どこかの人々 1
ー王宮 王族の食事中ー
カヨが、魔物肉の差し入れに来た報告を料理長が王太子に告げてから、少し経った頃のお話し。
「最近は魔物肉が良く食事に出ますね。これもカヨ女伯爵のおかげです」
「本当ですわね。珍しい魔物肉を、新鮮なまま、いただけるなんて贅沢なこと」
「爵位を渡した事で、王宮に出入りしやすくなったのだろう。どういうつもりで、差し入れをしてくれるのかわからんが、素直な女子のこと、悪い意味はなかろう」
「それにしても美味しいわ。肌ツヤがよくなった気がします。カヨ女伯爵にお会いしたときは、緊張して可愛らしい女性に見えましたけど、魔物肉を差し入れ出来るほど、調達してくるなんて、豪胆なことをされますわ。なかなか、戦闘面でも頼りになるのかしら?」
「各地を治癒師になって、人々を治療してまわってますからね。いろんな出合いがあるのでしょう」
「料理長の腕も良いし、最近は食事が楽しみだわい」
「また、ドラゴン肉はいただけないかしら?私、あんなに美味しい肉を食べたのは初めてでしたわ……今でも思い出します……」
「今度会ったら、確認してみよう。だが、風のように来て、すぐに去っていくという話しだったから、捕まえるのは難しいかもしれないね。ドラゴンは、いつでも狩れるみたいだったから、手紙を書いて召喚した方が早いかもしれない」
「皆、美味しいからと食べすぎて太らんようにな」
王様が含み笑いで王族皆に言う。
「父上が気にかけた方がよろしいんではないですか?女性達は、美の為なら多少我慢もしましょうが」
ほほほっと、笑い声が響き渡る。身内だけの食事なので、軽口もはずむ。現在の国王と王妃は恋愛結婚なのだ。王太子も子爵令嬢だった王太子妃に恋をして、アタックの上で結ばれた仲だ。家族仲はこれ以上ないほど良好だ。
王太子の子は、まだ、1歳と数ヶ月なので、離乳食も兼ねた食べやすく手づかみもしやすい柔らかい物だ。侍女に手伝われて、ご機嫌で食事している。
「もうすぐ社交の時期になるので、手紙は出した方が良いだろうな。王宮が下手な料理をだしては、権威も落ちよう」
「あまり、貴族達に期待させても悪いのではないですか?」
「用意できる環境にあると知らしめる為には効果的だ」
「じゃあ、そのようにしましょうか」
「まあ!またドラゴン肉が食べれるの!?嬉しいわぁ」
「まだ、確定ではないけどね。依頼はしてみるよ。彼女、カヨ女伯爵は、確か妊娠していたから、時期が合えばね」
「妊娠なんておめでたいわね。メルセドムとエイベリーの子、エイデンの誕生の時なんて王都民、皆、喜んでくれました」
「あの時は嬉しかったですね。私達の子が民に認められたみたいで」
「そうですわね。お世継ぎができましたもの、幸せで誇らしい気持ちでしたわ」
「オリヴィアは結婚にいい歳だけど、お眼鏡に叶う相手はまだいないかな?」
「まだ、おりませんわ。わたくし、このまま行き遅れになるかもしれませんわ。お兄様誰か紹介してくださいまし」
「う〜ん、悩ましいね」
王族の仲はとても良いから、話しは弾む。カヨが忙しい時に、王宮から手紙が届くかもしれないが、カヨの視察は始まったばかり。
社交の時期を貴族皆が守る訳では無いが、12月から年を越して2月ぐらいまでが社交の時期だ。
貴族は王宮主催のパーティーと、仲の良い貴族達とのお茶会やパーティーで交流を行えば勤めは果たしたと言えよう。
今回の社交では、領地持ちの貴族が孤児院設立の為に動き、その褒美で瞬間移動扉を1組貰えることになっている。
王家は、どの貴族が何処に設置するかまで、見届けて設置した場所を記して、何かあれば確認できるようにしなければならない。いつもより、忙しい社交になりそうだ。
ーカヨが治療を施した、ある町でー
カヨの治療で並んでいるうちに仲良くなった町民の話し。
「聖女様のおかげで、怪我が治って最近いい事ずくめよ!酒も飲めて美味いねぇ〜」
「普通の治癒師じゃ、なくなった腕1つ治すだけで3ヶ月はかかるからなぁ。ベテランならまだしも、値段も、金貨300枚以上かかる。聖女様様よ!」
「町の怪我人のほとんどが病気や怪我が治ったんだから、町も活気づくもんよなあ?」
「今まで、気まずくて見れなかった人を普通に見れるってのは、いいもんだ!俺たちも気まずい仲間だったけどな!」
がははっと中年の男がご機嫌に酒をのみながら笑う。辛い過去が、笑える過去になったのだ。今の顔には喜びしかない。
自分の怪我のせいで、妻や子供に迷惑をかけて来たのだ。それが今は元気に働いて、妻や子を養える。普通の事が嬉しい。酒も進む。家に帰って怒られなければ良いが。
「助かった俺たちゃいいが、聖女様は1人だ。この国全部に行かれるなら、他の治癒師を敵にまわしちまやしねぇかな?」
「聖女様は神出鬼没らしいぜ。一応、西に向かってるんじゃないかと商人の奴らが言ってるが、どこまで本当かはわかんねぇ。貴族や富裕層の集まった治癒師は、今まで立場にあぐらかいてたんだ。ちょっとは焦りゃいいさ!それに比べて聖女さまの慈悲深いことよ!お腹に子供が居ても頑張って俺たち庶民の為に働いて下さる。本当に治癒神様の加護があっても信じられるぜ」
「分かる、分かるぜ。神様が俺たちを憐れんで、聖女様を遣わせてくれたなにちげぇねぇ。俺たちゃ幸運だなぁ」
悲しい過去を持つ男たちは、今は幸せな顔をしている。カヨが自分達のような庶民をこれかも救う事を信じて。
ーローゼット領 領主ー
「銀貨1枚治癒師は、まだ見つからんのか!領民の不満の訴えが、役場を通じて止まらん!退職する者も出たそうだ!領都民の数も減っておる!流出はとめられんか!?」
カヨが領主の政策を嫌って、領都に治療に行かなかったせいで、今まで魔物のことは「他人の犠牲は仕方ない」と考えていた者達が多かったこの領都では、カヨがキッパリと「領民を大切にしない領主が嫌い」と言った事で、目が覚めた者が多かった。「自分達は領主に大切にされているのかと?」金と見る目がある者は他領に移住を始めた。金や見る目が無い者は領都に残っている。だが、良い領民が去って行ったのだ。
領都は今、荒れている。領主が領兵を増やせばいいだけのことなのに、それをしない。
代々領兵が少ないにもかかわらず、税を納めさせて、やってきた領地だ。領主もそれでいいと教育を受けて育った。解決策が解らないのだ。
領主館で働く者も、日に日にストレスを溜め込んでいる。臣下が、この領地を去る日も近いかもしれない。
国を巡回している、商人になりすました国の調査員が、ローゼットの領主が、領地を治められないと王宮に報告した場合、現領主はその地位から引きずり下ろされる。その日が着々と近づいているのかもしれない。
ーカヨの訪れを待つ人達ー
「私達が貧しくてごめんよ。こんな病気早く治してやりたいんだがねぇ。ごめんよぅ」
「お母さん、大丈夫だよ。神様が見ていて下さる。いつか病気も治るさ」
「ああ、この町にも治癒神様の聖女がいらしてくれれば……」
「お母さん、大丈夫。時間が解決してくれるよ。僕は待つよ」
商人ネットワークの話しが届いていると言う事は、もうすぐカヨが来るはず。
この親子が不運だったのは、カヨがカーマインの視察団と行動して、その後、出産が控えている事だ。
本当にただ待って、時間が解決するのを待つしかない。カヨが動けるようになるのは、子供の首が座ってからだ。数ヶ月は治癒師としての活動は出来ないだろう。
親子には病気に負けず、待っていてほしい。
ちょっと短いです。次から本編に戻ります。




