表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
ドイツへ留学する
98/147

本選。ラッキーな出会い。(改)

コンクーと音楽祭をかねてる大会なので、本選は意外な事になりました。

 結局、二人の口喧嘩は、夜中まで続いたみたいだ。俺は、”巻き込まれ”を恐れ、フェリックスと自室でさっさと寝た。正直、眠くはなかったが、起きてると口喧嘩の仲裁に呼ばれそうなので、狸寝入りしてるうちに、寝てしまった。


 クラウスと香澄さん、両方とも頑固だ。香澄さんの”クラウスが怖い”という離婚理由が信じられないほど、彼女は堂々と自分の考えを主張し反論もする。息子の事については特にだ。母は強しか...まあ、クラウスも意見を強引に通そうとするのも息子の事についてだけだけど。


 翌朝、二人が家に帰ったあと、クラウスはしみじみと愚痴った。


「カイト、来月から香澄に渡す養育費の金額を増やす。フェリックスのためだ。頑張る。でも正直もうこっちも家計がギリギリなんだ。この家のローンもあるし。」


「クラウス、香澄さんの生活の事を聞いた?クラウスが明日帰ってきたら、言うつもりだったんだ。まあ、タイミングでこうなちゃったけど、俺は結果として、いい方向に進んだと思う。」


 クラウスは、”へ??”みたいな顔をしてる。ああ、香澄さんは夜の仕事の事を言わなかったんだ。言うともっともめそうだしね。


「エリザベトさんは、保育ママで9月から新しい子を受け入れるので、そうそう香澄さんも頼れないみたいだ。香澄さんが収入のいい職につけたらいいんだけどね。フェリックス君のためにも特にね。」


 自分の息子の名前が出た途端、難しい顔になったクラウスは、いろいろ考えてるみたいだ。でも俺は詳細は言わない。逆上されても困るしね。


「なあ、カイト。私が金管アンサンブル・フロイデを立ち上げたのは、収入を増やすためなんだ。それは息子の養育費の事を考えてだ。今はまだ準備段階でお金にはならないけどな。即、副収入が得られる仕事ってないかな?」


 俺に聞くなっつうの。俺はまだドイツにきて8か月だぞ。まあそれでも一応、思いついた事を話してみた。一つは音楽室の貸し出しをもっと増やす事、一つは俺の下宿代+レッスン代を値上げする事だ。こっちは言いたくなかったけど、世話になってる家が破産したらどうしようもないからな。


「それと、お酒の量を減らす。外で飲まない。くらいかな」


 そう言って、アツアツのブラックコーヒーをカップに入れ、クラウスに渡した。彼は夜中に強い酒をしこたま飲んだらしく、息がまだ酒臭い。今日は休養日だからいいけどね。


 クラウスは、音楽室の貸し出しを増やす事にしたようだ。”外で飲まない”は、回数を減らすくらいで勘弁してほしいと。俺の下宿代アップは却下された。その分、料理をもっと作ってほしいとの事。いや~~俺の作る”ただ茹でるだけ・焼くだけ”のを”料理”というのも、おこがましいんだけど。


*** *** *** *** **** ****


 本選まで、エドとの練習は、彼の音楽室でする事になった。後、1週間とちょっと。

練習にも熱が入り、ちょくちょくエドと話し合いになる。曲はアルチュニアンダンスとLモーツァルトのトランペット協奏曲だけど、モーツァルトの曲のほうで、たびたびとん挫する。

アルチュニアンは、エドと息もピッタリあうんだけどな。


「カイト、この曲の作曲者、あのモーツァルトと勘違いしてないよな?」

「まさか。この曲は、Lモーツァルト、モーツァルトの父親レオポルドの曲なのは常識」

「じゃあもっと、音色を考えた方がいい。余計なお世話かもしれないけど、モーツアルトの曲より、もっと地味でお堅い曲なんだ。」


 ちなみに、アマデウスのほうのモーツァルトは、トランペット協奏曲もあるらしいが、楽譜が見つかってないそうだ。


「ところで、この間から気になってるが、Lモーツァルトの曲の時だけ、カイトはたまに、心が抜けてる時がある。俺の伴奏に疑問があるなら、ちゃんとその場で言ってくれ。それとも、この曲に、彼女に振られたとか悲しい思い出があるとか?」


 いやいやいや、Lモーツァルトの曲で悲しい思い出なんかないから。ただ、ハイドンの協奏曲を演奏した時のセリナちゃんの伴奏をチラっと思い出すんだ。俺はエドにセリナちゃんの事を告白した。そして彼女は日コンで2次予選通過し、今日は3次予選の最中だと。


「これはこれは、ごちそうさまだな。だけどカイト、その日コンやらに出て、3次予選まできたのなら、彼女、勇者になってるかもな。ピアノのコンクールで大人数の激戦の中、3次まで勝ち残って来たのだから、精神的に相当タフになってる。優勝なんかしちゃったら、カイトとは格差恋人になって捨てられたりして、ははは」


 くっそうー、エドのやつ面白がりやがって。でも、でも、ある面、エドのいう事もわかる。

あの康子師匠の下での猛特訓だ。それも準備期間が短い。タフな精神でないと乗り切れないかも。彼女からのメールではあまり感じないんだけどな。もし向こうのほうが先にプロで自立したら...俺は恥ずかしくて、セリナちゃんと一緒にいられないかも。


 いやな未来図を打ち消すために、俺はそれまで以上に必死に練習した。


 セリナちゃんは、本選出場が決まった。すぐ、おめでとうメールを送った。かえってきた返事では、今も猛練習中だとか。本選の曲はラヴェルの”ピアノ協奏曲”。健人によると技巧的に難しい曲なんだそうだ。彼女はフランスものが得意と自分でも言ってたのに、今の時期で猛特訓とは...予選も結構ギリギリで間に合わせたのかも。


*** *** *** *** *** *** *** ***


 本選では、10人中4番目になった。尻込みするエドにまたクジをひいてもらった。前に1番のクジを引いた事がトラウマになっても、困る。


 本選が始まった。あと10分でリハーサルが始まる。本番は2曲という事で、1曲弾き10人全員終わったところで休憩(審査員も疲れるだろうし)、そのあと2曲目を演奏する。


 控室にやってくると、今度は、ノンビリムードのコンテスタントもいる。開き直ったからなのだろうか?ヨゼフが控室にやってきた。前回、仲良くなったヨンスも一緒だ。


「Hi!ヨゼフ、ヨンス。今日は何番目になった?」

「今度は、私が10番目。最後になった。」

「僕は8番目。最後に演奏するのも、いいメンタルトレーニングになった。ヨンスは大丈夫そうだけどね。カイトは?」


 俺は4番目だ。”リラックスしてるコンテスタントもいるのが少し不思議だ”と持参のコーヒーを3人で飲みながら、鉄のメンタルを持つやつもいるだろうとのヨンスの意見。


「ああそれは、ある噂が流れてるんだ。カイトもヨンスも知らないだろうけど。このコンクールは、入賞者の人数が決まってないんだ。」


 ヨンスは”ええ!”って目を見開いて驚いてる。俺はクラウス先生から聞いてたけど。


「例年、2人程度は入賞してオケをバックに演奏するんだけど、今年は一人になるか、もしかして誰も入賞しないかもって。このコンクールは音楽祭もかねてるし、プログラムの関係らしいよ。ま、入賞してもしなくても、演奏すれば”バイエルン音楽コンクール・ファイナリスト”の肩書は貰えるからね。」


「なにそれ!!」

ヨンスがヨゼフの肩をつかんで詰め寄った。彼に八つ当たりしてもしょうがないじゃないか。


「クラウス先生から、俺も聞いた。順位をつけないって。ただ例年、入賞者が二人くらい出て、オケをバックに演奏させてもらえるって聞いたけど、今年は望み薄か」


「うん、来年にはコンクールのやり方自体変わるみたいだ。管楽器はその年によってコンクールがない時も出来るとか」


 よくわかる。日本にいるときもそうだったけど、毎年、トランペットだけのコンクールなんてすごく少ない。日コンだって3年に1度、順番がまわってくるだけだ。


「ファイト、ヨンス。これは噂であって、本当の事は事務局しか知らない。」


「だな。プログラム次第で入賞者数が変わるのなら、案外、演奏する曲によっても左右されるって事もありだ。入賞=優勝 ではないって事な。入賞し演奏できればいい経験になるけど。」


 多くの応募者の中から最後に残ったのが名誉。それ以上はない。その事を思い知らされると、俺は随分と気が楽になった。本選までの間、気を張っていたけど、まだ俺には出るコンクールがある、そしてプロになるという難問はその後なんだ。


 本選では、俺は可もなく不可もなくの演奏だったかもしれない。Lモーツァルトの曲を演奏する時には、当時の街並みや宮廷の中を想像しながら。アルチュニアンダンスの時は、聞いてる人を踊りに誘うように、楽しくげに演奏した。


 結果は入賞者0.噂は本当だったんだ。仕方ない、こういうシステムなのだから。ヨンスとヨゼフと、ベルリンでのコンクールでの再会を確認して、俺は会場を出ようとした所、肩を叩かれた。


「君、もしかして、カイト・シンドウ?」


 ええと、確かバウワーさんだったかな。オルガニストの青井 優が、ミュンヘンの教会で演奏会で弾く事になった時、俺は優をなんだかんだと面倒を見る事になった。その時にお世話になった人だった。


「お久しぶりです。あの時はご面倒かけました。バウワーさん」

「新進のトランペッターに会えてうれしいよ。私は今、フランクフルトの教会で事務方の仕事をしてるんだ。メールであとで正式にお願いするけど、カイト君、ピッコロトランペットは吹けるよね。演奏会でエキストラで演奏してくれないかな。フランクフルトの教会でなんだけど」


 それは何月何日で、曲はなに?と確かめる前に、舞い上がってしまって”よろしくお願いします”と答えてしまった。ベルリンのコンクールと重なったらどうするんだ?俺。


 






 

週一更新 (日曜日午前1時~2時)


先週、アップしたものの、誤字のオンパレード^^;すみませんです。すぐ直しました。内容は変わってません・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ