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25 真相(Side Rembrandt)

「……リディア。悪いが、僕はもうそろそろ行くよ」


「あ……はい」


 ダンス終わりにそう言うと、顔を赤らめた婚約者リディアの周囲にぶわっと光が舞ったので、この冷たい態度と平坦な口調をとても気に入ったものと思われる。


 これの……何が、そんなにも良いんだろうか。いつも通り不思議に思う。


 彼女に背を向けて立ち去りつつも、僕の心は釈然としない思いで溢れていた。


 リディアが喜ぶのなら、そうしてあげたい。だが、別に僕は冷たい態度を取りたいという訳でもなかった。


 僕たち二人は将来を約束された婚約者なのだから、ダンスの後も寄り添って歓談してもおかしくないと思う。彼女がこうして放っておかれる事を望むのだから、それに従うべきだとも。


 ……そうは思うのだが、心中はいつも複雑だった。


 僕は親に決められた婚約者のことが好きで、将来結婚するのならば、そんな彼女と婚約出来ていることを喜ぶべきだ。


 リディアに好かれたい。ならば、僕のこの行動は正解だ。


 けれど、僕自身がこうしたいと望んでいる訳ではない。


 多忙な中、せっかく会えたのだから、ゆっくりと話をしたい。これは、僕の希望だった。


 けれど、リディアはそれを望んでいない。


 リディアは僕という婚約者には、冷たい態度で接されることを望んでいる。彼女にとってそれが良い事か悪い事なのか、僕には見ればわかってしまう。


 彼女を取り巻く、その光の総量で。


 僕にときめくと光が舞うという能力(ギフト)について、たまに疑問に思ってしまう時はある。心の内を具現化するなんて、どういった原理なのだろうと。


「……レンブラント様。リディア様の元で、歓談されたりしないのですか?」


 侍従アンドレがどこからか現れ、僕にそう囁いたので、ため息をついて答えた。


「僕は別に自分が望んで彼女から離れている訳ではない」


 僕の能力(ギフト)についての事情も知りつつ言ったことだと思うので、アンドレももちろん理解していると思うが。


「それでは、リディア様に全ての事情を話して、正直に伝えればよろしいではないですか……それは、いつかは必ずせねばならないことですよ」


 真面目なアンドレは最近、リディアについての小言が増えて来た。最近、多忙過ぎるせいもあるかもしれない。


「……リディアは、僕のことを好きなのだろうか」


「間違いなく、お好きですよ。早く打ち明けられてください」


 アンドレはさっさと打ち明けろと何度も僕に諭したのだが、僕はそれには頷かなかった。


 そうするべきだと思うが、現状を変える勇気が出なかった。




★♡◆




 ……今思うと、あの時のアンドレはリディアから脅されていて、自分に火の粉が降りかかるのを恐れて、二人の問題をさっさと解決したかっただけなのだろう。


 飄々とした態度で執務室に入室したアンドレが差し出したリディアからの手紙を受け取り、午前ずっと働いていた僕はそろそろ休憩することにした。


「お二人も、仲睦まじい様子で……本当に良かったですね。私もほっと……一安心しております。レンブラント殿下」


 ついこの前に、双方の誤解は解け、僕たちは普通の婚約者と言える関係性になっていた。


「アンドレ……今回は特殊な事情があったから許すが、本来ならば極刑だ」


 侍従が王族の情報を漏らすなど、本来ならばあってはならないことで、それはこのアンドレだって重々に理解しているはずだろう。


 だからこそ、僕に何度も何度も、リディアに打ち明けろと諭していたという訳だ。


「ええ。わかっております。私だって、本当に心苦しかったんですよ。近くの部屋から覗かれているにも関わらず、早くリディアに会いたいと仰る殿下のお言葉を聞き流すのは……」


 アンドレは胸に手をあてて胸が痛いと言わんばかりの態度でそう言ったが、僕は聞き捨てならない言葉が気にかかり、先ほど渡された手紙を開けようとしていた手を留めた。


「待て。リディアが、僕の部屋を覗いていたと……?」


 リディアは育ちが良い貴族令嬢だ。王族の婚約者として、礼儀作法立ち振る舞いだって完璧だ。


 ……そんな彼女が、覗きを?


 あまりにも想像が付かない光景に、僕はアンドレに確認するように聞いた。


「ええ……これは、お聞きになっていないですか? リディア様は近くの部屋から、レンブラント殿下の部屋を数日間覗かれておりまして、女性の影がないか確認されていたのです。まったく何もない訳ですから、ただ殿下の執務中のお姿を覗かれて終わった訳ですけれども」


 思わず窓を見たものの、もちろん、そこにリディアが居るはずもない。


「それは……確かに、聞いていないな。事前にそう言ってくれれば、部屋に椅子を準備させたのに」


 多忙な執務中であっても彼女がすぐ近くに居るとなれば、やる気も出て来ると思うのに。


 そんな訳にもいかないだろうと、アンドレは呆れた表情で肩を竦めた。


「ああ。お二人とも、とても仲がよろしいようで何よりでございます……さっさと結婚式をあげられたら、よろしいのでは? 殿下のお兄様がたも、そろそろ身を固めそうですし」


「……悪くない」


 順番を考えれば、アンドレの言うとおり兄二人の結婚を待つことになるのだろうが、三番目の僕はいずれ王家を出て臣下として公爵位を賜るだろうし、先に王家を出ても良いかもしれない。


「そうしてください……周囲の心の平安のためにも……」


 アンドレは大きくため息をつき、これまでにあった心労を僕の前でとくとくと語り始めた。



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