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26 最高値

 オルレニ王国を創った白の魔女が与えてくれる能力(ギフト)は、とても良いものだと思う。使い方さえ間違えければ、自分だけの楽しみを生むことだって出来る。


 個々に無作為に与えられるものだから、国民にも同じ能力を持っている人だって少ない。


 そもそも誰もが生まれ育った環境や持って生まれ持ったものも違うのだから、それは当たり前のことなのかもしれないけれど……。


「……リディア。申し訳ない……待たせてしまったね」


 私たちはいつものように王城でお茶をする予定で、少々時間に遅れたレンブラント様は、先に席についていた私への謝罪を口にしながら椅子に腰掛けた。


「いいえ。レンブラント様がご多忙であることは、私だってよくよく理解しております」


 数日間尾行し、彼の多忙ぶりをこれでもかと目の当たりにしていた私は、そう微笑み首を横に振った。


 十七歳の誕生日から誰かを見れば頭上に数字が浮かんでいたのだけど、今はその数字はなかった。私はついこの前に神殿で購入した能力(ギフト)抑制の腕輪を付けているからだ。


「どんな因果なのか……来て欲しくない時に限って、面倒な事は起こるものだ。君と会う約束をしている時は、特にそうだ。これまでにも何度も、こういった経験はある」


 レンブラント様はうんざりした様子で肩を竦め、淹れ立てのお茶を飲んだ。


 二人の誤解がすっかり解けてしまってから彼はもう私に対し、冷たい態度を取ることがなくなった。隠すことなく愛情を表現してくれるし、言いたいことを素直に言っているようだ。


 当たり前のようなことだけど、そんな彼の態度がすごく嬉しい。


「……大変ですね。少しでも休めれば良いのですが」


「ああ……アンドレはさっさと結婚式をすれば良いと言って居た。リディアはどう思う?」


「え!」


 彼が何気なく口にした言葉に、私は驚いてしまった。


 王家の慣例通りにいくと、兄二人の結婚式が終わってから第三王子レンブラント様の結婚になるだろうし、私たちの結婚式はまだまだ先のことだとそう思って居たからだ。


「別に驚くことでもないだろう。僕たちは婚約者で、いずれ結婚するんだ。それに、僕もリディアも既に成人しているし、いつ結婚してたって構わないんだから」


 レンブラント様は目を丸くして、私が驚いたことに驚いているようだった。


「そっ……そうですよね。私もそれは、わかっています……わかっているんですけど」


 私たちの結婚式はまだまだ先で余裕があると思って居たし、ここ最近の関係の変化はあまりにも急激過ぎた。


 私本人が、戸惑ってしまうくらいに……。


 俯いていた私が顔を上げれば、レンブラント様は微笑んだ。


「また……リディアの周囲がきらめいている。実はこれは、便利なようで難しい能力(ギフト)なんだ。ようやくリディア本人に聞くことが出来るんだけど、何が良くてときめいてくれたの?」


 私たちは既にお互いの能力(ギフト)の内容を知っているのでレンブラント様は単に疑問に思ったことを、そのまま尋ねたようだ。


「っ……その、今のは、レンブラント様と」


「ああ」


「目が合ったからだと、思います……」


 顔が熱くなって声が小さくなった私を見て、レンブラント様は目を細めた。また、私の周囲はきらめき眩しくなったからだと思う。


「君は本当に可愛いね。リディア。僕はずっと、そう言いたかったんだけど?」


「……ごめんなさい」


 私が家庭環境から冷たくしてくれるくらいの男性が好きと思ってしまっていたから、彼はただそれを演じてくれていただけに過ぎない。


 十七歳の誕生日の日に、能力(ギフト)を得てから何が良かったかというと、レンブラント様とこうして何もかもさらけ出し話し合うことが出来るようになったことだ。


 それがなければ、誤解が解けることは一生なかったかもしれない。


「それは、別に謝ることではないよ。それに、僕が君を好きな気持ちは数字になって現れているようだからね。別に疑われることはないだろうけれど」


「あ。そのことなんですけど、私……実は能力(ギフト)を抑制することにしたんです」


 私は手首にある腕輪が見えやすいように手を挙げて、それだけで何をしたのかレンブラント様はわかってくれたようだ。


「ああ……そうなんだね。どうして?」


「私が与えられた能力(ギフト)は、本当に素晴らしいものですけど……自分への好感度なんて、生きて行く上で見えない方が良いですよね……」


 レンブラント様や家族、そして、親友と呼べるイーディスに関しては何も疑うところはないけれど、誰しも合う合わないがあるはずで、それが可視化されてわかってしまうというのも見えていたのは短期間だけど生きづらさを感じてしまった。


 これを逆に楽しんでしまう人だってどこかに居るはずだけど、私にはあまり必要のない能力(ギフト)だった。


 白の魔女からの贈り物(ギフト)を全員に与えられる国民の中には、自分には合わないと二度と使わない事を選ぶ人だって居るはずで、私もその一人になった。


「見えなくても……僕はどんな君でも、最高値に愛するよ。リディアはその腕輪を外せば、すぐにわかってくれると思うけど」


「……レンブラント様には、好感度を落とす可能性がないということですか?」


 ……私は頭上にある、あの数字が下がっていく瞬間を知っている。


 訳がわからないままに責め立てたエミールや、自分を嫌いになった……あの時だって。


 だから、どうしても怖くなってしまう。見えていれば好感度が落ちてしまわないか、いつも気にしてしまうだろう。


「それは、もちろんそうなるだろう。僕はただリディアに嫌われたくない一心で、自分の意に反する態度を何年間も取り続けたんだ。だが、これからは冷たい態度を取らないで欲しいと望んだのはリディアなのだから、僕は君に愛されるための行動しか取らなくなるだろう」


 そうきっぱりと言い切ったレンブラント様の青い瞳には少しの陰りもなく、今はもう見えないはずなのに最高値の数字が彼の頭上に見えた気がした。


Fin




お読み頂きありがとうございました。もし良かったら、最後に評価頂けますと幸いです。

また違う作品でもお会い出来たら嬉しいです。


待鳥


※こちらの完結と同時に新連載始まっております!

良かったらページ下部からどうぞ!

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