもリンカもまた喧嘩ぁ? もー少しは仲良くしてよぉ」


 ため息混じりに帰宅してきたのはお母さんだった。

 なんだか疲れているようでよろよろとソファに腰を下ろした。


 「いや、別に喧嘩はしてないよ母さん。ちょっとリンカが絡んで来ただけで」

 「そうよママ、喧嘩はしてないわ。アラタが鬱陶しいだけで」


 責任を押し付けようとしたなとお互い睨み合う。

 すると見かねた母さんが。


 「ハイハイほんとに疲れてるからやめて。リンカは着替えて来なさい。いつまでもそんな格好してるとお父さんに文句いわれるでしょ?」


 うちの父親はリンカを溺愛している。

 娘が心配なのか短めのスカートはくだけで小言を言うしファッションへの理解が俺よりも低く露出イコール痴女見たいな考えをしているので、よく喧嘩している。


 「それからアラタは、なにか用事? それなら早く済ませてちょうだい。暇つぶしに来たなら卵買ってきて。疲れてて買い忘れたの」

 

 母さんは疲労度が上がるにつれてうっかりミスをする人なのでなんか帰ってきたって感じがするけど、めんどくさい。


 「このプリントに印鑑とサインくれ。卵は仕方ないから買ってくる」



 財布とスマホを持って外にでる。

 すっかり夜が更けて街頭が眩しく点っていた。

 引っ越して数日俺はここ数年ずっとしてした警戒を怠った。

 高校入学という目に見えるステータスの更新と彼女作る事でトラウマを払拭すると前向きになっていたこと、リンカとの口喧嘩で気分が高揚していたのもあったかもしれない。

 約3年極力会わないようにしていたトラウマの根源、逢沢ハルカとばったり遭遇してしまったのだ。

 

 「あっ」


 そして不幸にも向こうがこっち気がついてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  「やっぱり聞こえてるじゃん。入学式終わったしこれからどうする?」  「なぜ、さも友達かのように話しかけて来てるんだ?」  「そりゃもう友達だから?」 こっちの方が、誰が話しているのか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ