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さいごのはなびら

 十数年後。

「やあ、元気にしてるか?」

 すっかり社会人になったぼくと夏帆さんの家を春子さんが尋ねてきた。

「あ、春子久しぶり! 見ての通り元気だよ」

「のようだな」

 何年経っても変わらない夏帆さんの様子に春子さんは目を細めた。ぼくはお久しぶりです、とお茶を出した。

「幸せそうで、何よりだ」

 ぼくと夏帆さんの住まいを見て、顔を綻ばせる春子さん。でしょでしょー、と得意げな夏帆さんに、ぼくは何気なく、クッキー焼いてるんじゃなかったっけ、と告げて、部屋から退室させた。

「で、話っていうのは何だい?」

 春子さんが訊ねてくる。何を隠そう、今日春子さんをこの家に招いたのはぼくだからだ。

 今更かもしれないが、けじめをつけようと思って。──春子さんを苦しめるだけかもしれないが、何年も悩んだ果て、ぼくはようやく決心した。

 滔々と語る。

「ぼくは、あなたのことが好きでした」

 春子さんが僅かに目を見開く。

「でも、あなたは夏帆さんのことが好きだった。そうでしょう?」

「どうしてそのことを……」

 誰にも言っていないのに、と春子さんは呆気に取られた様子だった。

 ぼくは悪戯っぽく笑む。

「伊達に幼なじみやってませんよ」

「……そんなにあからさまだったかなぁ」

 春子さんは頬をぽりぽりと掻いた。少し恥ずかしげに。

 ぼくは途切れないように続けた。

「卒業式の日、夏帆さんから告白を受けて、正直戸惑いました。あなたへの裏切りになるんじゃないかって。

 だって、恋愛にまで発展しなくても、あなたはぼくのことを気にかけてくれていたから。

 でも、ぼくはあなたへの想いを諦めていた。だから、夏帆さんの思いを受け止めました。

 ──それに、あなたには新しく想える人の当てもついていたようですし。

 お節介かもしれませんが、どうか、幸せになってください」

「西園……」

 春子さんは何も反論して来なかった。きっと、何が言いたいかわかっているのだろう。今ぼくが語ったことはきっと、卒業式のあの日、夏帆さんからの一大発表を受け入れたときの春子さんと同じ心境だったから。

 好きな人と好き合えるのは、きっとこの上ない幸せだろう。けれど、ぼくのように、春子さんのように、叶わない「好き」だってあるはずだ。

 そんなとき、好きという感情だけ取り残されたぼくたちはどうすればいいのか。

 それがぼくの導き出した答えの一つだ。




 大切な人に幸せになってほしい。




 譬、その人が自分じゃない人を選んだとしても、それだったらそれなりに選ばれたその人に幸せにしてほしい。ありふれた答えだけれど、この三角関係を終わらせる最善策はそれだと思った。

 だからぼくは誓う。春子さんが好きだった夏帆さんを幸せにすると。

 その代わりというわけではないが……ぼくの好きだった春子さんは、また別に幸せになってほしいと願う。

 彼女がこれから先、どんな道筋を歩むかわからないけれど。

「幸せになってください。ぼくからはそれだけです」

「そうか」

 春子さんは少し切なげに顔を歪めてから頷いた。

「ありがとう」

 彼女の笑顔が見られたことで、ぼくは本当に初恋が終わったことを知った。




 幼なじみで、報われなかったのは、ぼくと春子さんだけ。夏帆さんはやっぱり何も知らないで生きていくだろう。

 やがて、春子さんも、何らかの形で報われる。そんな日が来ることを望む。




 一生報われないのはぼくだけでいいんだと、ぼくは決意したから。











 さよなら、ぼくの初恋。



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