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やっぱりまだ居た

 次の日の朝、通勤電車に揺られながら、片山は考えていた。


 もしかしたら、奥田係長は自宅で今朝までの間に、鼻毛が出ていると気付いたりはしていないだろうか?


 彼が家族の誰かに指摘され、鼻毛の事に気付くと言うのは、充分可能性がある。


 奥田係長には、妻も子供もいたはずだ。だとしたら、家族に指摘された奥田係長は、鼻毛を既に抜いているかも知れない。


 そんな事を考えた片山は、出社したらまず最初にあの鼻毛、直美子をチェックしよう……そう決意した。


 さて、出社して席に着いていると、果たして奥田係長も少し遅れてやって来た。


 少し急ぎ足でやって来て、慌ただしく席に着く奥田係長の鼻を注目していた片山は、そこに昨日と変わらぬ姿で佇む直美子を発見した。


(ふう……居たか……。全く、直美子め……今日も俺を困らせるっていうのか……)


 鼻毛の直美子を見つけ、苦々しいような、また会えて嬉しいような、何やら複雑な気持ちになった片山は、奥田係長を見つめた。


 今日は少し家を出るのが遅かったのか、彼はいつもより少し遅く出社して来た。ここまでの途中の階段で走ったのか、少し息が荒い。出社時刻には間に合っていたが、三分前であったので、片山の感覚からすれば、割とギリギリの時間に出社して来たと言えた。


 朝はもっと時間に余裕を持って行動しなければならないというのに、そんな事だから昨日の鼻毛がそのまま残っているのだ……と片山は思った。


 奥田係長は、割と仕事は出来る男であると、片山は心の中で評価していた。


 しかし、ことこの鼻毛に関しては、いただけない。


 そもそも、奥田係長の妻や子供は、何故夫、又は父親の鼻毛に気付かないのか?


 もしかして、夫婦の会話が足りないのでは無いのか?


 子供との時間を取れてないのでは無いか?


 そこの所は、一体どうなっているんだ? 家庭は大丈夫なのか?


 奥田よ……お前が係長でくすぶっているのは、そういうとこだぞ……


 片山は、部下でありながら、そのような事を一人で考えていた。


 少し小太りではありながら、愛嬌のある感じがする奥田係長は、息を整えて仕事の準備を始めた。


 鼻毛の直美子も、奥田係長の左の鼻の穴で、元気にふるふると奥田係長の呼吸に合わせ、動いている。


(はぁ……あの動き、あの動きだ……今日も俺は、あの動きから目が離せないと言うのかっ……)


 どうしても見てしまうあの鼻毛の動きを、今日も朝から見せつけられた片山は、他の人には分からないほど小さく、ため息をついたのであった。


 そして、その後にすぐ始まった、毎日の恒例である朝礼の時に、それは起こったのである。

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