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夜も気にしている片山

 その夜、片山は布団の中で眠れずにいた。


 片山の隣に敷いてある布団では、妻である直美が、気持ち良さそうな寝息を立てて眠っていた。


 床についたのは、午後11時くらいだったな……と、片山は思い、手元の目覚し時計を見ると、時刻は既に夜中を過ぎていた。


 普段の片山ならば、布団に入れば10分程ですぐに寝付くのであるから、今日のこの状況は、どう見ても明らかにおかしかった。


(くっ……あの鼻毛のせいで……)


 片山は、布団を頭までかけると、無理に目をつぶった。


「鼻毛……あの鼻毛……っ……くそっ……憎い、あの鼻毛が憎い……! あの……)


 安眠を妨げるあの鼻毛が、片山に取って忌々しくなり、さらに憎くも思い始めていた矢先、片山はある事を思った。


 これほど憎いあの鼻毛であるが、そういえば鼻毛、鼻毛と言うだけで、名前がまだ付いていない。


 例えばゲームの場合だと、あのくらいの大物ならば、必ず名前が付いている。ましてやあの鼻毛は言ってしまえばあの鼻のぬしとも言える存在。名前が付いていないのはおかしい。


 ふと、そう思い立った片山は、あの鼻毛に名前を付けようと考えた。そうすれば、何となく少しは愛着というものも湧いてくるかもしれないとも片山は思った。愛着が湧けば、あの鼻毛に対してもう少し自分は優しくなれるのではないか……そのように、片山は考えたのだ。


 布団の中で、片山はあの鼻毛の名前を考え続けた。


 ビッグ・ジョー、ブラックナイト、鼻毛太夫、ミスタークロビカリ……色々な名前が片山の頭に浮かんだが、どれもしっくりとは来ず、片山はこれでは余計眠れないと焦り始めた。


 ふと、隣を見ると、直美は相変わらず気持ち良さそうに眠っており、静かな寝息がリズミカルに聞こえてくる。


 こっちは一生懸命考えているのに、この愛すべき妻はすやすやと眠りやがって……と、片山は思った。


 直美をくすぐって起こしてやろうか……とも一瞬考えた片山であったが、そんな事をしても良いことは全くないのて、それは取りやめにした。


 代わりに片山は、腹いせにあの鼻毛の事を直美と呼ぶことに決めた。


 が、少し考え、さすがに鼻毛にそのまま妻の名前を付けるのも悪いような気がしてきた片山は、ならば少し変えた名前にしようと思い、結局あの鼻毛の事を、直美子なおみこと呼ぶことにした。


 そしてこの時、あの鼻毛の性別も女と言うか、メスと言うか、とにかく雌雄で言うなら雌であると決めた。


 今まで、何となくあの鼻毛を男として扱ってきた片山は、自分の発送の転換から生まれた、この直美子と言う名前を気に入った。


「ふっ……」


 あの鼻毛が女だと思うと、不思議とそれに振り回されるのも悪くないと思い始める片山がいた。


 また明日も振り回されるってのか……やれやれだ……


 そう思っていた片山は、いつの間にか眠ってしまっていたのであった。

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