名推理とプロゲーマーの放課後
メニュー決めから数時間が経過し、やってまいりました放課後。
クラスの浮ついた雰囲気は日に日に強くなり、もはやお前ら出来てるだろってぐらい密着した男女が現れ始めた。
放課後まで結局起きなかった新道にリーダーをやると決まった事を伝えて、嫌だとごねるのをあしらっていると、班員女子2名がいつの間にか教室から消えていることに気づいた。
「星河さんはともかく桜井さんまでいないなんて珍しいよな」
「そうだな。居眠りなんてするから嫌われたんじゃないか?」
「そ、そんなことないはず……、ちょっとメッセージブロックされてないか確認してみる」
慌てる新道を横目に考える。
確かに新道の言う通り星河さんは元々俺たちと積極的に関わろうとしてないのか、滅多に話しかけられない。
だから挨拶もなく下校なんていつもの事だが、桜井さんは遊ばない時でも毎回一言はかけてくれていた。
それが今日に限ってない。
放課後に予定があって慌てていたとも思えない。
騒がしいクラス内でも、慌てている人は目立つから印象に残らないことは少ない。
なので慌てて出ていったという事はないと言える。
今日の桜井にはいくつか違和感がある。
珍しく5時間の始業に遅刻したことや昼ご飯を食べられない事を直接ではなく、グループメッセージを使って来たこと。
そして放課後も速攻教室から出ていったこと。
普段ならありえない。
考えられるのは誰かに呼び出されている可能性だ。
しかし教師という線はないと見ていい。
それなら遅刻させるなんてことはないからだ。
1番可能性が高いのは告白のような気がする。
今はキャンプ遠足というイベントの準備の真っ最中だ。
入学して最初の恋人ゲットのチャンスというのは班決めや、今のクラスの浮つき具合から十分に察することができる。
実際どこかのクラスではカップルができたとかできてないとか告白したとかするとかそういう噂が数多く囁かれている。
つまり、今日黙って居なくなったのは、その返事をしに行くためなのではないか。
それかOKを出したから一緒に帰るためなんて説が俺の中で濃厚となる。
仮にそうだとしてもわざわざ俺たちに言う義務はないし、プライベートなことだから言いふらすような事じゃないので、言わなかったと考えるのが自然だ。
仲良いと思っていたので多少ショックではあるが、まだ返事をしてないので報告がないとも考えられる。
状況証拠はかなり揃っていると言える。
そうだと考えれば、お昼を一緒に食べられないと直接言わなかった事にも説明がつく。
昼一緒に食べられないと言えば、理由を聞かれた場合答えなければいけなくなるが告白なら言いふらす訳には行かないだろう。
桜井は少し接しただけでわかる真面目で優しい娘だ。
告白の事を言いふらさない配慮をしないはずがない。
OKを出すとすれば尚更言えないだろう。
我ながら推理力が恐ろしい。
「いやーブロックはされてないな」
「新道、俺は答えがわかったぞ」
「なんだと? お、教えてくれ」
今の推理を聞かせると新道は腰を抜かして驚いた。
しかし反論が無かったので、俺たちの中では桜井に彼氏ができたというのが共通認識になった。
お互い好きになる前で良かったなと言いながらそのままファミレスへと向かう。
なんか入学してからファミレスをたまり場にするのかいつもの流れになってるのだ。
今後は桜井に気を使い適切な距離を置いて彼氏が怒らない程度に仲良くするということで合意した。
桜井がOKを出すなんて運動部の陽キャで力も人脈もえぐいような人だったりしたら困る。
俺も新道も学校でのカーストは低くはないがあまり高くないのだ。
ファミレスから帰ってそのまま、配信を始める。
キャンプ遠足の事を話した結果、スケージュールを少しいじり、普段配信しない日に配信することになり連日の配信となった。
SNSで今からやると告知を上げ、機材を準備する。
と言ってもゲーム起動して配信サイトにログインしてヘッドホンとマイクをセットするだけなのだが。
普段俺は、バトロワFPS系ゲームの野良ランクマッチをひたすら垂れ流しながら、雑談するというスタイルの配信をしている。
現状日本人最年少FPS系のプロゲーマーという肩書きのせいかプロゲーマーになりたい中高生やこの殺伐とした戦場に癒しを求めにくる変わった大人のお姉さん達が主に来てくれる。
このお姉さん達は上限の1万コインをホイホイ投げるので若干心配だ。
平均の接続人数は1000人。
メジャーなプラットフォームじゃないからこれでも上位配信者。
俺としてはプロになってからも収入が入ってくる以外は大きく変わった実感はないので、これでお金貰っていいのか常々疑問に思っている。
プロゲーマーとは言ってもやりこんだプロじゃない猛者にボコられる事も結構あるし。
「なんか今日接続多くね?」
マッチまでの僅かな時間リアルタイムで切り替わる接続数が珍しく3000を超えていたので独り言のようにそれをつぶやく。
この部屋には誰もいないから独り言といえば独り言なのだが、すぐにコメント欄から反応がかえってくる。
どうやらvtuberさんが俺の話をしていたらしく興味本位で来たという層がいるらしい。
それだけで接続が3倍になるのだからvtuberって恐ろしいな。
そういえば最近チャンネル登録100万人行ったって話よく聞くし。
賑わってるよなぁ。
順調に武器を集めていると気になるコメントが目に入った。
最初の頃はコメントなんて見る余裕も無かった事を考えると成長したと思いつつコメントを拾っていく。
目に付いたコメントは大会に呼ばれたかというものだ。
「vtuber×プロカップって何? あぁvtuberとプロゲーマーがチームになってやる大会があるんだへぇー。いや、出ないと思うけど……別にどこからも誘われてないし。うん。え? ワイバーンでんの? 奏さんと? マジで? いやいや聞いてないすねぇ。誘われたらやるかって? まぁスケージュール次第」
ワイバーンというのは俺が所属するチームのリーダーの大学生で、俺をこのプロゲーマーの世界に引きずり込んだ恩人である。
元々別のゲームでプロゲーマーをしていたが無所属だったので俺と一緒にスカウトを受けた。
会う前からお互い同い年ぐらいと思い込んでいたので、ずっとタメ口のまま過ごしてきたので、今もそのままお互いタメ口。
奏さんは企業所属のFPS激うま男性vtuberで、歌もダンスもゲームも演技も上手い飛んでもない超人という情報しか知らない。
いつもよりも人が多く来たので調子にのって長めに配信をしていると、メッセージの通知が爆音で流れてしまった。
「メッセージは放置。今漁夫のが大事でしょ。彼女じゃねぇーって。仲良い女はだいたい彼氏持ちよ。なんなら今日も1人そうなったわ。こんちくしょう」
コメント欄が草とわたし彼女立候補します! で、覆い尽くされたところで、運悪く死体箱を漁っているところを、スナイパーに狙撃を食らってダウンしてしまう。
「一旦メッセージ確認するわ。ちょっとまってて」
視聴者に一言断ってからメッセージを開く。
実はこの配信いつも所属チームのスタッフが基本的に監視している。
問題があれば、即座に連絡が入り強制終了する可能性があるわけだ。
企業案件なので余計な事を言うと困るらしい。
いくらプロゲームとは言っても配信関しては素人。
俺の気を引き締めるための脅しかもしれないが、万が一その連絡だったらまずいので配信の最中にくる連絡は絶対に確認しないといけない。
『 西川君今時間大丈夫?』
『 買い出しの事なんだけど』
『 おーい、おきてる?』
桜井から3件個人トークが入っていた。
5分間隔であまり鬱陶しく過ぎない程度の文章量で桜井の気遣いが伺えた。
『 ごめん今気づいた。今は問題ないです』
さすがに配信中とは言いづらいのでひとまず了承し、配信を続ける。
1分程返信を考え何となく丁寧にしようと敬語を使って返信した。
僅かな時間にコメント欄は妙に盛り上がっていた。
接続もなせが5000を突破してるし。
「コメントどうした? なんでこんなに流れて早いの?」
普段は目で余裕で追える速度で流れるコメント欄が川のごとくさらさらと流れている。
早すぎて拾えないながらも何とか見えた単語から推理する。
この配信にどうやらvtuberさんがやってきたらしい。
沢山見えるのは唯華やゆいにゃんといった単語。
それは俺もよく知るvtuberの愛称で、俺のテンションは一瞬にして跳ね上がる。
「まじで? 九条唯華きたん? 偽モンやろ。え? SNSに投稿してるの? まじかぁまだいるならこんにちは。どーも、たらのすけです。いつも配信見てます」
普段あまりしないプロゲーマーとしての挨拶に照れつつ何とか挨拶をする。
たらのすけそれが俺のプロゲーマーとしての名前だ。
アラタという本名を基本使っていたのだが、ある時誤字ってタラになり、そこから適当にたらのすけって名前にしたらプロゲーマーになってしまった。
そのまま改名する機会もなく定着してしまったのだ。
めちゃ適当につけたから若干恥ずかしい。
当然こんな激レアイベントがあれば、直前のメッセージのことなんて吹き飛んでしまい桜井からの返事に気づかず、配信が終わるまで忘れていた。
配信終わりにようやくそのことを思い出し慌てて返信し、買い出しの打ち合わせが終わったのは、23時だった。
『 それじゃ木曜日にね。絶対忘れないように』
『 了解』
『 あと伝え忘れたけど、これからしばらく一緒にお昼食べられないし放課後も遊べないって新道君と一条さんに伝えておいて? ごめんね』
『 伝えておく』
5分たっても既読が付いたまま返信なし。
今回のことで俺は嫌われてしまったのかもしれない。
一つだけ言い訳させてもらうと九条唯華が配信に来たらテンション爆上がりするでしょ?




